狼のガブを演じるのは中村獅童さん。私は獅童さんを拝見するのは今回が初めて。
なるほど、こんなお芝居をされる方なんですね!
体格が良くて、迫力のあるお芝居と、ガブの純粋で正直でちょっと自信のないところがバランスよく出ているなあという印象を受けました。
物語の終盤で、ガブが記憶を失いメイのことが分からなくなる場面。
舌を真っ赤に染めるという、歌舞伎ならではの手法で、ガブが正気でないことを表現されていました。ガブの恐ろしい狼の表情を見て、あの優しいガブが?と怖いと感じると同時に、悲しく辛くなる場面でした。
メイの「こんなことになるならあらしのよるに出会わなければよかった!」のセリフで我に返るガブ。今思い出していても胸がキュッとなる・・
壱太郎さんのメイはね、とっても可愛い。
壱太郎さんは、小柄な方ではないと思うのですが、え?こんなに小さくなれるの?と不思議に思うほど、小さくて可愛いメイでした。
メイは男の子なのか女の子なのか、性別をハッキリと表現されません。
ガブとメイの友情の意味をより深く考え、自分なりの答えを出すように、この作品を観た観客に答えを委ねてくれているのでしょう。
と、思いつつ。
壱太郎さんのメイは、可愛いだけでなくて色っぽいんですよね。にじみ出るものを感じてしまうんです。こんなの私だけかもしれませんが。^_^;
ふたりが雪の中を逃げる場面などは、梅川忠兵衛かと。
メイが死を覚悟して、ガブに自分を「食べろ」と言う場面の、親友のために自己犠牲を厭わない場面も・・。私は純粋無垢な眼で観ることができず、ちょっとドキドキ。心が汚れていてすみません、と思ったのでした。
「あらしのよるに」は、歌舞伎の世界と絵本の世界が、違和感なく融合していました。再演を重ねて練り上げてきたものを感じました。
お姫様の、天女の様に優雅な姿、上品な仕草、美麗な着物と髪飾り。
ガブの親友を「美味しそう」と思ってしまう心の迷いを語る義太夫と三味線。
途切れなく演奏される鳴り物。
付け打ち。
幼い子どもさんが喜びそうな楽しい場面もたくさんあります。
(ハクの発明品には目が点になりました)
笑って泣いて感動して、「友情」「自分を信じる」「世界のどこかで起こっていること」・・・を、考える舞台でした。
歌舞伎「あらしのよるに」は、大人も子どもも楽しめる古典芸能歌舞伎の新作として、後世に残る名作になるのでしょう。
一見の価値大いにあり。