【マフィア企画】やっと、振り切れそうだ。【文章】 | あたしの海にさよならを

あたしの海にさよならを

あなたはあたしのすべてだったの。 だからさようなら。 さよなら、あたしの海。

真実というものは時に残酷であり、逃避を辞さない場面も多々あるだろう。だがそこで振り返って了えば、永遠に前に進めなくなってしまう場合もある。



ーーそれはきっと、振り返る蛇の



KOOLブーストがなかったため、仕方なしにMarlboroライトメンソールを吸っているのだが、やはりメンソールが弱く、少々の物足りなさを感じる。肺に溜まった煙を全て吐き出し、空を仰ぐ。やはり我が故郷ーー正確な故郷は日本なのだが、心はいつだってここにあった。ーーアメリカの空は若干濁っているくらいで良いといつも思う。そんな下らない思考を振り払うように、D.D.は高級靴の踵を鳴らしながら、しゃっきりと道を踏みしめ歩いていた。ニューヨークの街並は目も眩む速さで稼働していて、時代に取り残された感覚に陥る。何故CS本部があったシカゴではなくニューヨークに彼が居るのかというと、彼の【副業】の本社がここにあるためである。D.D.はいくつもの顔を持っていた。企業の社長の顔をする時もあれば、マフィアの幹部の顔をする時もある、時にはテロリストとして暗躍した時もあった。D.D.は気味の悪い程に、己を持たぬ男であったのだ、【ケルベロスに所属するまでは】。かの組織の創設者はとても奇怪な男で、常にD.D.
の想像の斜め上を走っていた。己の我の侭に進み、酷く脱線をし、欲の満ちるまで好き勝手にやってのける。そしてそれが赦される男なのだ。その性質を羨んだ事もあったものだ、D.D.はその【元】上司との記憶を思い出し、一笑した。彼は今何をしているのだろう。

「…今更、未練たらしいかなぁー?でも好きだったんだろうねぇー、あそこが。」

あの空気が好きだった。規則に縛られず、たったひとつしかない最低限のルールさえ守っていれば何をしても赦される、そんな環境で過ごす事が新鮮で、何よりも楽しかったのだ。もう戻れないその場所を思う。そう、彼はもうあの場所には戻れないのだ。

「…プロを雇われたんじゃぁー…僕は近寄れないもんねぇー」

ケルベロスは稼働している。それを知った時はとても喜んだものだ。いつも通りの日常に戻れるのではないかと。またあの日々に帰れるのではないかと。だが、どうやらそうはいかないらしい。「仕事の質がケルベロスにしては異様な精度で完遂されている」。しかもそれはヨーロッパ圏内のみでだ。普段のケルベロスといえばトップがアレであるせいか、どことなく抜けていたり派手に動き回りすぎて悪目立ちする節があったのだが、ヨーロッパ圏内で行われたであろう仕事にはそれが見当たらないのだ。静かに、確実に遂行されていた。それもケルベロス名義で、である。ジキルにそんな器用な真似が出来る訳がない。かといってベネディクトやセールイの所業でもないであろう事は把握していた。彼等の行動はある程度自分で見ていたのだから。となると、ケルベロスがプロを雇ったとしか考えられなかった。しかも腕前はかなりのものだろうと推測できる。

「普通ならそこそこの証拠は残してるんだよねー。ウチ割と馬鹿ばっかだから。それがないとなると、ホントに僕見つかっちゃいそうだしぃー」

名を売るという名目だか、はたまた只のボケだか。判断はつかないが、過去のケルベロスはそういう組織なのだ。だが、その謎の新規メンバーは完全に個人を特定できないやり方をしていた。となると、情報隠蔽、或いは情報操作全般においてもそれなりの力を発揮しているのだ。程度は解らないがプロである事は確実、仮に自分のヘマを見つけられようものならば、戦闘員には向いていない自分には最悪のシナリオが目に見えている。心配の種はこれだけではない。いつもの間延びしたアメリカ英語で、しずかに、それでいて忌々しげに呟く。

「…レデイカーニ…。全く、気味の悪い事してくるねぇー…」

Re dei Cani。かの大型組織が彼を深追いしない事に疑問を抱いていた。あの組織であれば、死骸を見つけるまで執念く付き纏い人格破綻させるまで精神的に・肉体的に追い詰めるくらいはしそうなものを。恐らくD.D.に未だ何かしらの利用価値を見出しているのだろうか。或いは、血の繋がりのない弟への脅迫道具として利用されているのだろうか。後者はまず有り得ないと頭を振る。其れは自分を恐怖の対象としてしか見ていないのだ。人混みに揉まれながら、アメリカ人にしては細すぎるその男は、思考を続けながら毅然と歩みを進める。色眼鏡をかけ、ハットを深々と被っており、髪も栗色の鬘をつけているせいか、一見するとD.D.を知る者がそれを彼と特定する事ができない。彼はどこにでもいるような男性という振る舞いで大通りを歩いていた。そして街の雑踏に掻き消されてしまう程に小さな声で、独り言を呟く。

「…仮に彼等の所に居られたとしても、今じゃぁもう迷惑しかかけられないかなぁー」

自業自得。今の彼の内を示す最良の言葉。しかし、彼はどうしても忘れられなかったのだ。かの若き友人を。かの楽しい時間を。未練たらしく繋げた首輪が己の首を締め付けてじわじわと自分自身を殺していく。あのまま蛇で居られたならどれだけ良かっただろう。あのまま彼を見殺しにしていればどれだけ楽になれただろう。過ぎた事を考えてももう覆すこと等不可能であるというのに、それはいつだって過去に縛られていた。ずっと、ずっと。忘れて了えば楽なのであろう、だがこの糞のような脳は忘れる事を拒み続けるのだ。楽しい記憶が風化しない、しかし苦しい記憶も鮮明に映る。今では楽しかった思い出さえも苦痛へと容貌を変え、己の首を締める要因へと成り下がった。

「   」

踵の音が止んで、一人しか居ない部屋に静寂が訪れた。気付けば喧しい程の人の声もなく、目の前には簡素な家の一室があった。いつの間に家路についていたのだろう、思い出せない、それほど迄に深く、愛しい過去に思いを馳せていたというのか。嘲笑、乾き切った笑みしか溢れず、耳障りな笑い声が白壁に谺した。

(嗚呼こんなにも在りし日の私を愛していたとは)

声にならない声が床に染み付いて、

(馬鹿みたいだ)

誰にも聞かれることのない呻き声が内耳を掻き回し、

「どうか、彼等の無事だけを祈ろうか」

やっと出た声は酷く枯れて、己を虚で覆い隠し、

「どうか、お元気で。」

右手の人差し指にかけたトリガーをゆっくりと引いた。




最近の拳銃というものは巧妙に造られており、ハンマーを左手親指で押さえながら右手で引金を引き、ゆっくりと撃鉄を倒すことで安全となる。暴発しないようにという工夫であるのだが、錯乱し切ったそれには、そんな簡単な事実さえも抜け落ちていたらしい、それ以上トリガーが引けない事に疑念を抱く事もなく、火薬の弾ける音も聞こえないまま、広く感じられる静かな部屋には小刻みに震える金属音だけが喧しく鳴り響いた。

(馬鹿みたいだ)

呟く声は細く、細く、

「ひとり、は、さみしいなあ」

静寂の中に雨が降る。


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空は彼の心境をそのまま映したように暗鬱と陰り、湿気を帯びた空気を引き連れていた。目の前にはちいさな施設。子供の嬌声が風に乗ってそれの耳に届く。その施設へと足を運ぶ。施設内の子供のひとりがそれに気付き、彼の名を呼んだ。

「あ!ダニーだ!ダニーが来たよ!」

黒い髪の少女が施設の奥へと走って行く。相変わらず元気だなあと感心しながら奥から出てくるであろう人を待った。案の定、かの元気な少女に引っ張られるように、ひとりの男性が現れた。

「…あ、ドク…。…ダニエル、さん」

この児童養護施設を管理している青年、マイクである。「ダニエル」と呼ばれた男は、少女に礼を言い、外で遊んでいるように伝える。少女はあとでかたぐるましてねと叫んだ後、元気に曇り空の下を駆けて行った。

「…アビゲイルは元気だねぇー」

ダニエルが先に口を開く。誰に似たんだか、と呟いたところで被せるようにマイクが話しかける。

「アビィは貴方の遺伝子を継いだ、しっかり者で快活なお嬢さんですよ。ドクター・ディクソン」

ダニエル=ディクソン、D.D.の過去の名を知る男は応接間へと彼を案内した。


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「彼女は元気にやっているようだねぇー」

出された珈琲を口に含みながらD.D.が話しかける。珈琲の香が室内を包む。外で楽しげに遊ぶ子供達を窓越しに見ながら、他愛もない会話を続ける。

「ええ、とても活発で愛らしい子ですよ。皆とも仲良くできる、気配りのできる子です。」

変な気起こさないでよー、と軽口が飛ぶ。そういう趣味はないと慌てて青年が返事をする。妙な空気が流れる。それを知ってか知らずか、空気を読まない男が口を開く。

「…毎回来る度に思うけど、あの子を引き取ってくれなんて無茶なお願いしてしまってごめんねぇー。」

間延びしたアメリカ英語が感謝と謝罪を述べ、長身が頭を下げる。やめてくださいと青年が言う。長身の肩を持ち、頭を上げるように促した。

「…ドクターに助けて頂いた命ですからね。ちゃんとしていないと貴方に怒られてしまうと日々勤しんでいますよ。」

長身がは顔をあげようとはしなかった。目の前の青年、マイクは以前【ダニエル】が命を救った男であった。未だに鮮明に覚えている。ダニエルにとって、処置を行うことは至極当然の事で特になにも感じる事もなく、ただ淡々と過ぎていく過去の事象としか思っていなかった。だが処置されたマイクという男には、当然としか思っていなかったその男に、まるでそれが奇跡を起こしたかのように驚き、感謝を述べた。そして自分にできる事があれば何でも、そう言うのである。当時は軽く聞き流していたが、後日その男に己の娘の世話を頼んだ。当時の彼女はまだ生まれて数月、親の顔など覚えていなかった。先程アビィが実父を他人のように【ダニー】などと愛称で呼んだのはそのためである。

「…貴方に生かされた命です、彼女の事も任されましたし、もっと頑張ってみようと思います。」

は、と【ウロボロス】が頭を上げた。己の命も、ハスキーに助けられていた事を思い出したのだ。死ぬ事が怖くはなかったそれが先程の自害を躊躇い、怯んだ理由が漸く解った。ひとに命を拾って貰ったという後悔と感謝の念、それが己の思考を停止させていたのだ。何れ来るであろう死自体への畏れは無かった、しかし借金をしたままでは後味が悪いのだ。受けた恩をきっちりと返してからにしよう。それに。

「…アビゲイルの事、これからも宜しくね」

娘が居る。あの子はそれを親とは知らない。だが、「よく遊びに来るおじさん」とは認識しているだろう。知った顔が久しく会いに来ないのはとても寂しい事だ。彼女にそんな思いはなるだけさせたくない。こじつけのように生きる理由を見つけた、瞬間、視界が明るくなったような気がした。事実、窓の外を眺めると、雲間から光が差していた。己の心境を反映する空に一笑、いつもの捻た笑みを浮かべ、青年に己の娘の将来を任せた。

「…また、何かなさるのですね。」

神妙な面持ちでD.D.を見やる。それはにやついたまま視線を離そうとしない。恐らくはYESの意であろう、翠の瞳は不快になる程にぎらぎらと燃えていた。

「…勿論です、アビィのことはお任せください。ああ、ですがこちらも経営難になってしまいますので、しっかりとお金は頂戴しますけどね。」

軽口を叩く。それが【ウロボロス】の背中を押したのだろう、これ以上お金あげたら君が豪遊するでしょう、等と軽口を返せるまでにそれは元の様相を取り戻していた。それはにやりと笑い、小さな施設をあとにする。

「あ、ダニー!もう帰るの?遊んでくれないの?」

少女は無邪気に実父に話しかけた。彼はしゃがみ、彼女の視線の高さに合わせる。少し悪戯っぽく尋ねるその笑顔はとても彼女の母親に似ていて、

「うんちょっとやる事できちゃってねぇー。ごめんねぇー、今度遊んであげるからぁー。」
「ほんとに?ダニーうそつきだから!こないだだって遊んでくれるって言っていつのまにか帰ってたじゃん!」
「そうだっけぇー?ごめんごめん、じゃあ今度ここに来た時はアビィの欲しいものを買ってきてあげようかぁー」
「だめ!わたしのだけじゃ!みんなのぶんも!」
「えぇー?おじさんのお財布からお金なくなっちゃうよー」
「ダニーがうそつくからいけないのです!はい!私とやくそく!」

どこで覚えたのだろうか、彼女は右手の小指をすっと差し出した。それは日本ーーD.D.の生まれた地であるーーかの地では一般的な約束の願掛けであった。何故彼女がこれを知っているのだろうか、マイクが教えたのだろうか。そんな事をぼうと考えていると目の前の茶色の瞳の少女が右手をぐいと出し直して催促をする。果たして自分はどこまでこの子の成長を見守れるだろうか。琥珀色の瞳が不機嫌を映し始めたところで、彼も右手小指を出し、彼女のちいさなそれに引っ掛けた。流石に指切りの文句は知らなかったのか、少女はそれを目視で確認して、にいと無邪気な笑顔を見せた。

「はい、約束しましたぁー。」
「ほんとだからね!やくそくしたからね!じゃあまたね!」

そうして踵を返し、まるでポニーが跳ねるように施設の友達のところに駆けて行った。それを見送ってから、立ち上がり、空を見上げて、

「…うん、またね。」

己に言い聞かせるように、しずかに、晴れ空のもとにやくそくをした。


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かつん、かつんとヒイルが鳴る。

「もうすこしだけ、頑張るしかないかな」

さらり、さらりと髪の毛が靡く。

「…彼等のもとには帰れないけれども」

かちゃり、かちゃり、機材が重なり合う音がする。

「それでも、彼等の手伝いが出来ればいいかな」

ぎい、ぎい、椅子が動いて

「もし、彼等に逢えるなら。その時は…、なんてね」

しゃらん。

「さて。情報屋兼フリードクター開業ーっと。」

ひとりが怖い蛇は、またたったひとりで、蠢き始める。



  ーーそれはきっと、振り返る蛇の辿るメビウスの輪



二度と脱却できないループを、ぐるぐる、ぐるぐると。







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(*´∀`*)←



※ほそく※


これからウロは、ウロボロス名義でフリードクター兼ディーラーとしてまったりゆったり兼業活動していきます(*´∀`*)
CSの皆は大好きなんだけど、皆のいないCSなんてCSじゃない精神とクオたんマジこええが働いて、戻りたくても戻れません/(^o^)\←←←
なのでせめて大好きだったCSの皆が無事に動けるように影で色々と工作してったりします(*´∀`*)多分精度はかなり高いから情報は漏れないです。
尚、現在は脇腹の銃創も癒えて/やることもできて、ウロとしてもう完全復活してます(*´∀`*)軽口も叩けるよ!

多分寂しくなったらCSの皆に電話かけたりしちゃうけど無視していいのよ!(*´∀`*)うざいって言って  まあ真意は生存確認と位置特定なんですけどねー(*´∀`*)←

娘はアビゲイルって言います(*´∀`*)ちなみにアビィってのはダビデがパクったわけでなく完全に偶然です(`・ω・´)キリッ←←←
黒髪に茶眼です。どちらかといえば顔立ちはぱぱんの幼少期に似てます。どうでもいいです。
孤児院暮らしです。そこの経営費用の大半はうろが出してます。金持ちです。(`・ω・´)キリッ←
モブのマイクさんは元から児童養護施設のひとでした(*´∀`*)モブェ…←

だいたいこんなとこでしょうか。ねむい。←
もしイミフってとこがございましたらお気軽に罵ってくだしあ(*´∀`*)←