春風亭昇太さんらフォーラムを盛り上げた登壇者の皆さん
2017年8月20日(日)、横浜市港北区城郷小机地区センターにて、約300人が参加して小机城フォーラム2017が開催されました。中世の山城、小机城が2017年4月に日本城郭協会から「続日本100名城」に選定されたことを記念してのイベントです。神奈川県では小田原城が「日本100名城」(2006年)に選定されているものの、横浜市では初の快挙となりました。
大規模&手作り&スピード開催の地域イベント
この選定からわずか4ヶ月、実質準備期間2か月で開催となった小机城フォーラム2017。このイベントの特徴は何といっても、横浜市港北図書館を起点として、区内の各種団体、行政、企業などが、まちの歴史資源を愛し活かすべく連携して作り上げたことといえます。そこには地域の人の繋がりが紡ぎ出すパワーがありました。盛りだくさんだったイベントの様子をレポートします。
JR小机駅改札口正面では、手作りの案内表示がお出迎え
当日の朝から続々と集まったボランティアスタッフの皆さんの力がうかがえます
移動図書館「はまかぜ号」
夏休みということもあり、フォーラム会場の横では「戦国時代体験夏休み親子ひろば」も開催。それに合わせて、駅前ロータリーには3000冊の蔵書を携えて横浜市移動図書館「はまかぜ号」が特別に開館。お城や戦国関連の本もあり、その場で図書カードを作ることもできるようにスタンバイしていました。
早速立ち寄っていた親子連。お母さんは「子どもたちは本が大好きなんですが、港北図書館が自宅から遠くなかなか行かれないのが残念です。今日はここで本が借りられるのですね」と喜んでいらっしゃいました。
戦国体験夏休み親子ひろば
「戦国体験夏休み親子ひろば」では、戦国時代を体験できるコーナーや戦国グッズ販売、飲食物の屋台のほか港北昔ばなし紙芝居の会「たまてばこ」による上演も行われました。
この日、「たまてばこ」は本邦初公開の小机城の紙芝居2作品も上演
小机城フォーラム2017~小机城復活!港北区の歴史と魅力再発見~
賑やかにに盛り上がる親子ひろばを後にしてフォーラム会場の横浜市城郷小机地区センターへ。よく見るとこの建物も随所にお城風の装飾が。皆さん気付かれたでしょうか?
小机駅から徒歩1分!こんなに素敵な地区センターがあるなんて、地域の人が羨ましい
第1部 小机に城がないなんて言わないで 春風亭昇太師匠×二宮博志
第1部は芸能界きってのお城好きとして知られる落語家春風亭昇太さんと、港北区日吉にあるパートナー産業㈱代表取締役で城郭復元にも力を注ぐお城ジオラマ「城ラマ」マイスターの二宮博志さんによるトークセッション。登壇するなり、舞台が低く、後ろの席の人には二人の姿が見えないだろうとのおふたりの配慮から急遽立ったままのトークとなりました。
お城愛あふれる軽妙な掛け合いに会場も華やぎリラックスした雰囲気になっていきます。全国の名だたる城をスライドを観ながら解説。小机城について昇太さんは「駅から徒歩で行かれるので観やすいし、中世の城の雰囲気が残っている素晴らしい城」とその印象を語り、「ぜひ発掘調査を進めてほしいですね」とアドバイス。「小机城の魅力を発信する前にまず地元の人がいかに好きか、知るかが大切。そしてそれを子どもたちにきちんと伝えていくこと。それが自分の街を好きになる材料になるんです。城を通しての地域づくりやまちの発展になると思います」と力強い言葉で語られました。
地域づくりには遊び心が大事
第2部は岐阜県可児(かに)市教育委員会学芸員の長沼毅さんが登場。城跡整備・活用に積極的かつ斬新に取り組む、知る人ぞ知る地域活性化を実践している行政マン。たった3人の史跡ガイドからスタートした取り組みが、今ではまちの多世代がかかわる様々な観光イベントの開催などに発展しています。
駅から歩いて行かれる立地の小机城を「羨ましい」といい、可児市の取り組み成功のコツは「その気にさせる、お金を出させる」などと、ユーモラスに語る長沼さん。「山城を活用した地域づくり事業には楽しさややりがいといった、遊び心が大事」とのことばに、会場では勇気づけられて頷く人の姿も見受けられました。
第3部 座談会「小机城のある街、魅力と展望」
地域の、地球の未来を考える拠点がここにある
座談会は港北区にある大倉精神文化研究所・平井誠二所長の司会のもと、防後優子さん(城郷小机地区連合町内会長・小机城址まつり実行委員会委員長)、宮本正義さん(小机商店街協同組合理事長)、金子和夫さん(篠原城と緑を守る会副会長)、臼井義幸さん(鶴見川舟運復活プロジェクト世話人)、岸由二さん(NPO法人鶴見川流域ネットワーキング代表・慶応義塾大学名誉教授)、地域で活躍されている団体の代表者で行われました。
各団体の活動内容の紹介と今後の展望について意見が交わされ、「自然もスタジアムもあるこのまちに若い人たちが興味を持って盛り上げてほしい、子どもたちに小机城を好きになってもらいたい」「商店街の活性化を進めたい」といった思いや「小机城と篠原城の見学ツアー」「小机河岸の散策」「小机城の歴史や自然、スタジアム、鶴見川の防災拠点もあり、ツーリズムも可能」などさまざまなアイディアも提案されました。「地域の交通や産業に対して果たしてきた山城の役割は、昨今の頻発する水害対策にも生かせる」との岸さんのお話から、最後は平井さんの「このまちが地域の安心安全を考える拠点であり、ひいては地球の未来を考えるひとつの視点ともなりうる」とのまとめで終了しました。
大抽選会
最後は大抽選会。本日の登壇者や協力企業等からの景品が、横浜繊維振興会のスカーフ親善大使(お二人とも港北区出身者)や横山日出夫区長による抽選で参加者の手に。豪華な景品の数々に、会場は大いに盛り上がりました。
閉会の挨拶をする城郷小机地区連合町内会長・小机城址まつり実行委員会委員長・防護優子さん
取材を終えて
小机城が続日本の100名城に選ばれてから、わずか4か月で盛大なイベント開催とはいうものの、2年余り前に港北図書館・港北区役所が区内の事業者であり城郭復元マイスターである二宮博志さんと出会ってから、さらに言えば港北図書館長・木下豊さんが2015年4月、館長に就任してからつながり始めた地域の力があってこそ可能だった小机城フォーラム。
どんなまちにもさまざまな思いで、さまざまな活動をしている人がいて団体や企業があります。しかしながら、ちょっとした軸の違いで互いに知り合う機会がないことも多いのが現実です。図書館はだれでも利用でき、あらゆることが調べられ、郷土資料の宝庫でもあり、地域の人同士の交流も可能です。「何もない」なんて思わず、自分の住むまちを知ること、それを若い世代に伝えること、楽しむこと。それが岐阜県可児市や春風亭昇太さんにまでつながることもあるのですから。そんな起点に図書館をぜひ使いたいものです。
長沼さんが「全国には3~4万の山城があり、いろんな角度で連携できるし、広域でコラボもできる」と訴えていました。小机城フォーラム2017が今後どう発展していくのかも楽しみです。
取材/安木由美子