これからの図書館を考えるヒントがここに!~1年間で入館者数5%UP!横浜市港北図書館の取り組み~ | 図書館利用促進プロジェクト横浜・鎌倉版

図書館利用促進プロジェクト横浜・鎌倉版

永遠に残していかなければならない人類の知的所産「図書」。
さまざまな図書が集積する「図書館」のあり方が
近年、著しく変貌を遂げています。
図書館の魅力を再発見!
それが「図書館利用促進プロジェクト」の狙いです。

 

図書館の役割や利用価値を幅広い世代へメッセージとして届けることを目的に2014年12月に設立したNPO法人夢ラボ・図書館ネットワークは、このブログ「図書館利用促進プロジェクト」において東京近郊の公共図書館の紹介を続けています。

 

横浜・鎌倉版を担当している筆者ですが、昨年、横浜市港北図書館(木下豊館長)を数回取材訪問し、2015年10月9日掲載記事の最後に「今後の港北図書館の活躍から目が離せない」と書かせていただきました。その後も港北図書館はじめ市内図書館の動きを追ってきましたが、この7月に横浜市中央図書館ホームページで公開された横浜市立図書館年報2016のデータを見て、私の予想以上にこの図書館が一年間で飛躍的な実績を上げていることがわかりました

 

 

平成27年度の主要5部門の伸び率

 

全市的に市民の読書活動指標データが横ばいの中、港北図書館は入館者数、貸出利用者数、貸出冊数、レファレンス件数の対前年度伸び率が、いずれも市内18図書館中トップ。入館者数は18館平均が0.59%増のところ、その8倍以上の4.94%増。レファレンス件数に至っては平均伸び率0.5%のところを32.3増でした。またホームページアクセス数でも市内平均の2.5倍の伸びを示しています。

 

対前年伸び率()

入館者数

貸出利用者数

貸出冊数

レファレンス件数

HPアクセス数

港北図書館

104.94

105.20

104.58

132.3

124.18

 市内18館平均

100.59

100.97

101.15

100.5

109.84

 

全国的に図書館利用が低調傾向にあると言われる中で、対前年度比を一年間でこれほど伸ばしている図書館は、全国約3300の公共図書館の中でも、ほとんど例を見ない快挙ではないでしょうか。

人口増傾向にある港北区ですが、一年間での増は0.9%程度。その環境において、入館者数等が前年度比約5%増というのは注目に値します。

この事実を受け、港北図書館には一体どのような利用促進上の秘訣があるのか、これまでの取材に加え電話取材を行い、まとめてみました。

昨今、指定管理運営への移行に揺れる全国の公共図書館の、今後の在り方や運営のヒントとして、このレポートを図書館関係者や図書館に関心のある方々に参考にしていただければ幸いです。

 

 

地域のプラットホームとしての図書館

 

昨年(2015年)4月の初めての訪問以来、開館35周年記念事業日の8月27日と10月の合計3回取材しての印象は、対応してくださった司書さんたちの仕事がスピーディーで熱意溢れ、溌剌としていること、また、4月に着任したばかりの木下館長が場を盛り上げ、周りをどんどん巻き込んで図書館の味方にしていく力があるということでした。

 

横浜市では平成26年度から図書館長が区役所の地域振興課読書活動推進担当課長を兼務しています。木下館長は、着任早々課長兼務のメリットと図書館の持つ情報力を活かし、地域や各種団体に出向いて図書館の事業周知を図るとともに、区職員と司書のそれぞれの持ち味を十分に発揮させ、港北昔ばなし紙芝居やまちライブラリーなどの活動を盛り上げ、ブランディング化を図っています。

さらに、地域の各機関、団体、NPOはじめ多様な主体、ボランティアグループとSNSやメーリングリストを活用してこまめに情報発信・情報共有を行い、ネットワークづくりを積極的に推進。様々な主体を味方にしたコラボ事業をタイムリーに展開し、ダイナミックに運営を行っています。こうした活動の結果が、平成27年度の伸び率に反映されたのではないでしょうか。それは木下館長が「図書館は地域のプラットホームになり得る」との信念のもと、行政、地域の縦割りに対して、自らが積極的に横のつながりの起点となった成果でもあるといえるでしょう。

 

 

新しい時代の図書館像

 

港北図書館の進めてきた様々な主体へのアウトリーチ、様々な団体とのWinWinによる事業展開は、この一年間実施して来た図書館事業()において、毎回、会場を満員にするなど大成功を収めており、その集客力は突出しています。

現在、全国的にその存在意義が問われ予算的にも苦境に立たされている図書館界にあって、こうした実績をあげた様々なノウハウ、事業展開手法は、全国の図書館界はもとより、今後、多くの分野で活用できるのではないかと思います。

 

一億総活躍社会といわれるこれからの時代、地域活動プラットホームづくりのコーディネーター的な役割の重要性がますます注目されると思われます。地域、行政、様々な団体とのしなやかな連携を進める木下館長のもとには、現在、市内外の機関、団体、個人から集客ノウハウや新事業企画のコツなどのアドバイスを求め数多くの相談が持ち込まれているそうです。さらに、3つの大学からこれまでの活動レポートの作成依頼が舞い込んでいるとのことで、私もこのレポート完成は注目しています。館長の了解がいただけたらこのブログでもご紹介したいと思います。

今後も港北図書館の動きには目が離せません。ここに新しい時代の図書館像が生まれつつある、そんな予感がします。

 

 

 

 

(*)平成27年度実施された図書館事業

 いずれも周囲を味方にし、ほとんど経費を伴わずに新規、タイムリーに企画・実施

 し、集客等に成功している事例。(主に筆者が直接参加し取材した事業)

          

1 平成27年8月27日(木)港北図書館開館35周年記念事業

 一日で6つのメニューを多様な主体とコラボして実施(図書館、港北図書館友の会、区役所の共催、菊名地区センター・港北まちカフェ「大倉山おへそ」の協力)、その中でも次の2事業は初企画でかつ多く集客。

①「祝35」人文字挑戦!メモリアル事業

 

 人文字に初チャレンジ!「祝35」

 

図書館利用者や区役所、地区センター職員など、120名以上の参加による記念、記憶に残る人文字づくりに挑戦。港北図書館友の会メンバーが記念写真撮影、DVD作成、販売も。8月29日の毎日新聞に写真付で掲載。

 ②記念講演会「まちライブラリー」の可能性~本でつなぐ、人をつなぐ~

     

  地域のキーパーソンも多数駆けつけた記念講演会

 

  開館記念事業のメインとしてまちライブラリー主宰者の礒井純充氏を講師に招い

 て開催。

準備期間2カ月弱ながらチラシ配布のほかSNSを駆使し情報発信、平日夜の開催にもかかわらず会場満員の100名が参加。講演後の交流会には25名参加。地域の主なキーパーソンも多数参加し地域のイベントとして成功。当日の模様は参加者の様々なブログ等でも発信された。

  港北区消防署長も講演会に参加され、全国で初めてだと思われるが、消防署入口に「はたらくくるま文庫」が12月に設置された。

さらに、まちライブラリーを運営したいという区職員の想いから、2016年5月23日政令指定都市で初めて区役所区民活動支援センターに「まちライブラリー@ミズキー文庫」が開設。

  これらも様々なメディアに掲載された。

2 平成28年1月 戦国の城企画展示、港北区魅力アップ講演会

(図書館、区役所、大倉精神文化研究所の三者共催、地元企業の協力)

    

 城ジオラマ第一人者でもあるパートナー産業株式会社代表の二宮博志氏(右)が

 地域のために講演会を快諾

 

1月16()~26()まで図書館で戦国の城、ジオラマ企画展を開催。多くの来館者を得、地元神奈川新聞はじめ多くのメディアに取り上げられた。

29日には講演会開催。参加者80名(区民50名:小机城址祭り実行委員会、篠原城と緑を守る会、港北ボランティアガイド、図書館友の会、町内会等)。終了後の交流会にも30名が参加。地元人材の協力を得、主催者同士の連携を図ることで、短期間で企画から講演会成功に導いた。

 

 

取材協力・画像提供_横浜市港北図書館 / レポート_安木由美子