Teenage Mutant Ninja Turtles 12: Vengeance Part 1/ Kevin Eastman, Tom Waltz, Bobby Curnow (Story) / Mateus Santolouco (Art) / IDW

忍者亀の4兄弟がネズミのお師匠様に率いられて悪の忍者やエイリアンと戦うアメコミ「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」の2011年からスタートしたIDW社のリブート版、の本編シリーズ12巻目。


11巻目まで続いていた地球の命運をかけたエイリアン・クランゲ将軍との戦いが一段落&メイン悪役のシュレッダーが一時戦線離脱したため、前の巻から一転して大きな戦いのない静かな巻。

でも、この世界の人間たちを駒に使って何千年も「ゲーム」をしているらしい謎めいた不死の一族「万神(パンテオン)」についての新たな手がかりが出てきたり、新キャラが登場したり、新たな敵同士のつながりができたり、ロマンスの予感(?)があったりして、要素は色々詰まっています。

サブタイトルには「Part 1」とついていて、この12巻目と次の13巻目はストーリーがワンセットのようです。ですから、「起承転結」でいうと、この静かな巻は多分「起」と「承」。
次の巻がこのシリーズの「第1部完結編」のような位置づけとのことなので、次がタートルズ一家と前世からの因縁ある宿敵シュレッダー様&悪の忍者集団フット団との最終(になるかどうかはわかりませんが…)決戦になるのかな。


前述のようにフット団はリーダー不在でこの巻休業状態、タートルズもまた前の巻でのできごとのために兄弟がひとり戦闘不能という状況でいったん休戦になっているため、タートルズ自身のドラマについてはこの巻ではあまり大きく動きません。
そのかわりに大きくフィーチャーされているのが、タートルズ一家の友達である心優しい人間の青年ケイシー・ジョーンズと彼の父親のドラマです。


このジョーンズ親子の物語は、タートルズ一家の物語と一緒に1巻目からスタートし、ここまでずっと語られてきています。
初登場の時点ですでに最悪と言っていい関係(奥さんを失ってアル中になった父が息子を日常的に暴行)だった彼ら親子は、話が進むごとにそこからさらに坂を転がり落ちるようにどんどん悪くなっていって(息子家出→息子を取り戻したい父が悪の組織入りして人間辞める)、現在ではタートルズ側と悪の忍者集団フット団側で敵味方に分かれてしまっています。

これでお互い100パーセント憎み合ってるならまだ楽なんでしょうが、父の方はずっと家族に戻りたくて息子を求めていて、息子の方は最後のわずかな情が捨てきれないまま、という状況。
この巻では、フット団を離れたケイシー父が息子のもとに現れてある提案をするのですが…

うーん、ケイシー父は、一応息子への愛情はあるけどあまりにバカすぎるのと心が弱すぎるのとで息子のための正しい選択がいつもできない人、という印象があったので、この人にも気の毒なところはあると思ってたけど、今回のこれはいくらなんでもケイシーが可哀想。
「もうお前のこと●●なくて良くなったから一緒に暮らそうよ」って、お父さんがめでたそうにこんな事言うの聞きたくないでしょう。
こりゃ駄目だ。拒否された後の行動もダメすぎる…

ケイシー父は一応息子の事を思って行動したり決断したりするし、常に息子と関係修復したくてしょうがない人ではあるんだけど、息子の気持ちを考えようとしないことでそれが常に台無しなんだよね。自分にそれができてないってことにも気がついてなさそうだけど。

あとね、家出されるまでずっとサンドバッグがわりにしてて全然大事にしてなかったこととか、今までにやったほかのあれやこれやについて、まず許すかどうかを息子に判断ゆだねて全力で謝らないと…。すぐに許すことを息子に求めるんじゃなくて。


常に困難にさらされっぱなしで、時には対立したりお互いを失いそうになったりしながらも親子・兄弟の間の愛情はいつもピュアで揺るがないタートルズ一家の物語の横で、この「一緒にいたいのに大事にできない」、「捨てたくても捨てられない」という「家族」の陰の部分にスポットを当てた物語がずっと進行しているのが面白いというかなんというか。

ケイシーとケイシー父の物語にはまだ決着がつきそうにありませんが、どんな結末になるんだろう。
父の方が劇的に変わらないと彼らにハッピーエンドはありそうにないですが、劇的に変われるような強さや、変わった後の自分を長く保てる強さをケイシー父は持ってない気がするんだよね。


そしてこの巻ではもう1か所、「家族」の陰の部分の物語が顔を覗かせています。

タートルズの宿敵である忍者集団フット団の首領・シュレッダー様が、部下の女忍者カライちゃんに、自分たちと敵との関係を語る場面があるのですが、その中で彼は

「この戦いは部外者との戦いではない。はるか昔に家族(=フット団)の中心から発生している」
「兄弟(=スプリンター/ハマト・ヨシ)が兄弟(=俺)に刃向かった」

と言っており、シュレッダー様の中では、自分とタートルズ(というか、その父上で自分の元部下のスプリンター先生)との争いは「家族(フット団)vs.部外者」ではなく、「家族内部の争い」という位置づけになってるらしいのが明らかになりました。あ、そうだったんだ。

でもケイシー父と一緒で、家族とか兄弟とか言う割に、シュレッダー様、あなた対立関係になるずっと前(同僚や主従として付き合ってた頃)からヨシさん(※スプリンター父上の前世)の扱いめっちゃ酷くて全然大事にしてなかったやん。みたいな事言いたくなるんですけど(笑)。自分のほうが一方的に裏切られた被害者みたいなモードでいつも話してらっしゃるけど。

「すごく目をかけて大事にしてやってたのに俺に暴言吐いた」とかそういう話ならともかく、仕事中に煽って死にそうな目に遭わせたり、ツートップ態勢で一緒に組織を率いるはずだったのを一方的に反故にしたり、嫌がらせのためにたびたび早朝に呼びつけてしょうもない仕事させたりで、暴言吐かれる前に年単位でさんざん酷い事してたんだからね、あなた。


ただ考えてみると彼らの同僚~主従時代の関係ってなんか変で、ただ単純に仲が悪いのとは少し違うようにも見えますね(本格的に敵対する前から仲が悪かったのは間違いないんだけど、当時の彼らの間には、温度ゼロの険悪さではなくて、それこそ気の合わない家族みたいなフラットな親密さが険悪さに混ざって存在してるように見える)。

もしかしたらこの2人の因縁話については、ここまでに出ている話がすべてではないのかも知れません。
少なくとも、彼らがいつごろから何がきっかけで仲悪くなったのかはいまだに不明だし。


それにしても父上は300年(?)も前に組織を出てったのに、いまだに一応シュレッダー様の家族枠。かわいい息子たちのほかに、実はケイシー以上に厄介な「捨てたくても捨てられない家族(フット団&シュレッダー様)」を持ってるのがスプリンター父上のようです。




この巻の作画担当はメイン画家のマテウス・サントラウコ。コリイ・スミスが描いた11巻1冊をはさんでカムバックしました。

この巻では久しぶりにシュレッダー様の素顔を描いてますが、マテウス作画の最初期と見比べるとなんかイケメンになりましたねシュレッダー様。


現在のシュレッダー様。


初期はこんな感じでした。(本編2巻の頃)

あとこの巻ではめちゃくちゃレアな「シュレッダー様の洋装」が見られるので、ファンの方は必見です。微妙にダサくてあんまり似合ってないのがちょっとかわいい(笑)。


タートルズの(前世の)母上であるシェンさんの登場シーンのみ、マテウスではなくチャールズ・ポール・ウィルソン3世という画家がゲストで作画を担当しています。
これまでにも戦国日本が舞台の番外編(前世話)を何度か描いている人です。


チャールズ作画部分。
えんぴつ描きの絵本のようなタッチできれい。彩色もこの部分だけ水彩っぽくしてあります。


このチャールズは「タートルズ」の歴代画家の中ではすごく絵がうまいほうってわけではないのですが、シェンさんに関してはこの人が描くバージョンがまちがいなく最も良いと思います。表情の中に美しさもかわいらしさも強さも優しさも母性も神秘性も全部入ってて、とても素敵な女性に見えます。
(ちなみにおおむね何描かせてもずばぬけてうまいマテウスは、なぜかシェンさんだけイマイチ。)




チャールズ画シェンさん。

タートルズ一家の(前世の)お母さん(の幽霊)は、ふだんは姿を見せないけれど、家族のいちばん後ろに常にひっそり控えていて、ディフェンス全部突破されて本当にヤバい時には必ず夫と息子たちを守ってくれる鉄壁ゴールキーパーのような役割を果たしている、

というのは以前のレビューでも書きましたが、息子のひとりがシャレにならないほどヤバい命の危機に陥った今回も、彼女は三途の川の手前みたいな場所で抜かりなくスタンバってくれてました。お母さん頼りになる…

このシリーズに出てくる「妻」ポジションの女性たちは、みんな出番は多くないけど存在は大きいんですよね。スプリンター父上もケイシー父もシュレッダー様もみんな女性で人生(とか人格とか)変わってるし。


そして女性といえば気になるのが、この巻でタートルズの三男ラフといつの間にかすっかり距離が近くなってる狐ミュータントの美少女アロペクスちゃんの存在です。

いいこなんだけど感情のコントロールがうまくできずに時々荒れてしまうラフと、そんなときに彼の話を聞いてあげて落ち着くまでついててあげるしっかり者のアロペちゃん、といういまのふたりは、付き合いはじめた頃の父上と母上にちょっと似ています。

本人同士はまだお互いをロマンスの相手とは全然意識していないため、今のところはアロペちゃんは「ラフ専用のお姉さん」という感じなんですが、このままお付き合いが続けばお似合いのカップルになるかも。とてもかわいくて見ててほんわか。

ただアロペちゃんは、本人(本狐)はすごくいい娘なんだけど、ちょっと事情があって、フット団(またはさらにその上の存在)に利用される可能性持ちってのが不安材料です。後々このかわいいペアが不幸なことにならなきゃいいのですが。

Teenage Mutant Ninja Turtles 12: Vengeance/Kevin Eastman

¥2,392
Amazon.co.jp