ふと、離婚して実家へ帰り、それからすぐSONYでの仕事を始めたときのこと、思い出したや。
そこは、もうなき部署(しかも建物も歴史資料館とかっていうのになっているらしい。壊すのも金がかかると思うんだけどなぁ)で、今いちばん忙しいと聞いていただけに、深夜残業もバリバリにあった。
なにせ、最高にオツムがサクサクな同世代の8人くらいのチームで、一緒に働くのは楽しくてしょうがなく、むしろ泊まり込みで延々と仕事をしていたかったくらい。
・・・建物の中にはあいつが入ってこられないから。

なにせ内容の濃い時間を少人数のチームでみっちり過ごしていたわけだから、中のひとりがわりと早い段階で私を拾ってくれたのも、今思えば不思議でもなかったかもしれない。
彼は少し年上で、3歳~18歳までアメリカにいたのに、そのことを本人に聞くまでは、誰よりも日本人らしい日本人という印象だった。

仕事は天国でも、帰路につく度、それから待ち構えているであろう地獄に一気に気分はどん底に嫌でも落とされる。落差がありすぎるから、余計だったのかもれない。
実家の最寄り駅へ着き、改札を出て階段を降りていくと、あいつがほぼほぼ必ず居た。
待ち伏せをしていた。いや、あいつは待ち構えていた。
毎日のように、お金をせびられた。

「マグロ漁船に乗せられちまうんだーーー!」って泣きつかれたとき、その意味を私は当時は知らなかった。
いっそ、本当に乗せられて始末しまっていれば、私が自殺することもなかったのに。

アクセサリーをしない私なのに、つきあってた人からもらった、どう見ても男からのプレゼントだろってものを見ても、あいつは「なんだ、男できたのか」ってほぼ興味なさそうにしてた。
「そう。SONYの超エリート社員。上手くいけば結婚するから邪魔しないでよ」って私は強く言っていた。
それに、仲良くなった16歳年上の直属の上司とプライベートで頻繁に会うことになり、土日にあいつに誘われたとしても、きちんと「上司のアルファロメオで遅い時間まで首都高ドライブするから」って、内容まではっきりきっぱり言ってた。
と、そのことを、急に思い出した。
思い出したとたん、無性に自分に腹が立ってきたけど。

要は、私がどんな男と会おうがなにをしていようが、あいつは気にもならなかったんだ、本当に。
証拠に、勤め先にまで来てなにかすることもなかったし、当然私の携帯電話に入っているはずの付き合っている人の電話番号やメールアドレスすら見られたこともなかった。
目的はひたすら「金、金、金」だったんだな・・・。

そんなこともわからず自殺未遂をした自分はバカだった。
あの頃は、天国と地獄が交互に繰り返される日々に参ってしまっていた。
例えば、そんなに職場が楽しくなければ、また、給料がさして良くなければ、自殺までのことは思い切っていなかったと思いたい。
もうさすがに13年前のことになるし、過去は変えられないので、そこの部分の挽回はなにもできないが。

私は、最低限が日々、その水準がこれでもかと下がる生活の中で、生きるために最悪のシナリオ作りをしてしまう癖がついてしまっただけだと思う。
少なくとも、最悪のことを想定しておけばなにが起きてもこれ以上苦しむことがないと勝手に思い込み、その考えに縋ることで、怒りや悲しみを抱かないで済むように自己防衛を万全にしていたつもりだった。

でも、そもそも方法論が間違っていた。
今ならそれがわかる。
なんでも、起きてしまうことは起きてしまうし、考えておいたからって防ぐことなどできない。
それを、なにが起きても想定済みとスカしていれば、気分がマシにでもなると思い込んでいたおめでたい己を呪いたいくらいだ。

不安が不安を引き寄せ、そして不安というものは勝手に増殖していくもの。
ましてや被害妄想の世界観にどっぷり足を突っ込んで長い。
今はもう、考えることをやめ、がむしゃらに行動するしかないと覚悟を決めた。

今までがあまりに長かった分、簡単ではないだろう。
経験豊富な弁護士が作成してくれた作戦も、もしかしたら長期戦になる可能性も秘めている。
でも、問題は、自分自身がその意志を貫けるかどうかだ。
どう転んでもいい。
自由などと贅沢なことは言わない、安心を感じたい。
それが孤独だったとしてもいい。選んだ孤独なら、それは孤独どころか、自由だ。

今まで、周りの人たちに、考えすぎてしまって迷惑をかけてしまったことを懺悔できるものならしたい。
けど、困ったときの神頼みってタイプだし、それは都合が良すぎるな。
許されないことを、たくさんしてきた。
償いは、高くつくだろう。
それでも、この生活から抜け出すには、行動を起こすしかない。

心の支えになってくださる方がたくさんいることを、ここで感謝します。
ありがとう、みんな。
時間がかかっても、絶対に償うから、その時は一緒にバカな過去話として笑い飛ばそうね!