アルツハイマーとβアミロイド | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

アメリカで、アルツハイマーの方にβアミロイドが多量に見られるから、アルツハイマーの原因は「βアミロイド」だと言われ、詳細な検討をせずにβアミロイドが原因とされて来た。

この考え方には、大きな問題があったにもかかわらず、βアミロイド仮説がアルツハイマーの原因とされてしまった。もう30年近く前の事である。

 

この考えに問題があると言うのは、病理学的に「βアミロイドの蓄積が、アルツハイマーの原因」としてよいのは、次の二つの条件を満たして初めて言える事なのである。

それは、

①βアミロイドの蓄積でアルツハイマーの症状が説明できる事。

②症状が始まった時βアミロイドが、その症状を起こす領域に生じている事。

この二つを満たして、初めてβアミロイドがアルツハイマーの原因と言えるのである。

それを、アルツハイマーの方全員にβアミロイドの蓄積があるので、βアミロイドがアルツハイマーの原因だとされてしまったのである。

先に書いたアルツハイマー3亜型に書いたように、βアミロイドの蓄積では症状の発言が説明できない。症状の発現は、タウたんぱくの蓄積だと言う事である。

 

βアミロイドの蓄積は、「老人班」と呼ばれ高齢に成ると程度の差はあれ蓄積してくるものなのである。タウたんぱくの蓄積は「神経原線維変化」と呼ばれている。

アルツハイマーでは、この両者が認められる変化であった。

βアミロイドの蓄積は、加齢に伴う変化と考えた方が良いのかもしれない。

ただ若年性アルツハイマーと呼ばれるケースにも、βアミロイドの蓄積が起こる事から、全く無関係ではないかも知れない。ただ症状発現に関係あるのは、神経原線維変化である。

アルツハイマーで初期から短期記憶障害が起こる。これは海馬の障害とされているが、短期記憶障害が始まった時期のアルツハイマーでは、海馬周辺にはβアミロイドの蓄積は無く、タウの蓄積が主体であると言う研究結果がある。

 

いわゆる若年性と比較的高齢である典型型・辺縁優位型では、臨床症状がまたく違う事は、

アルツハイマー3亜型で、明らかにされている。

若年性は、古典的に「アルツハイマー病」と呼ばれ、高齢者でみられる「アルツハイマー型痴呆(当時の呼び方)」とは、臨床的に全く違う病気と言う意見が多かった。日本では、典型型は少なく「辺縁優位型」が多かった。

日本での認知症の発生は、50~60歳で小さなピークがあり、60~80歳で減少し80歳以上で増えると言う減少から、アルツハイマーの典型は少ないと言えると思う。日本では、短期記憶障害を主体とした辺縁優位型が、アルツハイマーの大半と考えても良いと思う。

 

ナンスタディで、病理学的に60名の方がアルツハイマーと診断されている。しかし認知症の症状を認めなかったケースが15例(25%)あったが、βアミロイドが認知症の原因で無いとすると、この認知症を呈していないケースがいる事は、当たり前のことと言えると思う。

 

このように、アルツハイマーの発症とβアミロイドの蓄積が無関係と考えると、最近βアミロイドの蓄積を阻害する事で、アルツハイマーの治療・予防を行おうと言う試みがすべてとん挫しているのも、当たり前と考えられる。

βアミロイドの蓄積に関する知見の多くは、βアミロイドが蓄積するように開発されたラットに関する実験で明らかにされてきた。ただこのラットと人間の差は大きい事を、忘れてはいけないのである。今までラットで開発され非常に高い効果を示し、夢の新薬ともてはやされた薬剤は少なくない。その多くが人間では、期待された効果が得られなかったと言う事実を、研究者は忘れてはいけない。インターフェロンンが代表である。

 

レビー小体を構成するαシヌクレインは、レビー小体病・パーキンソン病・多系統萎縮症などで見られる異常たんぱくである。これも、原因物質なのか他の障害により起こる産物なのか良く分かっていない。レビー小体が蓄積するのから、すべてレビー小体病として取り扱おうと言うのは、非常に危険なのである。パーキンソン病は、レビー小体が蓄積する領域と症状発生に因果関係が確認されているが、他の疾患では、そのような証明は為されていないのである。

この三者で共通する事は、他にもあるのである。それは自律神経障害である。

これについては、別に考えてみたい。