イタリアの次は日本、ファンドが狙う国債売り崩し=中原圭介氏 | 相場備忘

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極悪です あれがね

日本の公的債務がいかに巨額であっても、国債は順調に消化され、利回りは低位安定している。国債保有者の9割超が国内投資家である上、国民の金融資産が国債残高を依然上回っていること、経常黒字の計上などを理由に、あと5-10年は国債の暴落は起こらないとの声は多い。

 しかし、エコノミストの中原圭介氏によれば、早ければ2013年にも日本国債は急落し、利回りは自力での国債発行が不可能な水準に到達する可能性がある。ギリシャやイタリアなど、欧州重債務国の国債を売り崩したヘッジファンドが次に狙いを定めているのが日本なのだという。

中原圭介氏 Akiko Miyahara/The Wall Street Journal

中原圭介氏

日本国債、現状はバブル

 中原氏は、国債利回りが安定している理由の1つに、円高を背景とする新興国マネーの流入を挙げる。欧州の債務危機の深刻化と米国の金融緩和の長期化を背景に、豊富な外貨準備を持つ新興国の政府系ファンドや機関投資家が、消極的でありながらも円を買い、それを日本国債に振り向けている。特に2010年半ば以降、この傾向が顕著だという。

 もう1つの理由は「金融機関が起こしている国債バブル」。大手銀行は新銀行自己資本比率規制(バーゼルIII)の適用の対象になっており、中核的自己資本比率(コアTier1)の引き上げを義務付けられている。このため、各行は貸し出しを縮小するとともに、国債の運用比率を高めている。生保もソルベンシーマージン(保険金の支払い余力)比率の算出基準の厳格化に合わせて保有株式を売却する一方、国債の運用を増やしている。

 目先はこの2つの動きが日本国債を支えると中原氏は予想する。

忍び寄る潮目の変化

 こうした状況が変わるのは、対ユーロと対ドルで円高が終わる時だという。では、それはいつになるのか。

 円が対ユーロで下落に転じるのは年内の可能性が高いと中原氏はみる。「もしイタリアが破たんすれば、世界恐慌が引き起こされる。それを阻止するため、ドイツなどの経常黒字国が経常赤字国に対して財政的な補てんを行う仕組みが最終的に導入され、欧州危機は年内に収束に向かうとみる」(中原氏)。危機収束と同時にユーロは買われる展開になるという。

 円は対ドルでもそう遠くない時期に下落に転じる可能性が高い。同氏によると、米国は株式相場が大幅に下げたタイミングで、温存している量的緩和第3弾(QE3)の実施に踏み切る公算が大きい。QE3を実施している間は一段の円高が見込まれるが、プログラムの終了後、為替は円安に転換するシナリオが有力という。その時期は恐らく2013年か。

 円が対ドルと対ユーロで反落すれば、新興国がもはや円資産を保有する理由はない。

ファンドが攻撃開始

 この時点で、欧州重債務国の国債の売り崩しで莫大な利益を得たヘッジファンドが、日本国債への攻撃を開始すると中原氏は予想する。ファンドの戦略を知れば、国債の9割超を国内勢が保有しているから相場は安泰だといった考えは吹き飛ぶと同氏は語る。

 「ファンドはまず、日本国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のプレミアム(保証料)を吊り上げるところから始めるとみる」(同)。CDS市場はもともと流動性が低く、ファンドが意図的にプレミアムを吊り上げることも不可能ではない。この結果、日本国債のデフォルト懸念が高まり、「海外の投資家マインドが悪化する」算段だ。実際、ファンドはギリシャやイタリア国債のCDSプレミアムを吊り上げ、利回りを上昇させたとみられている。

 もとより円安への基調転換により円資産を手放したい新興国は、CDSプレミアムが上昇すれば、日本国債をパニック的に売却すると見込まれる。ファンドの売りに新興国の売りが加わり、国債はダブルパンチを食らうことになる。

 ファンドの攻撃第2弾は、外国人投資家の取引シェアが比較的大きい国債先物相場の売り崩しだ。「株式市場では先物相場に現物相場が振り回されることがよくある」(同)。国債の先物相場を急落させれば、裁定取引の誘発により現物相場を大幅に下落させることが可能だ。

 こうなれば、国内投資家のマインドも急激に悪化する。現在はバブルを生み出している金融機関も国債の投げ売りに加担することになり、「10年物国債利回りは2~3%に上昇する」(同)。日本の借金の規模を考慮すれば、利回りが3%に上昇すれば、自力での国債発行はほぼ不可能だ。

社会保障と税の一体改革は不十分

 政府・与党は2012年初めに社会保障と税の一体改革の素案を決めた。これはファンドの攻撃をかわす決定打になるのか。

 中原氏は「国債相場の支えにはならない」と断言する。財務省主導で作成された計画は、官庁特有の単年度の視点で立案されており、長期的な展望が欠落しているという。「これでは経済成長に結びつかない、単なる増税。景気を後退させ、財政の悪化につながるだけだ」と手厳しい。

 同氏は「政府には社会保障と税の改革はもちろんのこと、経済成長と少子高齢化の対策も盛り込むよう求めたい。この4つが一体となって初めて財政再建につながる」と話す。

 なすべきことは多いが、時間は無駄に費やされている。

(中原圭介氏はアセットベストパートナーズのエコノミスト。近著に「2013年 大暴落後の日本経済」がある)