怒りと憎しみの変容(臨床心理の実例) | 精神療法士ミミネコのブログ:Let there be light     

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地球が光溢れる場所になることを願って。

今日、カウンセリングのセミナーがあったので、朝、日の出前に起きて、車を飛ばしていってまいりました。セミナーは、「子どもの怒りと悲しみにどう対処するか」という内容でした。


そこで聞いた、とても印象的な話が、前記事 にリンクしていたので、シェアしたいと思います。


セミナーのプレゼンテーターは、スクールカウンセリングを何十年もやってきた、ベテランの心理学者でした。彼女は、あるとき、留置所から送られてきた17歳の少年を、2ヶ月間、週に2時間ずつ、カウンセリングするように頼まれました。


ところが、この少年は、最初の数週間、全く自分のことをしゃべろうとせず、カウンセリングの時間は、終始、沈黙が続いたのだそうです。


4週間たって、ついに、カウンセラーは少年に言いました。


「もう、勝手にしなさい。そうやって、何にもしゃべらないなら、私はもう家に帰るから、あなたは、留置所に戻ればいい。」


すると、少年は、やっと重い口を開き、少しずつ、自分の身の上を語りだしました。


彼は、11歳のとき、母親が目の前で殺されるのを目撃してしまったのでした。


彼の両親は離婚し、彼は父親に引きとられたのですが、ストリップ劇場でダンサーをしている母親のところへ、週末だけ、会いに行っていました。


ある週末、母親のところで過ごしていると、男がやってきました。母親は、少年の身を守るために、彼を押入れの中に隠しました。押入れの中で息を潜める少年の目の前で、母親はこの男に暴力を振るわれ、そのまま殺されてしまいました。


少年は、その後、2日たってから、父親の元にもどってきました。彼は、2日間、怒りと憎しみに駆られ、目撃した犯人を捜し出して殺そうと、さ迷い歩いていたのでした。警察は、母親の死後、行方不明になっていた11歳の少年を、犯人だと疑ったそうです。


その後、しばらくたって、ある日ソファに寝転んでいた少年に、父親は、


「お前、なぜお母さんを助けないで、黙ってみていた。男なら、母親を守るのが当然だろう。」


といって、少年を家から追い出してしまいました。


少年は、仕方なく、母方の祖母の家に行って、そこでしばらく暮らしました。母方の祖母の家では、亡くなったお母さんの話をするのは、タブーで、一切触れてはなりませんでした。少年は、次第に万引きをしたり、犯罪に走るようになりました。14歳のとき、彼は、祖母の家も追い出されて、ホームレスになり、ストリートで暮らすようになりました。


少年は、当時、スクールカウンセラーだったこの心理学者に、2ヶ月かかってやっとこの過去の全貌を話したのでした。


彼に、小石を握らせて、何か一つ、この石に願いをかけるとしたら、何がいいか、と尋ねると、彼は、長い間、握りしめたあと、その小石をそっとテーブルにおいて、


「母親を殺した犯人を殺す。」


と、いいました。


「殺したらだめよ。」


と、思わず言った心理学者は、この少年の怒りの爆発を目にします。


「お前なんかに、母親を目の前で殺された俺の気持ちが、わかるもんか!!!」


と、絶叫し、激昂して、カウンセリングルームを、ぐるぐる歩き回る彼は、全く手がつけられなかったそうです。


「その通り、私には、あなたの気持ちはわからない。でも、私も子どもを2人亡くて、生き残っている子どもは、1人しかいないのよ。」


というと、やっと少し静かになって、


「ほんとうに?」


と言ったのだそうです。


その後、彼とのカウンセリング期間は終了になり、この少年がどうなったか、心理学者は知るすべもありませんでした。


ところが、何年も後に、ふとしたことから、心理学者は、共通の知人に、こういう人物がいて、彼はあなたに連絡を取りたがっているが、彼を覚えているか、と聞かれます。


「ああ、もちろん、よく覚えているわ。今、どうしているの?刑務所にでも入っているの?」


彼の生い立ちからして、恐らく、第一級の犯罪者になっているだろうと思っていた心理学者は、共通の知人の言葉に、耳を疑いました。


「とんでもない、彼は、名門の法律学校をトップの成績で卒業して、今は、犯罪専門の弁護士になっているよ。」


彼は、憎しみと怒りをポジティブなエネルギーに変えて、必死で勉強して、犯罪弁護士になるという道を選んだのでした。


その後、クリスマスカードを交わす間柄になった、かつての少年に、心理学者は、あのとき握り締めた小石を、彼が今でも持っていることを聞いたのだそうです。


「生きている限り、希望は必ず見つけられる。」


と、このセミナーで、心理学者は言っていました。ミミネコもそう思います虹



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