今回は、⑧咬合の許容範囲は20~30μ についてです。

噛み合わせは、前回までに説明したように、全ての人に共通した数字的な正常値はなく、各個人の生理的許容範囲内で、機能し、長期的に安定すればいいのですが、生理的な咬合状態と、その長期安定のためには、その範囲内で、物理的構造としてはミクロン(μ)単位で確立され、感覚(神経)と調和していなければなりません。特に治療咬合を与える場合には、人為的に治療として確立しなければなりません。

全ての構造がミクロン単位と言うわけではありません。筋肉や歯茎などは弾力性があるものですし、骨もミクロン単位で重要と言うわけではないですが、全ての顎口腔系の器官が、物理的、感覚的に安定し維持するためには歯牙が最も重要です。簡単に言うと、筋も骨も、歯茎も、歯が適切に噛んでいる事で、その位置、状態を維持できるのです。そしてその歯の感覚はミクロン単位で感知します。ですから、最終的に噛み合せ、咀嚼器官は、ミクロン単位と言えます。

例えば、噛み合せの治療と称して、ミリ単位で歯を削って治していると、引っかかりや悪い要素はなくなる部分があるので、悪い症状が一時的に消えたり、症状の一部が改善されることはあっても、あるいはたまたまそれでちょうど良かった、ということがあっても、厳密には治っていないか、治せる確率が低くなります。

Dr Amsterdamによると、1ミクロンの歯の変化を、一度歯が接触するだけで脳が感知しているようです。実際そうです。1箇所、数ミクロン修正し、1度かむだけで神経を経由し、脳を経由し、多くの筋(最大136個)に反応が出ます。これを応用したのが、テスト・セラピーとしての神経学的コントロールです(以前説明したことがあると思います。。。たぶん)。


ですが、これにも許容範囲があります。それが、20~30ミクロンと言われています。

これは、歯は骨と、歯根膜と言う靭帯でつながっていて、これがクッションの役割をしているのですが、その許容範囲、あるいは簡単に言うと、正常な歯を揺らしてみて正常な状態で揺れる量が、20~30ミクロンです。それ以内なら有害な力にならず、それ以上なら(自然に揺れる量を超えているので)、歯茎や骨が下がったり、歯根膜が炎症を起こしたり、何らかの異常が起こる可能性が高いということです。

また、インプラントは、歯根膜がありません。骨と癒着していて、まったく動きません。ですから、強く噛みしめたときに歯は少し沈みます。20~30ミクロン。でもインプラントは沈みません。ですから、普通の歯と、インプラントの歯を同じ高さにしたら、噛みしめたときにインプラントの歯が突き出てしまいます。そのため、インプラントの歯は、通常20~30ミクロン低く入れて、軽く噛んだときに弱いか、かすかに当たるくらいで、強く噛んで他の歯が沈んだときに同じ高さになるようにします。厳密には、各個人の歯根膜の変位量に合わせるのですが、やはり、実際の臨床では、各個人差があります。

そして、そのために重要なのが、咬合紙です。これは噛み合わせを調べるときに使う紙、あるいはセロハンです。
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咬合紙の厚みが重要です。いくつもの厚みの咬合紙があるのですが、例えば、50ミクロンや80ミクロンの咬合紙があるのですが、それで噛み合わせを調べたら?噛み合せの許容範囲が20~30ミクロンなので。。。

50ミクロンの咬合紙で噛んで、噛んでいても、30ミクロン低かったら?20ミクロン低かったら?それはほとんど分かりません。逆に、20ミクロン低いときに、16ミクロンの咬合紙をかませたら、すり抜けます。でも50ミクロンなら噛んでしまいます。高い場合は周りと比較して、周りの歯に咬合紙を入れてみて噛んでいなければ高いのですが、このときも50ミクロン高くても周りの歯に50ミクロンの咬合紙を噛ませても噛んでしまいます。

ですから、少なくとも20ミクロンの咬合紙を使えば、それがすり抜けなければ低くはないのが分かります。周りの歯が噛めば、高くても20ミクロンなので、ぎりぎり許容範囲なのが分かります。

僕は16ミクロンを使っています。ちょうどバランスがいいと思います。これが強いか弱いか、当たりながらすり抜けるか、当で、16ミクロン以内の調整ができます(目で見て分かりませんが)。

もっと薄いのもあるのですが、それを通常使っていると、薄すぎて(調整・確認を8ミクロンずつとか)効率が悪いです。


そもそも50ミクロンから100ミクロン、それ以上の咬合紙がなぜ存在しているか分かりません?!