Mid-Blue取材企画第一弾に行ってきました!Mid-Blueとは:こちら  HPはこちら

この企画は作家さんにお話を伺ってSarartで紹介していこうというものです:*:・( ̄∀ ̄)・:*:

HPにも載っていますが、油絵画家の田中拓馬さんに話を聞きました。とても気さくな方で私も楽しかったですにこ


田中拓馬さんは早稲田大学法学部出身、体調を崩し司法試験を諦めた後に2003年から絵画の道に進みました。つまり専門機関での教育を受けていない独学の画家です。たった五年の間にすでに何回も賞を受賞し、大きな展覧会にも出展しています。


絵を描くようになったのは、小説家志望の友人が絵画を始めたことに影響されたのだそうです。もともと西洋美術が好きで、海外の美術館にもよく足を運んでいた田中さんは、油絵を選びました。美術館等でよく目にしていて、見慣れていたからという理由もありました。また、初めて田中さんの描き始めの絵を見て評価してくれた、当時通っていたカルチャースクールの先生が油絵を手掛けていたことにも影響されました。


田中さんは美術史を一通りなぞっていて、特に最初の方は西洋の絵画様式の色々な模倣を多くしていました。

これは初期のころの絵です。ゴッホの「ひまわり」に構図も描き方もよく似ています。



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これは印象派っぽい。



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最近の作品にはこの下の作品のようにかなり色彩表現が劇的で、あえて補色対比の効果などを利用して強烈な色彩配置をしているものが目立ちます。

この鮮やかな色彩表現にはフォービズムやドイツ表現主義の影響もあるそうです。この力強い輪郭線はフォービズム、マティスの描き方に特に近いように思います。帽子の線の引き方などは若干モンドリアンを想像させますが・・・笑



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田中さんは常に新しい表現を模索しているそうです。一定のところに留まりたくない、というポリシーのもとに制作をしています。中でも面白いと思ったのが、田中さんにとっては少し前の時期のテーマですが、「量子力学論と絵画の関係性」を意識した一連の作品です。

また、伊藤若冲、曽我蕭白、俵谷宗達たち日本画の巨匠からもインスピレーションを受けています。特に伊藤若冲には想いが深く、京都に出かけた時にその作品に触れ、若冲自身のことを知ってからその境遇や人となりにシンパシーを感じるところがいくつかあったのだそうです。独学であることも共通点となりました。

これはそのひとつで、若冲の彩色版画「薔薇に鸚哥(いんこ)図」を取り入れた作品です。


「ベニスに住む若冲のインコ」(未完)




これがもとの伊藤若冲の「薔薇に鸚哥(いんこ)図」。田中さんの作品はこの背景にベニスの風景が描かれています。


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これは、元のモチーフを厚塗りで描いた上から違うモチーフを薄く描くというやり方で、油絵の透明性での表現を探りつつ新しいものを創りだそうという考えからできたものです。異なる厚みで描くことで同じ画面に異なる時空を存在させる多元構造になっています。最初は特に量子力学のことは考えずに、「面白いんじゃないかな」くらの感覚で描いてみたそうです。

作品を見た井上優さんに「絵の構造が量子力学の考え方に似ている」と言われてから関係性を意識して創作するようになったといいます。

井上優さんは詩人の方で、自身の活動の他、田中さんとコラボレーションして絵本製作などを手掛けています。

下の画像がその絵本です。これから本格的に売り込みを開始するとか。




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                  これはスケッチブックに描かれた構想。




さて、先述した田中さんが作品に取り入れた量子力学論について簡単に説明します。ここではミクロの世界(原子とか分子レベルの世界)とマクロの世界(私たちの世界)があります。話はミクロの世界から考えは出発します。

粒子からできている電子は波の性質も併せ持っています。つまり海の波と同じように、互いに影響しあうことができます。波は単体でなく複数の波(と田中さんは表現していますが、波は液体なので分裂したり多方向に広がるのが可能という意味でしょう。)でできています。


たとえば、波が左から右へ進んでAという地点を目指すとき、途中に障害物があると波はそれを柔軟によけて、様々な方向から地点Aへ向かいます。


この複数の波は動きながらお互いに多方面から影響を与えあっています。これを波の歴史といいます。

多世界解釈という考え方によればマクロの世界はミクロの世界の集積であるので、このミクロの世界の考え方は私たちの世界、すなわちマクロの世界でも通用します。


多世界解釈とは (注:ウィキペディアは私が知っている分野ならば一応正誤の確認をしてから載せているつもりですが、化学は専門外なので自信がないです。ここの情報も議論があるようなのであくまで参考程度だと思ってください。)


田中さんはマクロの世界ではこの「波」の性質を「過去」に置き換えて考えました。

つまり、時間の流れの中で、選択した過去は一つであれそうした過去の複数の可能性というものが互いに影響はしないながらも(ここが波とは違うところです。選ばなかった過去が影響しあったらおかしなことになりますからね!)私たちの世界に存在しているのだそうです。


(*この青い記述部分は量子力学の理論をもとにした田中さん自身の作品に応用させる個人の解釈であり、科学的根拠に基づく「学説」ではないことを誤解のなきよう明記しておきます。)


この「ベニスに住む若冲のインコ」では、江戸時代の画家が描いたインコ(江戸の絵画)とベニスというモチーフ(現在の絵画)が同時に同じ画面に描かれています。ところどころインコと植物が背景のベニスの風景に透けているように、両者は調和しているのではなくむしろ違う時空間で存在しているのです。

これは異なる時空にあるものの「融合」ではなく「独立した共存」を表しています。


現在は田中さんの制作の狙いはまた違うところにあります。

2に続きます!