DIYはほどほどに! | 迷える子羊のための美容整形教室

迷える子羊のための美容整形教室

勇気を出して美容外科治療を決意されたあなたが、その理想に遠回りしないで確実に近づけるために・・・

Do It Yourself(ドゥ イット ユアセルフ)略すと「DIY」

日本語にすると「自身で作ろう」


最近(?)いろいろな分野でこれが流行っていますね。

かく言う私も実はDIYが大好きで、自宅の庭には自作のウッドデッキやレンガで造った花壇や砂場がありますし、ガレージにはできそこないのゴルフ練習器具や釣り道具なんかがごろごろしています。

専門家に作っていただくほうがよほど奇麗ですし、ゴルフや釣りの危惧も既製品を購入した方がよほど使いやすく機能的なのは当然ですが、それでも苦労して自分で作る楽しみや完成した時の喜びは一入(ひとしお)です。

苦労して作ったと思うだけで、不格好なその姿形にも愛着が湧きます。

不景気が続いていることもあって、一段とこのDIYがもてはやされている感があります。(私がやると何かと余計なコストがかかり、エコになっているとは思えませんが・・・)


このDIYが最近は美容外科の世界にも進出してきています。

いわゆるプチ整形と呼ばれる手軽な美容治療を、自分で行う方が増えてきているようなのです。

特にヒアルロン酸やボトックス、脂肪溶解注射といった注射で出来る治療は、材料さえ揃ってしまえば手技的にもそれほど難しい事はなく、医師でなくても施術は可能です。

その材料も最近は個人輸入で入手するルートがあるようで、ネットの発達に伴いその方法も驚くほど簡単になっているようです。


ただし、一見簡単に見えるこういった治療にも実は様々なテクニックがあり、場合によっては取り返しのつかないリスクがあります。


私のような美容外科医がこういった話をすると、「どうせ脅しだろう。」「美容外科の患者が減ると困るから言っているんだろう。」と言われてしまいそうです。

でも、ちょっとDIYが流行したからと言って大工さんが生活に困らないように、自己注入する方がちょっと世の中にいるからと言って、美容外科医が困る事はありません。


それより、日々の診療での経験や学会などでの報告で、自己注入による悲惨なトラブルをたくさん見てきて、これ以上こういったトラブルを見たくないという思いでお話ししています。


では実際どんなトラブルが起こるのでしょうか?


まず、誤った層に注入する事で、皮膚表面に凸凹やミミズ腫れのような痕が出来る事があります。

それだけなら待てばいずれ吸収されるのですが、稀に異物肉芽腫と呼ばれるしこりになってしまう事もあり、こうなってしまうと何年経ってもしこりは消えずに残ってしまいます。


・Serial puncture
・Liner-threading
・Cross-hatching
・Fanning
・Multiple-honeycomb


これ、なんだか分かりますか。

これはヒアルロン酸の注入手技についている名称です。

別に名前をつけるほどの事でもないようにも思いますが、浅い層に数珠状に連続して注入したり、深い層に扇形に広げながら注入したり、格子のように交差させて注入したりと、一言でヒアルロン酸注入と言っても様々なやり方があるということです。

注入するヒアルロン酸の種類にもいろいろあって、それぞれの状態に一番あったタイプを選ぶ必要があります


単に注入するだけなら別に誰にでもできますが、その部位に一番適した方法で奇麗になるように注入するとなると、それなりにテクニックは必要です。


「もし凸凹になったら、分解注射(ヒアルロニダーゼ)を打つから大丈夫。」と思っているそこのあなた。


ヒアルロン酸注入にはもっと恐ろしいリスクがあります。

それは、塞栓(血管閉塞)です。

これは、針の先端が血管内に入った状態でヒアルロン酸を注入する事によって、血管内にヒアルロン酸が入り込み、血管を詰まらせてしまう現象です。


特に重要な動脈が詰まってしまうと、その支配領域の組織が壊死します。


過去には、鼻や鼻唇溝へのヒアルロン酸注入で鼻翼や口唇が壊死してしまったり、眼動脈の閉塞で失明した報告例がいくつもあります。


ちなみに、鼻背動脈、滑車上動脈、眼窩上動脈といった目や鼻の周囲の動脈はすべて眼動脈の枝 なので、ここからヒアルロン酸が逆行性に眼動脈に入る可能性は十分あります。


                                          
$迷える子羊のための美容整形教室


最近は我々のような美容外科医が施術する際も、この塞栓を絶対に避けるために、危険な場所に注入する際には先端が尖っていない鈍針と呼ばれる特殊な注入針を用います。

この針は、先端は丸くなっていて穴も開いていません。

代わりに先端のすぐ手前に横穴が開いていて、ここからヒアルロン酸が出てくる仕組みになっています。

そのため血管内にヒアルロン酸が入ることはありません。

$迷える子羊のための美容整形教室


ただし直接血管内にヒアルロン酸が入り込まなくても、過度の注入による組織の内圧上昇だけで血管閉塞は起こりえますので、いずれにせよ安易に自己注入するのは絶対に避けるべきであると思います。


DIYが流行っているからと言って、壊れると命にかかわるような大事なものまでDIYで作る方はあまりいらっしゃいませんよね。

それと一緒で、危険を冒してまで自己注入するのはやめたほうが良いのではないでしょうか。


今回はちょっと怖い話になってしまいました(^_^;)


ちなみに余談ですが、先ほど話しに出てきたヒアルロン酸分解注射(ヒアルロニダーゼ)ってご存知ですか。

これは名前の通りヒアルロン酸を分解し溶かしてくれる非常にありがたい薬品です。

この薬品自体は知っていても、これが何から作られているかまでご存じの方はあまりいらっしゃらないと思うので、今回はこれについてもちょっとお話ししたいと思います。


人間の体にもヒアルロニダーゼはあり、とても重要な役割を担っています。
それどころか、「これがなければ人類が滅びてしまう」と言っても言い過ぎではありません。

話しが長くなりそうなので結論から言ってしまうと、このヒアルロニダーゼは受精の際に大切な役割を持っています。

もう少し具体的に説明すると、卵細胞は透明帯と言う膜で包まれていて、受精するためには精子が透明帯を貫き中に入り込む必要があります。

精子は透明帯に到達するとその先端からヒアルロニダーゼを放出し、この膜を溶かし中に入り込むのです。

つまり、このヒアルロニダーゼが無ければ精子は卵細胞に到達することはできず、受精も出来ないということです。

人類の存亡にかかわると言った訳がご理解いただけましたか?


ということは、人間の体の中でヒアルロニダーゼが最も多くあるのは精巣です。
もちろんこれは他の多くの哺乳類も同様で、実際市販されているヒアルロニダーゼのほとんどが牛や羊の精巣から作られます。

これを聞いてしまうと、ヒアルロニダーゼを注射されるのがちょっと嫌になりそうですね ( ̄_ ̄ ;)。



P.S.

今週の月曜日は銀座院で仕事をしていましたが、クリニックの周りはオリンピックパレードの影響で朝から大混雑でした。

普段はそれ程人通りが多くないヴェリテのある西五番街通りも、びっくりするくらい人で溢れかえっていました。

混雑で来院する予定だった患者さんも大幅に遅れることになって、パレードの時間に仕事が無くなったため、私も仕事を抜け出してパレードの見学に行くことにしました。

パレード10分前にクリニックを出たので間に合うか不安でしたが、裏道から某ビルの中を抜け(スミマセン)なんとか時間までに中央通りに出る事が出来ました。

せっかく見に来たのだからビデオを撮ろうと思ったのですが、目の前に日傘を広げた女性がいてなかなかうまく撮影できません (>_<)

$迷える子羊のための美容整形教室


それでも人ごみの中なんとか体の向きを変えながら頑張って撮影しました。

$迷える子羊のための美容整形教室
$迷える子羊のための美容整形教室
$迷える子羊のための美容整形教室
$迷える子羊のための美容整形教室


遠くから拝見できただけですが、それでもメダリストはみんな表情がキラキラ輝いて、とても美しく見えました。