突然だが、皆さんは




接待


と、言う言葉を聞いて


どんな世界を想像するだろうか??






クライアントを歓ばせる為に


会社のお金を遣い




高級なお食事を食べて~



お姉チャンが居るお店に行って~



最大限のお持て成しをもって




今後のお付き合いも何卒と・・・




的な、世界を想像される方が


ほとんどでは無いだろうか?





実際


そのイメージにほとんど間違いは無い。





ただ、世の中の接待の数だけ


それぞれの接待の形がある様に



上記の様な分かり易い接待ばかりでは無い。




最大限のお持て成しをして


相手に歓んで頂く




それこそが接待をする目的なのだから


そこに決められた形など存在はしないのだ。







今となっては、数多くの接待を


経験する様になった私だが



そんな私が、接待と言う世界に



ようやく触れ始める様になった頃





そんな頃のお話・・・。





****************


今から数年前の出来事。


新年度に入り


私の会社は新体制に入った。






やる事も責任も増えた新体制


私にしてみれば


更なるヤル気を産む以外の要素は無かった。







年度が変わり、体制が変わるのは


勿論、私の会社だけではない。





世の中に存在する


大中小、様々な企業でも当然の様にして


それは行われる。







とある月の半ばに


現場のスタッフさんから、私に連絡が入った。




梅田さん(仮名)


どうやら昇進されたみたいですよ』






梅田さんとは、昨年から取引を始めさせて頂いた


業界では最大手企業になる担当の方だ。





梅田さんの会社とは


以前は、一切取り引きが出来ない程


取り付く島もなかった。





だが私が大阪に来た年に


様々な要素が絡まり



光栄にも、仕事を御一緒させて頂く様になったのだ。






担当の梅田さんからは


常に高いレベルの内容を求められらる。




正直、その要求が高過ぎて


何度も挫けそうになる事もあった。




それでも、夜中の2時頃に業務内容を相談してきたり、と


常にハイレベルな仕事を求める梅田さんの姿に感化されて


少しでも、その梅田さんの要求に応えたい!



と、思わせてくれる気持ちが


挫けそうになった気持ちを支えてくれた。





その気持ちが功を奏したかどうかは分からないが



梅田さんは、私の事を弟の様な存在で可愛がってくれた。









****************


梅田さんの昇進話を聞いた翌週



私は、梅田さんのところに足を運んでいた。






アポイントは、取っていない。





いつも忙しくされている梅田さん


幸いにも、その時は体が空いていて


すぐにお会いする事が出来た。





『どうしたの、吉田さん、急に来るなんて』




『突然すみません。


おめでたい噂を聞き付けまして』




『ん?おめでたい話?



何の話??』





『梅田さん・・・


昇進おめでとうございます!





そして、私は梅田さんが好きだと聞いていたお店のお菓子を


手土産としてお渡しした。





『ちょっと、やめようよーこういうの』




いえ、気持ちですので。


是非皆さんで召し上がって下さい』





その言葉が本心なのは


手土産を経費ではなく自腹で購入したところだが



さすがに露骨過ぎてそれは言えない。





『そんな事よりさ、吉田さん


今度飲みに行こうよ?』





『え?良いんですか?



私なんかで良ければ、是非ご一緒させて下さい!』




前から梅田さんにはお誘いを受けていたが


なかなかタイミングが合わなかった。




『そしたら、いつが良い?』




『梅田さんが大丈夫な時でしたらいつでも!』




『じゃあ・・・



明日は?








え?






『明日は俺、空いてるけど、吉田さんはどう?』




『あ、はい、明日ですね



も、もちろん、大丈夫ですよ!』







幾らなんでも


急過ぎじゃね?






と、内心思ってはいたが


それよりも梅田さん


この即断で数々の大きな仕事をこなしてきた結果が


今日に至るのだろう


そんな事を思った。




そして、それまでの会話を


どこか、社交辞令風にこなしていた自分が


とても恥ずかしくなった瞬間でもあった。







****************


『今日、19時30分に○○○という店を


私の名前で予約してます。



お店で待ち合わせしましょう』






梅田さんとの約束の当日。



お昼過ぎに私宛にメールが入った。





梅田さんの希望で


今回は神戸方面で席を設ける、との事だったが


残念ながら、私には神戸方面の土地勘が全く無い。





そこで、梅田さん


行きつけのお店を手配してくれたのだ。








pm19:00



約束された時間より


少し早い時間だったが


私は神戸に居た。





梅田さんから貰った情報を頼りに


お店を探す。







・・・歩き続ける事10分弱



ようやく見つけた。



イチゴな日々




お店の佇まいを見て一目で分かった。




『この店は




高級なお店だと』







『ふぐ』なんて、ちゃんとしたお店で食べた事ないよ?



ってか、『くえ』って何?




魚・・・なの?





極度のグルメ音痴の私でも


このお店が通常のお店と違う、と


気が付かせるのには十分過ぎる佇まいだった。





テーブルマナーに一抹の不安を抱えながら


お店に入る。





『いらっしゃいませ』




立派な旅館を思わせる様なお店の入口で


上品さを絵に描いた様な女将さんが出迎えてくれた。





梅田で予約をとっている者ですが・・・』




『あー梅田さんのお客様ですか!


お待ちしておりました、どうぞ上がって下さい』






未だ、梅田さんは来てない様だ。






案内されるがままに


お部屋に通される。



イチゴな日々




和室なのに


このテーブルと椅子・・・。







仕事上、何度もこの様な席を経験してきてはいるが



今日の席は



特段に格が上


だと言う事を、この部屋を見て再認識した。








時計は19:15分を指していた。





梅田さんが来る迄


まだ時間がある。





主賓が到着をする前に


今日の席をスマートに進める為に


私は店長の元へと向かった。









今回の席。




通常だったら




梅田さんの昇進祝い


会社的なお付き合い




以上の要素から


私が、と言うより私の会社が


お支払をするのが普通だろう。





しかし、梅田さんの事を考えると


(私より年上の梅田さん・会社的なポジション


私の事を弟の様に扱ってくれている)



梅田さんがお支払いをする可能性がゼロでは無い。





そこに甘えても良いのかも知れないのだが


流石に、そういう訳にも行かない。




だから、ここは敢えての



折半


と、言う選択肢を私は選んだ。





この後、もし2件目に移動した場合は


私(会社経費)が全て負担をすれば良いのだ。






そんな流れになった際に


経費で落とす際に必須になってくる領収書のやり取りを


スムーズに行う為に、事前に店長に事情を


伝えておく必要があったのだ。




全部、こちらが負担するのなら


通常の領収書



もし、折半と言う流れになったら


半額分の領収書をスムーズに貰える様に。





そこで私は店長に、こう告げた。




『今日のお支払いですが


もしかしたら折半になるかも知れませんので



その場合は、合計金額の


半額分の領収書を頂けますか?』




私の質問に対して店長が答える。




『それは大丈夫ですけど・・・


今日は梅田さんが出されると思いますよ?』



梅田さんの行きつけのお店の店長だけあって


梅田さんと言う人物を理解したであろう答えが返ってくる。



『そうなった場合は、なるべく折半


お支払いをする方向に持っていきますので・・・



状況が変わったら都度お伝えに来ます』




『かしこまりました。


それで・・・領収書はいつお渡ししましょうか?』




『後でコッソリ受け取りに行きますので』





会社の経費は湯水の様にある訳ではない。




少ない支出で、大きな利益を産む事に


悪い事はない



そんな打算的な考えが厭らしく映るかも知れないが



これも、立派な仕事の内だ。







準備を整えた私は


先程、通された部屋に戻った。



イチゴな日々


相変わらず


見事なお部屋だ。






改めてそう思った私は


時計を見て未だ時間に余裕がある事を確認した。




(梅田さんが来るまで、未だ時間ありそうだな・・・



せっかくだからお部屋の写真撮っておこうかな・・・)




そう思い私は、写真を撮り始めた。





(上手く撮れないなぁ・・・



もうちょっと遠巻きで撮るか・・・)




そう思い、私は一旦部屋を出て


廊下からパシャパシャと写真を撮った。







そんなに珍しいですか?(笑)




偶然通りかかった女将さん


突然、私に喋りかけてくれた。





・・え!?


あ、あの余りにも素敵なお部屋だったので、つ、つい』




突然の事で私は慌てふためいていたが


そんな私に女将さんは優しく




『隅々まで撮って頂いて構わないですからね!』


と、笑顔で答えてくれた。






そんなやり取りの後に



梅田さんがお店に到着した。




『ごめんごめん、待った?』



『いえ!さっき着いたばっかりです』






こうして


この日の会はスタートした。








運び込まれる料理は


どれもが『美味しい』と言う言葉だけで片付けるには


申し訳のない程、素晴らしい物ばかりだった。








素敵な空間


上等な料理にお酒




箸は止まる事を知らずに


次々とグラスは空いていった。




こんな状態で

会話が弾まない訳がない。





程なくして


先程の女将さんが挨拶に来た。




『梅田さん、今日は随分とお若い方を連れて来て~』





(言われる程、若くないんだけどな)





そう思う私を尻目に梅田さん


女将さんに私の事を紹介してくれた。




『今、一緒に仕事している吉田さん。


どう、女将さん、良い男でしょ?』





その言葉を本気で捉える程に、未だ酔ってはいなかったが


饒舌ぶりを見る限り、梅田さんの機嫌は上々の様だ。






女将さんが、退室した後に


梅田さんに、質問をしてみた。




『このお店、行きつけって言ってましたが


どのぐらいの頻度で来られるんですか?』




梅田さんからの、行きつけと言う情報



私も感じた店長女将さんの梅田さんへの態度を見てたら


このお店の常連の中でも特別な待遇を受けているのは


一目瞭然だった。






会話の流れでぶつけた質問に対して


梅田さんが答えてくれた。






『ここね、俺の付き合いの長い




同級生がやってる店


でさ』











え?








店長にはもう会った?


あれが中学からの同級生なんだよね』











店長に会ったも何も・・・






折半にするから半額分の領収書


後でコッソリ渡して下さい』って






すげー恥ずかしい


交渉してましたけど?







え?



あれ!?




あの店長さん・・・



梅田さん


同級生だったの!?








しかも中学の頃からの同級生って


すごい仲良しって事だよね?







それって・・・


さっきまで私がコソコソしてた内容・・・





きっと、筒抜けるよね?






ダメだって!


そんなん恥ずかし過ぎるって!!





そんな事があったとは露知らずに



梅田さんは続ける。





『このお店は、ずっと家族でやってるお店でね~


あ、さっきの女将さん



同級生お母さん


なんだけどね』







その女将さんって・・・




あまりにも素敵だった、この部屋を


物珍しく携帯で写メってる私の事を







物珍しく


見てた方ですよね?









あかん!



あかんって!






梅田さんの連れとして


恥ずかしい思いをされない様に


充分に準備してきた筈なのに・・・







ビックリするほど



恥ずかしい連れに


なってるよね?







その後の料理の味は


記憶の片隅に残る事は無かった・・・。




その後


終電ギリギリまで


神戸で過ごした梅田さんとの時間。





梅田さんとの更なるお付き合いの


始まりとなるに相応しい



そんな貴重な時間を過ごす事が出来た。







・・・え?


お会計?






予想通り、ご馳走されそうになったから


むりやり折半にして貰って


領収書も頂きましたよ?







半額分の


領収書をね








しかもコッソリとね。


イチゴな日々

たかが接待


されど接待



最高のお持て成しの道程は


果てしなく険しいことイチゴ





(※過去記事再掲載)