修行時代日記~第28話
199○年▽月×日
ヴァランスの三ツ星ピックでのランチを終えSNCFでシャニーに向かう。
星九つの旅。
一件目で既にグロッキー状態だが、今日のディナーはまた三ツ星だ。
シャニーの三ツ星<ラムロワーズ>
シャニーの駅からすぐ近くにある。
その駅とラムロワーズの目の前の小さなホテルにチェックインした。
井Kと二人部屋だ。
ディナーの予約時間は20:00。
まだ2時間くらいは時間がある。
すぐさまベットに横たわる。
「なあ、井K。」
「何?剛ちゃん?」
「きついな。(笑)」
このまま今日は何も食べないで寝てしまいたい。
そう思いつつ、うたた寝する。
~~~~~~~~~~~~~
「剛ちゃん!剛ちゃん!!起きて~!!」
はッ!!
時間か。
戦いの時間だ。
三ツ星との戦い。
ちょっと横になり少しはスッキリしたか?
B林先生、G籐君、I籐先生と合流する。
先生方はともかく、G籐君。
顔に余裕がある。
さすが、食べなれてるな。
よし、俺も負けてらんねえ!
食うぞ!
ラムロワーズの店内に入った。
まずはウエイティングバーで泡を一杯。
その後客席に移る。
メニューを手渡された。
B林先生が口を開く。
「さあ、どうする?」
さあ、どうする?ッたって、またデギュスタシオンでしょ?!
「よし!!ラムロワーズは好きな物をア・ラ・カルトで頼むことにしよう!」
「!!!!せ、先生!!」
デギュスタシオンでなくていいのね!!?
あ、あざっす!!
よし、何にしようかな。
ア・ラ・カルトの欄を見渡す。
前菜はアンブーレ・デスカルゴ。
これだ。
ラムロワーズのスペシャリテ。
エスカルゴをキャベツで包みたっぷりのバターの中で煮上げた料理。
以前学校の授業で習ったことがある。
前菜は決まりだ。
それと、メインは・・・・・。
<ピジョン・アン・ヴェッシー>
鳩の膀胱包み蒸し煮だ。
伝統的なクラッシックの料理。
学校でも習ったことがあるが、その時はプーレ、鶏だった。
むちゃくちゃ美味しかったが、それがピジョンだと・・・・・。
~~~~~~~~
アミューズを食べ終え、前菜が運ばれてきた。
アンブーレ・デスカルゴ。
見た目はいわゆるロールキャベツの様相だが、中には肉ではなくエスカルゴがたっぷり!
バターの中で煮上げてあるキャベツが柔らかく、最高にうまい!!
ピックで満腹になったのも忘れ、目の前の料理に没頭している。
さすがスペシャリテや!!
そして、メイン。
ワゴンが運ばれてきて目の前にはパンパンに膨らんだベッシーが!!
ベッシーは豚の膀胱を乾燥させたもので袋状になってるのだが、水で戻したそれに下処理した鶏、鳩を詰めブイヨンを加え縛る。ベッシーにブイヨンをかけながら火にかけ膨らんだベッシーに間接的に火を入れる調理法だ。
目の前でギャルソンが仕上げてくれる。
中のブイヨンが飛び出さないようにそっと袋を割り、ピジョンを取り出す。
木製のまな板の上でそれを捌く。
胸肉、もも肉と一瞬のうちに解体された。
胸肉は・・・・・見事なロゼ色だ!!
素晴らしい火入れである。
ベッシーの中では金串を肉にさしてキュイッソン、温度の確認はできない。
しかしながら素晴らしいキュイッソン!!
皿の上に盛り付けられ、煮汁に生クリームを足して煮詰めたソース、いわゆるソースシュープレームがたっぷりとかけられた。
皿には丸一羽のピジョン。
結構な量だが、今や俺のテンションはクライマックスだ!!
お腹いっぱいなはずが、むしろ食欲がわいてくる!
気が付けばペロリと平らげた。
ソースもパンで拭ってきれいに!
そのあとはお決まりのフロマージュ、ワゴンのデザートだったが、B林先生さすがに「全部もらえ!!」とは言わなかったので適度な量で切り上げた。
しかし、今はこの三ツ星ラムロワーズの余韻に浸りたい。
最高だった。
フランスに来て最高に美味しいものに出会えた。
今日食べた料理は10年、20年、いや、一生忘れないだろう。
これだけ人の記憶に残る料理これこそが本当のスペシャリテなんだと思った。
俺にもこんな人々の記憶に残る料理ができるのだろうか?
さあ、明日はコート・サン・ジャックでランチ。
胃の具合が心配だ。(笑)