修行時代日記~第18話~
199×年○月×日
JR有楽町の駅前についた。
アルバイト先のシェフ、調理場の方々と待ち合わせだ。
スーシェフのNさん以外は揃っている。
「Nは場所知ってるから先に行こうか。」、、、、シェフが言う。
有楽町のオフィス街にあるビルの地下。
そこにその店はある。
Aピシウス。
日本を代表するグランメゾンのレストランだ。
「う~~~、緊張する、、、、。」
着なれないスーツを身にまとい地下への階段を降りる。
凄い内装だ。
およそ自分には場違いだ。フランス料理に携わっていなければおそらく足を踏み入れる事はなかっただろう。
それくらいの格式がある。
もし、日本にミシュランのガイドブックがあるならば、間違いなく<三ツ星>だろう。
「シェフ、こんばんは。
お揃いでなければ、バーでシャンパー二ュでもいかがですか?」
ギャルソンがシェフに話しかける。
「おう、そうしようかな。」
「こちらにどうぞ。」
バーに案内される。
フルートグラスにシャンパンが注がれる。
テーブルに銀の蓋付の器が運ばれた。
ギャルソンが蓋をとる。
オリーブのマリネが入ってる。
食べてみる。
「う、美味い。」そして、シャンパンに、、、、合う。
もう手が止まらない。バクバクいっちゃう。
10粒は食べたろうか。
見かねたシェフが耳元で、、、、、「おい、剛。あまり食べ過ぎるなよ!」
そ、そうだ。危なくオリーブでお腹いっぱいになるところだった、、、、。
ふ~~。あぶねぇあぶねぇ。
Nさんが到着する。
さっとギャルソンが駆け寄る。「お揃いですか?ではサロンへご案内いたします。」
4人掛けのテーブルに案内される。
「こちらのお席の壁側にかかっている絵はシャガールの本物でして、、、、、」
「も、モノホンっすか!!」
うわ~~すげーなー。もし手が滑ってワインでもこぼしてその滴が絵にかかたりしたらやべ~~な!
、、、、、と要らぬ妄想などしてしまうくらい緊張してきた。
もう!!シャガールのモノホンとか言うなよっ!?緊張しちゃうじゃん!!
と、一人突っ込みを入れた所でメニューを渡された。
メニューを見る。
!?
ね、値段が、、、、、書いていない。
うわー。どうしよう、、、、、。
、、、、、今日はシェフのおごりなのかな~??
食べたいもの選んじゃっていいのかな??
、、、、、シェフの顔をチラ見する。
!?うわ!!にらまれた!!
どういう意味だ??空気を読めってことか???
、、、、、いや、ここは、この場面は、、、、、、、聞くべきだ。
「シェ、シェフ、、、、、どうしたら、、、、、。」
小声でシェフが言う。「コースじゃなく、アラカルトから前菜、メイン一品ずつ選べ。」
「か、かしこまりっ!!」
ギャルソンがオーダーを聞きに来る。
「では、僕は前菜に手長海老のポワレ、カレー風味と、、、、、、、
、、、、、メインはコルベール(青首鴨)のロースト、サルミソースを、、、、」
、、、、よし。注文は済んだ。ふー。と一息つきシェフを見る。
!?シェフの顔が心なしかこわばっている!
やべっ!!コルベール高かったのかな!?
でも値段が書いてなかったからしょうがないじゃん!!
コルベール食べたかったし!!
、、、、、と難なく危機を乗り越え、前菜が運ばれてきた。
手長海老。プリップリッ!!「うま~~い!!」
カレー風味がほんのりと効いて、シンプルだけに素材の良さが伝わる。
海老って好きだなぁ~~海老最高~~~~!!
そして、お待ちかねのコルベールが運ばれてきた!!
大きい皿一面にサルミソースがたっぷりと流されている。
鴨の肉は見えない。
ソースをかき分けてみる。
薄切りにされた鴨の胸肉が現れた!!
肉を一切れ口に運ぶ、、、、、、。レアに火を入れた鴨肉をかみしめると、滋味深い味わいが口に広がる。
そして、このソース!
ベルベットのようななめらかさ。鴨のうま味と野性味が混然一体となって襲いかかる。
「こ、これは、、、、、、う、うまい、、、、、。」
初めてジビエを食べた。
初めてジビエを食べた店がAピシウスというのは、なんとも贅沢な話だが。
これが、本物のフランス料理
その後、チーズ、デザート、食後酒まで頂き、、、、、、、、
「う~~おなか一杯、、、、。」
く、苦しいが、今日食べた味は一生忘れない。
舌に記憶させる。
こうして、舌に一つ一つ記憶させていく、、、、、。
本物を知れば知るほど一流の舌に近づいていく。
そして気になるお会計だ。
シェフがカードをだした!!
「シェフ!!ゴチになります!!」