■米国で急成長中の「Hulu」上陸!?日本でテレビ番組の無料配信が進まない理由 | 渋谷からお届けします!

■米国で急成長中の「Hulu」上陸!?日本でテレビ番組の無料配信が進まない理由


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ようやく民放とNHKが有料配信に本腰を入れ始めた日本とは対照的に、米国のテレビ番組配信サービスは、すでに“無料配信”へと向かっている。

 特にABC、NBC、FOXのテレビネットワークが参画する無料配信サイト「Hulu」が、YouTubeなどに次ぐ巨大動画配信サイトとして急成長している。

 会員数は数百万人規模(正式な数字は非公表)。昨年の米大統領選挙の際、コメディ番組内で放送された「共和党副大統領候補のサラ・ペイリン氏のパロディビデオ」を配信したところ、ユーザーに大受け。これをきっかけに台頭したのだ。

 Huluは今年6月時点で、「ザ・オフィス」「フレンズ」「ザ・シンプソンズ」などの人気番組を含む約5万本のテレビ番組と約400本の映画を、動画広告を付けて無料配信している。多くの番組が、テレビでの放送後24時間以内にHuluで配信されるという。

 ユーザーインターフェースも分かりやすく、「Facebook」などのSNS上に動画を埋め込めるなど、ネット上での共有もしやすい。さらにHuluで流れる動画広告には「好き」「嫌い」というボタンが表示され、視聴者は商品の感想をスポンサーに伝えることもできる。

 番組数がケタ違いに多い、配信が素早い、SNSで共有しやすい、なにより無料で放送番組を見られる――。日本の番組配信サービスと比べて、Huluは大きく進んでいる。このような無料配信サービスが日本でも実現すれば、テレビの視聴方法は大きく変わるだろう。

 実はこのHulu、「すでに日本のテレビ局に数度にわたって接触している」と、業界内で噂になっている。当然、日本への進出やサービス展開も期待されるところだ。

 だが、Huluのような広告付きの無料配信は「日本の現状ではまだ難しいだろう」というのが、テレビ業界の見方。「米国のようにテレビ番組のネット配信が進まないのは、著作権の問題が複雑なため」と思いがちだが、大きな問題は別にある。それは「ネット広告」だ。

 実は「日本のネット広告の市場規模は米国の数分の1で、動画広告の規模も小さい」(フジテレビデジタルコンテンツ局デジタル事業センター室長の塚本幹夫氏)。また、一部大手サイトを除いてはネット広告料金が低く抑えられているため、動画広告の単価も上がりにくいといわれる。さらに「日本ではサーバーなどの配信コストが米国に比べて高い」(博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所所長の榊原廣氏)という指摘もある。

 要するに番組を無料配信しても、現状のネット広告では採算が合わないのが問題なのだ。「日本のネット広告の構造を変えていかないと、テレビ番組の無料配信はビジネスにならないだろう」(業界関係者)。また、番組ではなく、テレビCMをネット配信するための権利処理が進んでいない事情もあり、配信番組に動画広告を付けにくい要因になっている。

 放送番組では「この番組は~の提供でお伝えします」というセリフが定番だが、これもネット配信の障害になっている。こうした「提供スポンサー」というスタイルは、実は日本にしかない独特のもの。「『この放送番組は自分たちのもの』と考える提供スポンサーだと、その番組のネット配信は難しくなる」(業界関係者)。数社提供の番組ならネット配信のハードルは比較的低そうだが、今度は「競合他社の広告は入れない」など、広告を付ける手間や交渉ごとが大変になるという。

 これらの要因から、Huluのように放送番組をそのままネットで無料配信するのは、ビジネスとしてはまだ難しい。今後は有料配信サービスを成長させていくか、日本型の新しい無料配信モデルを構築していかなければ、テレビ番組配信ビジネスの“次の一歩”は導き出せないだろう。


出典:nikkei TRENDYnet