転校生 | kyupinの日記 気が向けば更新

転校生

成人して精神病状態を呈し入院したアスペルガー症候群の若い男性患者さんがいた。彼はかつていじめを受けていたという。

ある時、SSTで皆と一緒に空港に行ったところ、彼だけ自動販売機の周りをグルグル回り、全然まとまらなかった。この年齢になって、自動販売機のどこが面白いのかと思うが、つまり本人の興味がそのようになっているのだ。皆で行っているので、そこで道草すべきではないが、つまりは集団行動が苦手ということなのであろう。

アスペルガーなどの疾患の場合、「少し変わっている子」と思われていても、学校でそれが個性として受け入れられていることがある。そのような受け入れられ方をする理由は、まず、ずっと小さい頃から彼をみんなが知っているというのがある。皆から、そういう子と思われている。また、ずば抜けてある教科が秀でていたり、特定のことですごく博識だったりと、一目置かれているのである。

彼は変わっているけど、教室での「キャラ」を確保していたのであった。

アスペルガーの子供がいじめを受けやすいのは、周囲と同調して生活することが苦手で、空気も読めないため、行動面で浮いてしまうことが大きい。

個性として認められていたアスペルガーの子供の大きなピンチの1つは転校する時であろう。新しい教室、同級生の中では、かつてのキャラは通用しない。ここでは本人も環境にいつまでも慣れないため、何もなくても行動がギクシャクする。バランスが崩れている状況では、やはり彼らはいじめられやすいし、そんなことがなくても不適応を起こしやすい。

アスペルガーの家族だが、僕の患者さんたちに限れば、両親のどちらかが、やはりアスペルガーだったということがほとんどない。1人だけ、母親が非常に軽いがアスペルガーだったことがある。普通、アスペルガーは男子に多いので、これは少し珍しいのかもしれない。

僕は彼女を入院治療したことがあるが、告知はしなかった。あまりにも本人にとってショックなことだと思うので配慮したのである。

アスペルガー症候群は、正常者からコアな人たちまでなだらかに連続しており、切れ目がない。ちょっとアスペルガーの方角に変わっている人を、そう診断して良いかどうかは微妙だ。「そういう色彩がある」だけにとどめるようにしたほうが良いかもしれない。たとえ入院したとしても、社会的不適応が目立たない人たちは。

僕には、アスペルガーの家族は非常に子供思いのやさしい家族が多いという印象がある。これは両親がそうでなかったというのが大きいのかもしれない。家族に病状を説明している時、あの話を聞く時の熱心さ、真剣さは、知的発達障害児の家族にあまりにも似ている。この点ではアスペルガーの家族は統合失調症のそれとは趣を異にしている。

平均してアスペルガーの家族が高学歴かどうかはともかく、知的な職種についていることの方が多いようなので転勤は普通にありうる。彼らにとって、環境的に険しい道のりなのである。