ハリセンボン


病棟はお産の人ばっかりでした。
かわいそうだからって個室に入れてくれました。

でも廊下に出ると、精も根も尽き果てた出産前後の人がネグリジェ着て、まるでゾンビのように(失礼)よろよろ~、よろよろ~と歩いています。
夜になるとうめき声やさけび声が、あちこちから響いてきます。

高校生には刺激強すぎ。
とっとと切って取って、とっととここから出して。


手術は夏休みの終わり。8月31日でした。
「まだ若いから回復が早いように」腰椎麻酔だそうです。

あれは下手な人がやると神経に針がささってむちゃくちゃ痛いらしいですね。男先生ちょっと不器用だという噂だったので心配してたのですが、あっさりと注射が終わりました。

「ほぉぉ、なかなかうまいじゃん」

油断させられました。


手術が始まり、お腹を切られたのはまったくわかりませんでした。
でも突然胃のあたりに激痛が走り、

私は手術台の上で、

たぶんお腹に手を入れられたまま、

暴れました。

「ウギャー、やめてーー!」


あのね、注射したところより下は麻酔が効いてるけど、それより上は効いてないわけ。
ところが腫瘍はもう肋骨のすぐ下、胃のあたりまであって、べったり癒着してたわけ。
それを引っ張ってベリベリはがすわけ。

そこ、麻酔効いてないわけ。

後に「内臓の癒着をはがされるような痛み」という痛みの表現があることを知りましたが、実際に体験したことがある人も珍しいでしょう。


全員に抑えつけられました。
「我慢しなさい!」
ゼイゼイ。

落ち着いたところでまたベリっと。

「ウギャー、もうやめて」
「我慢しなさい! すぐ終わるから」
「え、はぁ、え、あとどれくらい?」
「なぁに30分くらいだよ」
「そんなに耐えられないー」

手術って、抑えつけられて痛いの我慢してするものなん? 違うよね?
嫌な予感的中しちゃいました。
もういいから。途中でもいいから家に帰して(;_;)

動かせる上半身をばたつかせて暴れる私に手術は一時中断。
全身麻酔され、10数える前に意識がなくなりました。

最初から、全身麻酔でやりなはれ。


後に聞いた話ですが、とり出した腫瘍を計ってみたら4キロあったそうです。赤ちゃんならまぁぁ大きな赤ちゃんだこと。
でも妊娠末期というほどにはお腹も出てなかったですから、平らに、それこそお腹全体に、あったんでしょうね。

そんなんエコーでわかってたでしょうに。