「貸与制になるとこうなるかも」脚本 | 明日の法曹を育てよう!! ~司法修習生給費制維持活動ブログ~

「貸与制になるとこうなるかも」脚本

おはようございます、給費制維持活動弁護士です。

はりきってます。



今日は昨年京都弁護士会で行ったシンポでの寸劇の脚本をご紹介します。

あくまでフィクションですので、よろしく(笑)。







寸劇

「貸与制になるとこうなるかも」脚本

劇団 ごしょぐるま



登場人物

・ 75期修習の修習生 兼梨

・ 兼梨の友人の修習生(女性)佐土

・ 経営優先弁護士 成金

・ 若手イソ弁 磯部

・ 二世弁護士 跡継

・ 85期修習生 薄井

・ ナレーション 











第1部



<第1部の登場人物>



○兼梨修習生○

 今から10年後、新75期(平成33年度)の司法修習生にして本劇の主人公。子供の頃、親が助けてもらった弁護士の姿に憧れ、「市民に寄り添う法律家」を目指し司法試験に合格。しかしお金がないのが悩み。奨学金の借金と貸与制によって増えた借金を前にして、押しつぶされそうな今日この頃である。

キャラ設定: 押しに弱そうな感じ。



○佐土修習生○

 新75期(平成33年度)の司法修習生。兼梨修習生とは友人で、修習の同級生。既婚者であり、夫の稼ぎのおかげで何とかお金に困らずに修習している。以前は、社会正義を実現する弁護士を志していたようだが・・・。

キャラ設定: 隠れドS。





<第1部脚本~「75期司法修習生の会話」>



*場面はイスと長机のみ。使用マイクは2本。2人が話をしている。





【ナレーション】:それでは始めたいと思います。

   弁護士、裁判官、検察官は、まとめて法曹三者と言われ、1年間の研修を受けた後になることができます。その研修中、研修生は、「司法修習生」という身分が与えられています。

   司法修習生は、その1年間、アルバイトなどが一切禁止されています。その一方で、その間の生活費として給与が支払われてきました。これを「司法修習費用の給費制」といいます。

   ところが、65期からは貸与制という貸し付け制度になりました。「生活できなければお金を貸してあげますよ、だから後日返済しなさい」というわけです。もちろん、1年間アルバイトなどが禁止されていることは変わりありません。

   この貸与制が導入された根拠は、「受益者負担」、すなわち、「法曹の資格をとったら稼ぐことができるのだから、法曹になるための費用は自分で負担しなさい。」ということでした。この「受益者負担」が意味するところは何か、今回は、寸劇によって1つの可能性を検討したいと思います。



*このあたりで兼梨・佐土右から入り、座っておく。



【ナレーション】:最初の場面では、今から10年後の2021年、75期の司法修習生が、模擬裁判の準備中、就職について会話しているところから始めます。

   なお、個人名、設定はあくまでも「フィクション」ですので、ご了解ください。CAST説明、用語解説をご覧になりながら見ていただけると、より一層ご理解いただけると思います。



(舞台明転)



【兼梨】:あーあ、模擬裁判って結構大変やなぁ。こんな短い間に書面をかかなあかんとか思ってなかったわ。

【佐土】:そやなぁ。結構面白いけど、こんなんがあと3日続くと、思った以上に大変やね。夜遅くまで準備かかるし。そういえば兼梨くん、就職どうなってんの?こんなんやったら就活に時間をとる時間もないよね。

【兼梨】:そやねん、実はまださ、僕、就職先決まってないんよ~。めっちゃやばいわ、どないしょ。。。(泣)

【佐土】:私は決まりそうやで。希望どおりの就職先やないけど、奨学金と貸与制の返済考えたら、わがまま言うてられへんしね。兼梨君、どんな就職活動してるん?社会問題を扱う事件をやりたいとか、そんなわがまま、まだ言うてんちゃうん?

【兼梨】:昔、僕の親が困ってるときに、一生懸命助けてくれた弁護士がいたんや。どうせ弁護士なるんやったらそうなりたいんよ。社会正義とか、法の支配とか、弁護士魂とか、そういうのを追求したいねん。そやし、困っている市民に寄り添う法律家になりたくて、そういう仕事ができるところを探してんねん。そやけど、そういうとこなかなかあらへんねんな~。

【佐土】:(ドSな感じで)何言うてんの?兼梨君!貧乏なくせに、選んでる場合ちゃうやん!就職できるだけでラッキーなんやで。お金返せへんからって、法科大学院に行くの諦めた人や、法科大学院行った後でも司法試験受験中に途中であきらめた人も、いっぱいおったやろ?!司法試験に受かっても、貸与制の負担が大きいからって、修習行くの結局諦めた人もいたやろ?!貧乏な兼梨君が「市民に寄り添う法律家」とか言うてられへんやん!!

【兼梨】:えぇ?ちょっと待ってえや。佐土さんかて、お金にならんでも社会正義を実現したいとか、この前言うてたやん。どないしたん?

【佐土】:確かに前はそう言うてたけど、現実を見て考え変わったんよ。私が決まりそうな、祇園お茶屋法律事務所に面接に行ったときさあ・・・



(暗転。兼梨、佐土右側へはける)







<用語集>



・ 奨学金

  能力のある学生に対して金銭の給付・貸与を行う制度。



・ 司法修習

  司法試験合格者が、法曹資格を得るために課せられる研修のこと。修習期間は1年間。裁判所、検察庁、法律事務所に配属され、実務に触れながら様々な研修を受ける。



・ 司法修習費用の「給費制」or「貸与制」

  今まで司法修習生の生活費は、国が修習資金として給付していた(給費制)が、新64期からは生活費を貸し付ける貸与制に変更となる。司法修習生はバイト等の兼業が一切禁止されているので、貸与制になれば事実上借金せざるを得ないことになる。



・ 法の支配

  専断的な国家権力の支配を排し、国家権力を法で拘束するという、人権保障のための基本原理。今回の司法制度改革も「法の支配を日本の隅々にまで行き届かせる」ことを理念としている。



・ 弁護士魂

  法の支配を守るためには、在野の法曹である弁護士が、時には国家権力と闘う姿勢を見せなければならないという弁護士の心構えや使命感を指す。



・ 法科大学院(ロースクール)

  司法試験を受験するには、原則として法科大学院(ロースクール)を卒業しなければならない(例外:予備試験を合格するコース)。法曹養成のスタートラインとされ、高度な教育がなされる。学費免除がある場合もあるが、一般的には高額の学費がかかり、約半数の学生が奨学金を受けており、その平均は300万円を超える。



・ 貸与制の保証人

  修習資金の貸与を受けるには、自然人2名又は最高裁が指定した金融機関を保証人に立てる必要がある。自然人の保証人はそれぞれ年収150万円以上又は資産額300万円以上でなければならず、例えば両親に保証人になってもらおうとしても、父親に資力があっても、母親が専業主婦で財産がない場合には、母親は保証人になれない。



・ 貸与制の機関保証

  最高裁指定の金融機関が保証人となるが、これを機関保証という。機関保証をしてもらった場合、2%が保証料として貸与金の支払額から差し引かれる。









第2部



<第2部の登場人物>



○佐土修習生○

新75期(平成33年度)の司法修習生。

兼梨修習生とは友人で、修習の同級生。

既婚者であり、夫の稼ぎのおかげで何とかお金に困らずに修習している。以前は、社会正義を実現する弁護士を志していたようだが・・・。

キャラ設定: 隠れドS。



○成金弁護士○

貸与制が導入された、新65期(平成23年度)に修習を受けた弁護士。

3回目の挑戦で司法試験に合格したため、給費制での修習を受けることができなかった。今は祇園お茶屋法律事務所を構え、何よりも事務所の収益を優先している。イソ弁を多数雇用し、月毎の売上げノルマも課しているのだとか・・・。

キャラ設定: 尊大でオーバーアクション。



○磯部弁護士○

新70期(平成30年度)に修習を受けた弁護士。

祇園お茶屋法律事務所勤務。厳しい就職難の折、成金弁護士に採用してもらったため、ボスの尊徳弁護士に頭が上がらず、自分のやりたい仕事も我慢している。

キャラ設定: 腰巾着。





<第2部脚本~「就職活動1 佐土修習生の場合」>



*場面はイスと長机のみ。使用マイクは3本。成金はいつも通りの感じにデフォルメを入れて。左側に磯部、成金、右側に佐土。



ナレーション:お金がない兼梨修習生は「市民に寄り添う法律家」にこだわる弁護士を目指しているようですね。それに対し、佐土修習生は、就職できるだけでラッキーと思っていて、まずは就職しないといけないと思っているようです。

   でも、どうやら、佐土修習生は元からそんな考えだというわけではなかったようですね。



(成金・磯部左側から入る。佐土右側から入る。全員座っておく。)



【ナレーション】:さて、お金にならなくても社会正義を目指していた佐土修習生。彼女に一体何があったんでしょうか。次の場面は、少し遡って、佐土修習生の就職活動を振り返ってみます。場所は祇園お茶屋法律事務所です。



(舞台明転)



【佐土】:(真面目な感じで)初めまして、佐土と申します。よろしくお願いします。

【成金】:(いつものように尊大な感じで)弁護士の成金です。いやいや、お待たせして申し訳ないねえ。うんうん。

【磯部】:磯部です。ここでイソ弁させていただいております。

【成金】:早速やけど、佐土さんはどんな弁護士になりたいんや?

【佐土】:(一層真面目な感じで)夫の暴力とかDVを受けている人、困ってる人を助ける弁護士になりたいです。お金にならなくても、社会正義を実現する弁護士になりたいなあと・・・・・

【成金】:(オーバーアクションで) あま~~~~~い!

【佐土】:ええっ!?(どん引き)

【成金】:ケーキにあんこを乗っけてハチミツかけて新郎新婦がニヤけるよりあま~~~~~い!!

   (尊大に持っていた扇子を広げ、磯部に向けて)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【成金】:佐土さんの言いたいことは分かる。それが弁護士魂であることも分かっとる。しかし、現実は甘ないんやで。貧すれば鈍すんのやで。

【佐土】:それは分かってます!!

【成金】:いんや、分かっとらへん。(自分の考えに確信を持ち、分かってない若手を諭すように)わしはなあ、65期、つまり、修習資金が貸与制になった最初の年に弁護士になったんや。貸与制導入の議論がされたとき、国は、「受益者負担」やから、つまり、「弁護士は将来金儲けするんやから、その卵の司法修習生に金出すのはおかしい」って言い切ってるんよ。「受益者負担」ってのはな、まずは稼いで借金返せってことなんやで。国が社会正義や法の支配を本気で考えてるんやったら、そんな制度なんか作らへんで。

   (尊大に持っていた扇子を・・・以下略)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【佐土】:(追いすがって)でも、弁護士法1条1項は、弁護士の使命として、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」って言うてます。弁護士って、別にお金を稼ぐためだけに仕事をするわけやないと思うんですよ。

【成金】:(感情を込めず)そらそうやけどね、実際はそんなこと言うてられへんのや。社会正義とか弱者のためとかは、稼げるようになってからや。まずは金になる事件をせなあかんし、金にならん事件は割り切って切り捨てな、実際には事務所を経営でけへんのやで。そうせなイソ弁や事務員の生活すらも、守れへんのや。

   (尊大に・・・略)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【佐土】:(すがるように)でっ、でも、現実に困ってる人が目の前にいたら、切り捨てるなんてでけへんと思うんですけど。。。先生もそういう弁護士を目指したってお聞きしたことがあるんですが。。。

【成金】:(諭すように)確かに、そう思ったこともある。でも、社会正義とか弱者のためとか言う前に、自分がやっていけなあかんのや。夢があって法律家を考えてた人でも、金がかかるからって目指すのをやめたり、金の返済が無理やからって途中で諦めたりした人、佐土さんの周りにもいっぱいおるやろ?

   (ものすごく感情を込めて)わしかて金がないのに、かろ~じて弁護士になれて、苦労~して事務所を立ち上げて、や~っとここまで来れたんや。それでもまだ、貸与制の借金返せてへんのやで。金にならないDV問題とか言うてる場合ちゃうねんで。


   (いつものように尊大な感じで)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【佐土】:(ちょっと気落ちした感じで)じゃあ、先生はどんな仕事をされているんですか?

【成金】:ま~、もっぱら一般民事やなあ。国選弁護はボランティアみたいなもんやし、裁判員裁判なんかは利益率が低すぎる。国に給料もらって育ててもらった年配弁護士はともかく、ワシらはあんなんやってやる義理はないわ。

   (いつものように尊大な感じで)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【佐土】:(ちょっとつついてみるつもりで)でも、刑事事件には弁護人が必要やないですか。憲法にもはっきり書いてあるんやし、弁護士は刑事事件をやることが大事やないんですか?

【成金】:(畳みかけるように)憲法?!だから、んなもんでは食えんっちゅうの!「受益者負担」になったんやで!国が、「弁護士は稼ぐのが商売」って決めたんやで!「受益者負担」にしといて、稼げへん仕事をさせられるいわれはないやんか!そもそも事務所を維持できひんようになって、弁護士辞めなあかんようになるやん!

   (いつものように尊大な感じで)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【佐土】:(洗脳されつつある感じで)う~ん。。。そういうことなんでしょうか。。。

【成金】:(追い打ちをかけるように)あくまで、弁護士はサービス業なんやで。貸与制にして、弁護士は受益せぇ、金儲けせえって、そう国が決めたんやから、しゃあないやん。

   (いつものように尊大な感じで)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【佐土】:(洗脳されてしまって)う~ん、なるほど~。納得です~。

【成金】:さて、そんなとこかな。まずは稼がなあかんってのを理解してくれたら、佐土さんをうちで採用したってもかまへんで。

   (いつものように尊大な感じで)ですよね?磯部先生?

【磯部】:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。

【佐土】:(元気よく、洗脳されて顔を明るくして)どうもありがとうございました。今日は本当に勉強になりました。目から鱗です。



成金左側へはける、磯部、何か言いたげな感じを残しながら、左側へはける、その後、佐土は右側から左側へ移動



(舞台暗転)



<用語集>



・ イソ弁・軒弁

  法律事務所に雇用され、給料をもらう(居候している)弁護士のこと。弁護士の採用形態は色々あるが、就職難のため新人の採用条件は年々悪くなっており、給料は出ないが事務所経費も免除される間借り(「軒弁」=「軒を借りる弁護士」)での採用も増えている。



・ 受益者負担

  利益を受けるものが負担すべきという考え方。貸与制導入の際の議論では「司法修習生は、将来弁護士になって儲けるのだから、弁護士になるための費用は司法修習生が負担するべき。」という意味で用いられた。だが、この時弁護士の仕事の公益性や、国民が利用し易い法曹を養成するという観点からはあまり議論されなかった。



・ 弁護士法1条1項

  「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定されている。弁護士の社会における役割である。



・ 民事事件、刑事事件、一般民事

  弁護士の仕事は大まかに「民事事件」、「刑事事件」に分かれる。民事事件のうち損害賠償請求、交通事故、債権回収といった一般的なものを総称して「一般民事」と呼ぶ。



・ 私選刑事弁護、国選刑事弁護

私選刑事弁護は、被告人・被疑者が弁護士が選任し、弁護料を支払う。国選刑事弁護事件は、被告人・被疑者が私選弁護人を選任することができない場合に、国が弁護料を支払い弁護人を選任する。国選弁護は、私選に比べて弁護料は低いが、憲法上の要請でもあることから(憲法37条3項)、ボランティア感覚でやる弁護士も多い。






第3部



<第3部の登場人物>

○兼梨修習生○

今から10年後、新75期(平成33年度)の司法修習生にして本劇の主人公。

子供の頃、親が助けてもらった弁護士の姿に憧れ、「市民に寄り添う法律家」を目指し司法試験に合格。

しかしお金がないのが悩み。奨学金の借金と貸与制によって増えた借金を前にして、押しつぶされそうな今日この頃である。

キャラ設定: 押しに弱そうな感じ。



○佐土修習生○

新75期(平成33年度)の司法修習生。

兼梨修習生とは友人で、修習の同級生。

既婚者であり、夫の稼ぎのおかげで何とかお金に困らずに修習している。

以前は、社会正義を実現する弁護士を志していたようだが・・・。

キャラ設定: 隠れドS。



○跡継弁護士○

新68期(平成28年度)に修習を受けた弁護士。成金弁護士の3期下。

親が弁護士であったという理由で司法試験を目指し、教育資金も全て親に出してもらった。弁護士登録してすぐに親の事務所に入ったため、就職活動でも苦労していない。

キャラ設定: とらえどころのないぬぼーっとした感じ。







<第3部脚本~「75期司法修習生の会話」>



*場面はイスと長机のみ。使用マイクは3本。また2人が話をしている。



*兼梨右側から入る



【ナレーション】:佐土修習生には、そんなことがあったんですねえ。「お金にならなくても社会正義」っていう考えは甘いと思い知らされたようです。ここで場面はまた、先ほどの、司法修習生が会話しているところに戻ります。



(舞台明転)





【兼梨】:ふうん、そんなこと言われたんや。。。

【佐土】:(ドSに兼梨を説得する感じで)ほんま、目から鱗やったわ。貸与制、「受益者負担」ってことは、国は、私らに稼げって言うてるってことやで。弁護士はまずは稼いでからしか、使命なんか考えられへんのやで。国は、公益活動とか人権擁護とかのために法律家を育てようっていう気がないから、貸与制にしたんや。危うく貧乏くじ引くとこやったわ。兼梨君も、社会正義のためとか、かっこええこと言うのはええけど、そんなんにこだわって現実が見えてへんのちゃう。兼梨君はあまいわ(吐き捨てるように)。

【兼梨】:それはそうかもしれんけどさ~。。。(凹む)確かに僕は、奨学金でだいたい300万円、貸与制で300万円の予定で、修習が終わるときには借金が600万円になってるしなあ。。。既に奨学金の返還も始まってるけど、貸与金で奨学金返さなあかんというのも、こんなんでええんやろか、と思うわ。

   貸与制で保証人いるから、これ以上迷惑かけられへんと思って、機関保証にしようかとも思ったんやけど、親戚に貸与制で機関保証受けると、月々4000円くらいオリコにピンハネされるやんか。結局、親父と、妹の旦那に保証人になってもろたんやけど・・・。ほんま、情けなかったわ(泣)。

   修習はじまる時かって、実家からは通えへんから引越費用もかかったし、毎月の賃料かかる。それに健康保険も国民年金も、両方自分で払わなあかんやん。これも痛いんやわ~~~。やっぱり、僕の考え方が甘いんかなあ。(悩)



(跡継弁護士、ぬぼーっと左から入って来、佐土と兼梨に気づき、その間へ。)



【跡継】:(間のイスに座って)やあ、模擬裁判の方は、どうなってる?・・・なんやどうしたんや兼梨君、元気?(一応兼梨を気遣う)

【兼梨】:あ、跡継先生、今、就職活動厳しいなっちゅう話をしてたんですよ。そういや跡継先生は67期でしたよね?やっぱり就職ではご苦労されたんですか?

【跡継】:(しれっと)あ、いや、僕は就職活動は全然苦労してへんで。

   (他人事のように)僕の期は、就職活動で苦労して、借金増やした人、返済に追われてる人、挙げ句の果てに弁護士辞めた人もいるな。それやったら最初から、一般企業に就職した方が良かったのにな。

【佐土】:跡継先生は何で就活で苦労してへんのですか?

【跡継】:(当たり前のように)僕は親父が弁護士やからね。最初から親父の事務所に入るって決まってたし、就職活動自体してへんねん。今は弁護士になるのにすんごい金かかる時代やんか。法科大学院から司法修習を終えるまで、最短でも4年弱かかるやろ。お金がないのに、弁護士なんか目指す人の気が知れへんわ。

しかも、その間企業に就職した同期は1000万円以上稼ぐのに、僕らは司法試験の受験で手一杯、法科大学院では勉強づけで大変やし、修習資金は貸与で結局無収入やん。それでいて今は弁護士も就職難やろ。司法試験受かっても、法律事務所に就職できるかもわからへんやん。就職先を先に目星つけてからでないと、司法試験なんか、リスク高い割にメリット少ないし、計算ができるヤツほど、目指さへんやろ?。

【兼梨】:そうなんですか。。。でも、そやったら、跡継先生は何で弁護士を目指そうと思ったんですか?

【跡継】:まあ成り行きかな~。サラリーマンも安定してへん時代やし、どうせやったら親の跡を継いだらええかなって思って。親の顔で仕事もろてたら、ま、今でもなんとか食っていけるやろと思って。   

【佐土】:(びっくりした感じで)成金先生とはえらい違いですねえ。成金先生はずいぶん苦労されたっておっしゃってましたよ。

【跡継】:成金先生は、お金ないのに弁護士にならはったから、えらい苦労しはったそうやわ。苦労しすぎて、依頼者にはえらくお金に細かい弁護士になってしまわはったみたいやけど。彼も昔は、弱い人を助けたい、社会正義を実現したい、「市民に寄り添う法律家」を目指したいって言うてたそうやけど、今では見る影もないなぁ。(感情込めず)気の毒に。まあ、貸与制っちゅうのは、そういう考え方の制度やしね。

【兼梨】:ところで、跡継先生は新人弁護士を採用しないんですか?

【跡継】:(若干間をおいてから遠いまなざしをして)んー。ないな!ま、兼梨君も、大変やろけど、就職できんかったら、今からでも他の道考えた方がええかもしれんな!ま、がんばりや!(人ごとのように、言い捨てて、左側へぬぼっとはける。)

【兼梨】:(見送って)「今からでも他の道」とか言われてもうた・・・(汗)そうか。。。やっぱり僕が甘かったんか。。。



(舞台暗転。佐土右側へはける、兼梨左側へ)



<用語解説>

・ オリコ

  ㈱オリエントコーポレーション。この度、最高裁から貸与制の機関保証の金融機関と指定された。



・ 弁護士登録

  弁護士として業務をするには、各地の弁護士会への弁護士登録が必要である。弁護士会の運営費用等として、弁護士登録費、弁護士会費を納入する必要がある。











第4部



<第4部の登場人物>



○兼梨弁護士○

第3部からさらに10年後、弁護士になった兼梨君。一体どんな弁護士になっているのか。

キャラ設定: 尊大にしているが、板についていない感じ。



○薄井修習生○

兼梨修習生のさらに10年後(今から数えて20年後)、新85期(平成43年度)の司法修習生。

「市民に寄り添う法律家」を目指しているようだが・・・。

キャラ設定: ちょい役なので特になし。







<第4部の脚本~「就職活動2 薄井修習生の場合」>



(場面はイスと長机のみ。使用マイクは2本と、袖のマイク1本。)





【ナレーション】:お金がない兼梨修習生が悩んでいるところに、厳しい現実が突きつけられてしまいました。「市民に寄り添う法律家」を目指す兼梨修習生は、跡継先生の言葉にどんな影響を受けてしまったのでしょうか。



*薄井右から入る

   今度は、さらに10年後の2031年を見てみましょう。兼梨修習生が弁護士になって10年、85期の司法修習生の薄井君が面接に来ました。



【薄井】:初めまして、薄井と申します。よろしくお願いします。

【兼梨】:弁護士の兼梨です。お待たせしました。早速やけど、薄井君はどんな弁護士になりたいんや?

【薄井】:(感情込めず)私は、「市民に寄り添う法律家」になりたいと・・・

【兼梨】:(アクションを付けて尊大に)あま~~~い!!ケーキにあんこを乗っけてハチミツかけて新郎新婦がニヤけるよりあま~~~~~い!!

【薄井】:(どん引きで)はあ・・・。

【兼梨】:(とにかく「言いたいから言う。」という感じで)言いたいことは分かる。それが弁護士魂であることも分かっとる。しかし、現実は甘くないんやで。貧すれば鈍すんのや。私も最初は薄井君みたいに考えてましたよ。でも、奨学金と貸与制の借金があって、それが返せへんと、「市民に寄り添う法律家」になんて、とてもやないけどなれへんのです。この10年、つくづく思い知らされたんよ。私も、金がないのにかろ~じて弁護士になって、苦労~して事務所を立ち上げて、や~っとここまで来れたんです。それでもまだ貸与制の借金が残ってるんですよ。

   まだ私は「市民に寄り添う法律家」になれないんですよ。私ですら!(一通り八つ当たりをして落ち着く)

【薄井】:(尺の関係上、あっさりと洗脳される)そうですね。確かに、貸与制って、要は依頼者から金をもらって返せってことですもんね。「市民に寄り添う法律家」なんて言ってたらあかんのですね。(納得する)

【兼梨】:うんうん。まずは稼がなあかんってのを理解してくれたら、薄井君をうちで採用したってもかまへんで。

   (尊大に持っていた扇子を広げ、袖に向けて)

【兼梨】:ですよね?磯部先生?

   (磯部左側から入る、袖のマイクで)

磯部:はいっ、まさに先生のおっしゃるとおりですぅ・・・。





(暗転。いったんはける。兼梨、磯部左側へ、薄井右側へ。)









<エンディング>



【ナレーション】:いかがでしたでしょうか。「市民に寄り添う法律家」を目指す兼梨修習生は、現実に押し流されて理想を見失い、「受益者負担」の前に弁護士魂を失ってしまったようです。

   この寸劇は、あくまで1つの可能性です。実際には弁護士は、そんなに簡単に使命を捨てたりはしないでしょう。

   しかし、寸劇のとおり、「受益者負担」というのは、稼ぐことが大前提です。これは、弁護士に課されられた、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」という使命と、必ずしも両立するとは限りません。

   貸与制は、単なる借金の問題ではありません。裁判官、検察官を含めた法律家に求められている使命よりも、まずは稼ぎなさいと、国が決めてしまったということが問題なのです。

   この寸劇をご覧になった皆さんには、ぜひその本質をご理解賜りたいと思います。

(みんな出てきて並ぶ)

   どうもありがとうございました。