君のためなら千回でも/カブールへの帰還 | 旅行、美術館、書評

君のためなら千回でも/カブールへの帰還

                    君のためなら千回でも(下巻) (ハヤカワepi文庫 ホ 1-2)/カーレド・ホッセイニ

下巻はペシャワール ( Peshawar アフガン国境に近いパキスタンの町) での
ババのかつてのビジネスパートナー、ラヒム・ハーンとの再会からはじまります。

  「タリバンが入ってきてカブールから北部同盟を追い出したとき、
  私はあの通りで踊ったものさ」ラヒム・ハーンは続けた。

  アメリカは楽観主義のおかげで偉大な国になったが、
  おまえにも楽観主義を植えつけたようだな。
  じつにいい。
  それにくらべて、私たちアフガン人は憂鬱な国民だ。
  悲観や自己憐憫の泥沼でのたうちまわってばかりいる。

この小説を読んでいてもアフガにスタン人と日本人はどこか似たようなところがあるように感じます。 
滅びの美学 という言葉が思い浮かびましたが、ちょっと違うような気がします。 

しかし、両者ともアメリカのもつ底抜けの明るさ のようなものはないですね。
日本人はアフガニスタン支援は特に熱心なような気がしますが、気のせいでしょうか。

  1996年、タリバンが攻め入ってきて、日常的に行われていた 
  戦闘を終結させた日を、
私たちはどれだけ喜んだことか。
  だが、その夜帰宅したときの、キッチンでラジオを聞いていた
  ハッサンの様子をいまでも覚えている。
  ちっともうれしそうな目をしていないんだ。どうしたんだと訊くと、
  ハッサンはただ首を振って、こういった。
  「レヒム・ハーン・サヒブ、神がハザラ人を救ってくれますように」
    ・・・
  その数週間後、タリバンは凧合戦を禁止した。
  そして2年後の1998年、タリバン軍は
マザリシャリフで、
  大勢のハザラ人を虐殺した。

タリバンの登場です。
ハザラ人からすれば、タリバンが自分達にどのような影響を及ぼすのか、わかっていたようで
すが、パシュトゥーン人 はまさか、後のタリバンの暴走は予想していなかったはずです。

「わたし」はペシャワール経由でカブールに帰還し、はじめてタリバンを目にします。

  一台の車がわたしたちの方に近づいてくる。
  「”顎ひげパトロール隊”のお出ましだ」ファリドが小声でいった。
  実際にタリバンを見たのはこれがはじめてだった。
   ・・・
  赤いトヨタのピックアップトラックが、わたしたちの横をゆっくりと通りすぎた。

このシーンは印象的でした、なぜなら。
  「ビンラディンは、私たちタリバンの部隊が大きな損害を出し、苦境に陥ったようなときに、4WD車を
  まとめて4,50台買って送ってくれたんです。
そういうことが私の知る限り3回ありました。その援助
  は戦況に決定的な
変化をもたらしました」
  タリバンの戦闘シーンの映像資料を ・・・ 多くの場合、その車体後部には TOYOTA か NISSAN
  の文字が書かれていた。
ビンラディンがその財力にものを言わせ ・・・・
                                  「大仏破壊」 第6章 ビンラディンの贈り物 より

「君のためなら千回でも」で「トヨタの」の形容詞付のトラックが登場した
のはこの1ヵ所だけだったのではないかと思いますが、著者は何気なく
この作品にいろいろなものを織り込んでいるようにも思えます。

この小説は映画化されましたが、映画の中ではどのようなシーンが製作
されているのが興味深いものがあります。


[ 関連図書 ]
大仏破壊―ビンラディン、9・11へのプレリュード (文春文庫 た 63-1)/高木 徹
      去年(2007年)の4月に文庫版がでたときに読んだものですが
      この本でどのようにして救いの神であった、タリバン
      テロ集団のようになっていってしまったのかが、はじめて
      わかりました。
 
      大宅壮一ノンフェクション賞受賞作品
      しられざる「9・11」の真実

「君のためなら千回でも」では戦闘を終結させたタリバンが虐殺行為を行うに至る経緯は描かれていませんが、この「大仏破壊」ではタリバンが、その最高指導者ムハンマド・オマル 師がオサマ・ビンラディン  に取り込まれていく様子が描かれいます。


タリバン (光文社新書 (003))/田中 宇

    この本は 911 (2001年9月11日)の発生まもない10月にいくつか
    出版されたタリバン関連の本ですから、もうこれを読んだのは
    随分前のことになります。

    久しぶりに読み返してみると
     「 タリバンが首都カブールを攻め落とし政権の座についた裏には、
      パキスタンのブット首相が地元軍指揮者と二人と会い、交通ルート
      の確保の要請をしていた 」
             第1章 タリバンとオサマ・ビンラディンとアメリカ 
               などの記述がみられます。 そう、先日、暗殺された元首相です。
              (2007/12/27 ブット元首相暗殺 パキスタン情勢は混迷