ロンドンで暮らしていた頃、娘と一緒に何度も足を運んだコヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウス。
その歴史ある劇場で、オペラとバレエを愉しむのは、私にとって何よりも幸せな時間でした。
どっしりとした真紅の幕が上がると、そこからは、夢のような世界に誘われるのです。
7月1日、東京文化会館の幕が上がった瞬間、海を越えて、あの香り高きロイヤルバレエ団と再会することができました。
バレエの中でも最も好きなロミオとジュリエット。
プロコフィエフの音楽と踊りの融合が、1+1=2 ではなく、何倍も何十倍もにも膨らむのだと観るたびに感じます。
その舞台を支えるのが、舞台上では見えない様々な人々のプロの仕事です。
振り付けを始め、舞台監督、舞台装置、照明、衣装etc.
以前、聞いたことがあります。
幕の上げ下ろしのタイミングが一瞬でもズレると舞台が台無しになってしまうのだと。
さて今回のロミオとジュリエット。
ロイヤルらしいシックで落ち着いた色合いの衣装が、14世紀のヴェローナの微かに土を含んだ風を運んでくるかのようです。
ストーリーは、皆さんご存知の通り。
私から見れば悲劇の原因は一言 “若気の至り"
この世に命ほど大切なものはないのに、最も簡単にそれを投げ捨ててしまう。
そして、若き二人の恋には、還暦の近づいた私は、つい呟きたくなります。
"たとえ結ばれても一年くらいで冷めるわよ" と。
けれども、生の舞台の上では、舞踏会の躍動感溢れる舞踏会のシーンに胸踊り、若き二人の初恋の喜びに自然と笑みが浮かび、若者たちが争う場面での緊迫感に息を呑み。
そして、無理やり父親に好きでもない相手と結婚させられそうになったジュリエットの項垂れたか細い後ろ姿に、胸が締め付けられるのです。
アナ・ローズ・オサリヴァンは、その時を精一杯生きた少女ジュリエットの、初々しさと繊細さを見事に表現していました。
実はこの日のチケットは、次の日の公演と間違えて買ってしまったのです。
いかにも私のやらかしそうなことですが、今回はそれが吉と出ました。
天に向かって(誰に向かってかは分からないけれど)感謝しました。
あの舞台から一週間近く経った今でも、私の中にはプロコフィエフの響きが鳴り止みません。
そして、音楽に携わる仕事をやっていて良かったと、改めて思います。