胡桃澤盛のブログ

戦間期の農村に生きた一青年の日記。長野県下伊那郡河野村。大正デモクラシーの時代、左傾青年運動にも心を寄せていた胡桃澤盛(くるみざわ もり)は、やがて村長となって戦時下の国策を遂行する。その日記には、近代日本の精神史が刻み込まれていると言えよう。


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九月二十二日(月曜) 晴

繭掻きをした。面白くない。

昼休みに『放浪』という本を見た。□□と云う人の作で、余り大した物では無いが面白いと思った。

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九月十九日(金曜) 晴

朝作りりにコンクリー用の砂を上げる。

食後、前日運搬せる礫を土蔵内に入れる。

午后夕迄此の作業を為す。

夜、村社祭典余興の寄付に廻る。安田金造氏の組を廻る。良く話しが判るので痛快だった。予定以上忽ち定る。

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九月十七日(水曜) 曇

朝、残部の上簇。後、一昨日上簇の分の上拾いを為す。

心理学上何と解説するか知らんが、人間には相反する物象を禧ぶ心理作用がある。今日自分が長姫神社の花火を見に往こうとした。其の時往こうと決心すると行かぬ方が良い、風に吹かれて、電車に乗り遅れて、足を棒にしてなどと考えて、行く事が嫌になる。次に歇め様とすると、花火の彼の本で聞く音がたまらない情調る。斯うした相反した事、即ち人間の真正面に向うべき道を厭う事がになる。神経衰弱等と云う連中に時に此の傾向は深い。

夜、往かぬ積りで居たが、街道端へ行くと芦部君が行こうと云うので、来合せた大倉君と三人行くと、市田駅で電車がとても混雑して屋根迄盛んに乗ってる程で、到底行く事が無図可しいのでやめて帰る。

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九月十四日(日曜) 晴

熟蚕が早い処には見え初めた。秋蚕は経済上最も有利な様に思える。捨ておけば落葉する春蚕用の桑葉を用いて飼育し、気温も本年の如く秋涼の気が早く来ない年は炭火を要する事も少しでいゝ。用桑を取り入れるに小用である故労力が省略出来る。少し桑を虐待する気になれば春に百貫取った畑で七拾貫位いは取れる。秋蚕をうんと飼う必要がある。

夜、今宮の煙火だ。市田の菓子屋迄往くと途中に皆煙火見物ばかりだ。帰り堤防の頭を来る。明月の筈だが雲って居て月は出ぬので四辺は淡く明るくて、こんな夜、こんな処を〈Sと〉散歩したらと思〔う〕。二拾〔人〕程石の上に腰を下して花火を見る。犬の仔一匹通らん。天竜の水が静かに流れる。

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九月十三日(土曜) 晴

四時離床。給桑を了るも夜明け渡らず。食後除沙を行う。

朝霧深く定めて、桑の露乾かぬ為め九時頃より摘桑に往く。

日記を附けてるのも何の為めか判断に苦しむ。

此の日記帳が備えて在る限り、何にか日記文を書く必要があった筈だ。それが今日になって見ると白線を汚すに苦しんで居るのである。

こんな馬鹿な事のある筈が無い。頭が悪くなったんだ。感情が鈍くなった。精力が衰えたと云えば最〔も〕適切だ。

書こうとする力が抬頭して来ぬのだ。

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九月十二日(金曜) 雨

起きて見ると危険な天気模様なので急いで給桑を為し直ちに夜の明ける頃摘桑に出掛ける。雨は三十分後よりジャアジャアと降り出した。緊張した顔で熱心に一語も発せず皆よく摘む。雨露の雫は作は首に流れ込むが一語の不平も出さずに摘む。他の仕事であったら黙しては居なかろうに。養蚕大明神だからもったものだ。

夕方、歇む。

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九月十一日(木曜) 晴

階下で起きて来い来いと呼ぶ声に眠から僅かにめると製糸工場の汽笛がビービーと細い神経質な響きを立てゝ居る。起き出て雨戸の開いてる間から望むと工場の赤い突が淡く見えて其の本に白い水蒸気が見える。一面の桑園の中では虫がチリチリチリ、コロコロコロ、グシャグシャグシャ、クシャクシャクシャった様な声で盛んに鳴き立てる。秋だ秋だ。鶏は舎の中でトケッコッコと叫ぶ。皆、鶏に〔も〕草叢の中の虫にも思春期が来たのだ。彼れ等は異性を求めて鳴いてるのだ。生の誇張だ。

閑人が秋は静かだ、総ての実熟る、そして物思いに沈んだ様なんて云う。けれ共彼等虫は性慾の充実の為め必死となって恋愛戦に憂き身をやつして居るんだろう。

なんて思い乍ら日記を書いてると、盛んに屋外で鳴きたての蚤が足部へ食い附く。

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九月十日(水曜) 晴

昼休みに補習桑園の摘桑入札を行う。竹村氏落札。代金弐拾六円七拾七銭。後で収入役の処へ堤防の人工賃を受取りに行くと、村長が補習料は何か研究をしてるか云うので其の間に又視察旅行でもする積りだと答えると桑園で研究せよ、然らずんば、取り上げ相な権幕だ。校長も口を出す。癪に触る。銭だけ費消してしまえば文句はないのだ。

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九月九日(火曜) 晴れ

朝、薄暗い頃起き上ると戸外では初秋の虫の音が天のずらしめる自然の音楽の如く響く。人生の楽園の様だ。天竜河原の向側を霧の中を長い灯を薄く見せて走って往くのは一番の上り電車である。鶏と豚、家鳧に朝の餌を与えて給桑する。

此の頃の朝の気分は何んとも形容出来ぬ程清浄な気分だ。

後れたのを一柵残して他は全部力桑を入れた。

午后、市之沢へ摘桑に往く。

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九月八日(月曜) 晴

人間、否総ての生物は必ず一度生を享けて地上に現れ生存して居る限り必ず死滅する。而し人間は、お前は今死ぬぞと云われると驚くが、やがて自分の死ぬ事に関しては無頓着だ。無頓着であるから気楽に生きて居られるのだ。生れて出て食って死ぬ。之だけの人生乎。利己主義を揮って、人を苦め倒し自分のみがより良く生き様とする、こうすれば満足して居られる程の生物だ。豚や馬と異わない。性慾の結果として生れ、社会制度の為めに虐げられ、且〔つ〕苦しみ人をのろい、怒り、欺きして行くのが人生。然かも根本に触れず、人生の根本に触れ解決し得ずピポコンデリヤにでもなれば、やれ気違い、困った者が出来たと云う。然し思え、誰れが馬鹿であるかを。

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