エレンの言葉を、リヴァイはずっと黙って聞いていた。
泣きじゃくる彼を見て、リヴァイは思う。
彼は大人によって制約を受けた、ただの15歳の少年だと。
15歳と言えば、自分はまだ地下街でゴロツキだった。
巨人の駆逐だの、そんな大層な夢など掲げずに、
ただ自分の好きなことを好きなようにしていた。
今思うと、退屈な日々が酷く恋しい。
仲間を失っていくごとに、後悔の嵐が自身を襲った。
軽かった翼も、今や『人類最強』という重しによって羽ばたきを失いかけている。
後悔しかないと思っていた。
澄んだ瞳をした、この少年に会うまでは。
ずっと空いていた自分の隣に、彼は違和感なく居座った。
彼の優しさに、心が大きく揺さぶられる。
今まで他者と一定の距離を空けていた自分が、初めて自らその距離を縮めようと奮闘した。
「なあ、エレン」
「・・・・・?」
「俺はお前のことを心の底から愛している。
だからもし巨人を全て駆逐したら―――――――俺と結婚してくれないか?」
「( ゚Д゚)?」
エレンがバッとリヴァイの肩から顔を上げ、信じられないような表情を浮かべる。
心の声が、彼の表情にしっかりと刻まれていた。
今、何て言いました?リヴァイさん。
「すべてが片付いたら、結婚しようと言った」
「に、二回も言わなくていいですよ!!!!」
エレンの顔が見る見る間に紅潮していく。
彼の泣き顔も好きだが、こういう照れた顔の方が自分は好きだった。
「ふ、不謹慎にも程がありますよ!どうして今言うんですか!?」
「正直、巨人が全て駆逐されてから言うつもりだった」
「だから、どうして―――――――」
「だが、いつ死ぬか分からない状況で―――――――この言葉を伝え損ねることだけは避けたかった」
「―――――――――――――――」
「昨日俺の班は、俺とお前を除く四人を失った。
俺は奴らの意思を受け継ぐために、決して立ち止まらない」
そう思い続けて、今までこうして生き延びてきた。
「今までに俺は多くの仲間を失ってきた。
その意思を、今までは全て自分一人で背負い続けるつもりだった。だが――――――」
リヴァイはそこで言葉を切った。
先ほどまで慌てていたエレンが、今は真摯に自分の言葉に耳を傾けている。
彼のそういう所も好きだと、リヴァイは改めて思った。
「お前にもその意思を背負ってほしい。そして俺よりも先に死ぬな・・・・・・命令だ」
その言葉にエレンは優しく微笑んだ。
また彼の表情に、心の声がしっかりと刻まれていた。
命令されなくても、必ず遂行しますよ。リヴァイさん。
エレンは漸く待ち望んだ言葉が聞けたことに喜びを隠せずにいた。
笑みが零れないはずがない。
「はい!」
彼の迷いない返答を聞いて、リヴァイはふと自分の身体が軽くなったことに気が付く。
先ほどまで重く圧し掛かっていた『何か』が、ふっと軽くなった気がした。
羽ばたきを失った翼が、自分の身体に合う形へと変形していく。
「俺は死にません。そしてリヴァイさんも死にません。
俺だって巨人を全て駆逐したら、リヴァイさんと結婚したいですもん」
「・・・・・・・」
「照れてますか?」
「削ぐぞ」
「すみません」
いつも通りの他愛もない会話が始まる。
エレンを監視するという名目で、エレンとリヴァイは同室となった。
夜は互いが寝ることを確認するために、同じベッドで眠る。
以前に増して、二人の距離はグッと縮まった。
「ねえ、リヴァイさん」
「ガキは早く寝ろ」
「もし俺たちが生きている間に、巨人が駆逐できなかったら・・・・」
「・・・・・・・・・」
リヴァイはエレンに背中を向けていたため、寝返りを打ち、エレンのいる方へ向く。
するとエレンと目が合った。
どうやら彼は、こちらを向いて話しかけていたようだ。
「変なこと想像する暇があるのなら、寝ろ」
軽くエレンの鼻を摘まむと、バッと寝返りを打ち、彼に背中を向ける。
太陽が沈み、夜という闇が、この少年の不安を煽っているのだろう。
しょんぼり肩を落としているエレンを察したのか、リヴァイは軽くため息を吐いた。
「この時代で報われなくても、いつかまたこの世に生を授かることがあるだろう。
そしたら俺はお前を見つけ出して、今以上に甘やかしてやる。だから安心しろ」
「!」
「だが俺は、この時代で幸せになるつもりだ。てめェはそうじゃねェのかよ」
「そ、そう意味で言ったわけじゃありません!お、俺は―――――――――」
そんなエレンの様子に苛立ち、リヴァイはバッと起き上がる。
驚いているエレンの方を向き、再び横になると、彼を深く抱き込んだ。
そして彼の額に軽く口付けする。
「!?」
「いいから寝ろ。次はねェぞ」
そう言い放つと、リヴァイはすぐに眠ってしまった。
どうやら昨日眠っていない分、だいぶ疲れがたまっているようだ。
エレンは暫くリヴァイの寝顔を見つめていた。
彼の温もりを直に感じ、不思議と安心感に包まれる。
眠気が徐々に自分を襲い、深い眠りへと誘った。
夢の中で、自分は真っ白な空間に佇んでいた。
『エレン』
何処からか聞き覚えのある声が聞こえる。
声の主が視界に入らなかったが、エレンにはその声が誰なのかすぐに分かった。
自然と涙が溢れだす。
『おい、エレン。何泣いてんだよ』
『ったくよー。これだからガキは』
『ちょっとオルオ!あなたは黙ってて!!』
『エレン、辛気臭ェ顔すんなって』
裾で涙を拭い、エレンは精一杯敬礼をする。
どんどん遠ざかっていく声を聞き逃さないよう、エレンはこみ上げてくる言葉を抑えて必死に黙っていた。
『んじゃまあ、先にあっちで待ってるぞ、エレン!またな』
声の主が一人、別れを告げて去って逝く。
「ありがとうございました・・・・エルドさん」
エレンは今出せるだけの精一杯の敬意と感謝を込めて礼を述べた。
『エレン。お前と過ごせて本当に楽しかった。ありがとな』
声の主がもう一人、別れを告げて去って逝く。
「ありがとうございました・・・・グンタさん」
『ったく、いつまでも泣いてんじゃねェーよ!先に行くだけだろうが。ゆっくり後から来い』
声の主がまたもう一人、別れを告げて去って逝く。
「ありがとうございました・・・・オルオさん」
『エレン』
その声と共に、何か温かいものがエレンを包み込む。
『エレン、今まで本当にありがとう・・・楽しかったわ。幸せになって』
温もりがエレンからそっと離れて行く。
それが堪らなく辛く感じられ、エレンはその方向に手を伸ばした。
その温もりをこの場に留めておくために。
「ま、待ってください!ペトラさん!!!」
彼女の名前を呼ぶと、何故かペトラが自分の目の前にいるような感覚に陥った。
『エレン、あと一つだけ・・・我儘言ってもいいかしら』
「はい・・・・っ」
『リヴァイ兵長を・・・・宜しくね』
そう言い、微笑んだ彼女が見えた。
エレンは再び敬礼する。
そして大きな声で返事をした。
「はい!!」
最期までこの場に残っていた声の主が、別れと願いを告げて去って逝く。
「ありがとうございました・・・・ペトラさん」
暫くその場でエレンは泣いていた。
悲しいからではない。
最期に彼らに会えたことが、堪らなく嬉しかったからだ。
会えて良かった。
貴方たちに会えて、本当に良かった―――――――――。
リヴァイもエレン同様の夢を見た。
やはり最後までその場に留まっていたのは、エレンの時と同様にペトラだった。
『リヴァイ兵長』
「なんだ?」
『エレンを、幸せにしてあげてください。そして、あなたも』
その言葉を聞き、リヴァイは目を見開く。
消えていく温もりに向かって、リヴァイはスッと手を伸ばした。
「ああ、約束しよう。お前たちは―――――俺の元で働いたことを、後悔しているか?」
『いいえ』
リヴァイにはペトラの温もりが消える間際に、彼女が自分に向かって微笑んだような気がした。
『あなたの元で働けて、幸せでした』
その言葉を残し、最期の温もりが完全に消え去った。
「ああ・・・・・俺も、幸せだった」
静かに涙を流しながら、彼はそう口遊んだ。
会えて良かった。
お前たちに会えて、本当に良かった――――――――。
あなたには理解できますか?
残された者の、計り知れない苦痛が。
そして。
逝ってしまった者の、計り知れない後悔が。
→続く
→ついに進撃の巨人夢小説投稿です(*ノωノ)
→本当にこの二人大好きすぎてpixivで荒ぶっていましたwwww
→ここまで読んでいただき、ありがとうございましたwwwww
→次辺り、転生しようと思いますwwww
→ではでは。