社会保障・税一体改革素案 2/3 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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社会保障・税一体改革素案
~消費税率引き上げに先行する拡充によって社会保障の効率化は道半ば~
(第一生命経済研究所 経済調査部 副主任エコノミスト 鈴木 将之)


○給付を先行させた社会保障改革

 まず、改革の1つ目の柱である社会保障改革に焦点をあてる。今回の社会保障改革では、充実3.8兆円とともに効率化・重点化▲1.2兆円を行い、差し引き2.7兆円(消費税率換算で1%)の機能強化(制度改革)が行なわれる(資料1)。しかし、効率化・重点化に関わる多くの項目が「検討」にとどまるなど、充実面の先行が目立っている。そのため、このままでは十分な効率化・重点化が進まない可能性が高まっている。その場合には、機能強化のうち制度改革に伴う増分が拡大するため、当初の予定のように財政健全化が進まなくなる恐れがある(資料2)

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(1)子ども・子育て

 現役世代を中心とした社会保障の拡充の目玉政策の1つである子ども・子育て分野では、子育てする家庭を支援するために幼保一体化や地域型保育給付を目指している。地域型保育給付とは、地域の実情に応じて小規模保育、家庭的保育、居宅訪問型保育、事業所内保育などに対する給付支援であり、新設される制度である。

 また、子どものための現金給付(児童手当、子ども手当などに相当)も引き続き実施される見通しとなっている。こうしたシステムを機能させるために、実施主体は基礎自治体(市町村)であり、社会全体による費用負担を行うことと定めている。

 平成24年度の主な取り組みとしては、待機児童解消のため保育所等の受け入れ児童数を拡大、安心こども基金の延長、待機児童解消先取りプロジェクトの取り組み、放課後児童対策の充実などを図るとしている。平成23年度第4次補正予算案では、安心こども基金の1年間延長経費を計上しており、先取りした形で政策が進められつつある。


(2)医療・介護等①地域の実情に応じた医療・介護サービスの提供体制の効率化・重点化と機能強化

 医療・介護については、「あるべき医療提供体制の実現に向けて、診療報酬及び介護報酬の改定、都道府県が策定する医療計画に基づく地域の医療提供体制の確保、補助金等の予算措置等を行うとともに、医療法等関連法を順次改正する」としている。

 特に、病院・病床の機能強化、急性期病床の位置づけや在宅医療の明確化などの医療サービスの提供体制の制度改革を進めること、医師の地域間や診療科間の偏在の是正のための取り組みを推進することなどがあげられている。また、地域包括ケアシステムの構築のため、医療、介護、予防などを含めて在宅を基本とした生活の継続を目指すことになっている。居宅生活を続けるためには24時間対応の訪問サービス、小規模多機能型サービスなどの充実や、さらにサービス付き高齢者住宅の充実も盛り込まれている。さらに、医療と介護の連携強化などもうたわれている。

 平成24年度の取り組みとしては、(1)病院勤務医などの負担の大きな医療従事者の負担軽減と、(2)医療と介護の役割分担の明確化と地域における連携体制の強化の推進及び地域生活を支える在宅医療等の充実の2つの重点課題に取り組み診療報酬の改定がある。その中で、①地域包括ケアシステムの基盤強化、②医療と介護の役割分担・連携強化、③処遇改善等を通じた介護人材の確保などに取り組む介護報酬の改定も行われる。これに伴い、平成23年度に成立した介護サービスの基盤強化のための介護保険法等一部改正法(24時間対応の定期巡回・随時対応型サービス等)を円滑に実施することにしている。さらに、平成25年度から実施される都道府県による新たな医療計画作成指針の改定や補助金等予算措置を推進することになっている。


(3)医療・介護②保険者機能の強化を通じた医療・介護保険制度のセーフティネット機能の強化・給付の重点化、低所得者対策

 「働き方にかかわらない保障の提供、長期高額医療を受ける患者の負担軽減、所得格差を踏まえた財政基盤の強化・保険者機能の強化、世代間・世代内の負担の公平化、といった観点から、医療保険・介護保険制度のセーフティネット機能を強化する」ことが目指されている。

 医療については、市町村国保の財政基盤の強化と財政運営の都道府県単位化を図り、被用者保険については短時間労働者への適用範囲を拡大させる。また、高額療養費の年間上限については財源確保の上での導入を目指すことになっている。

 また、高齢者医療制度については、支援金を各被用者保険者の総報酬に応じた負担とすることを検討するとしている。平成24年度については約2,000億円をあて、1割負担に軽減している70-74歳の患者負担(本則は2割)についても見直しを行う。

 介護保険については、65歳以上の加入者の保険料(第1号保険料)の低所得者軽減を強化し、介護納付金の負担を医療保険者の総報酬に応じた按分法(総報酬割の導入)を検討することになっている(現行制度は40-64歳の加入者数に応じて按分されている)。さらに、家計全体での医療・介護・保育等に関する自己負担の合計額に上限を設定する「総合合算制度」の創設をうたっている。

 平成24年度の取り組みとして、後期高齢者医療制度廃止に向けた見直しのための法案を通常国会に提出すること、所得水準の高い国民健康保険組合に対する国庫補助を見直すことがあげられている。


(4)年金

 従来、詳細が分からなかった民主党の年金改革案が若干明らかになった。まず、所得比例年金(社会保険料方式)を維持したうえで、「所得が同じなら同じ保険料、同じ給付」とすること、「保険料は15%程度(老齢年金に係る部分)」とすること、「納付した保険料を記録上積み上げ、仮想の利回りを付し、その合計額を年金支給開始時の平均余命などで割って、毎年の年金額を算出」することなどがあげられている。

 つぎに、7万円(現在価値)の最低保障年金(税財源)の創出があげられる。「生涯平均年収ベース(=保険料納付額)で一定の収入レベルまで全額を給付し、それを超えた点より徐々に減額を行い、ある収入ベースで給付額はゼロ」にするとされている。また、「所得比例年金と最低保障年金の合算で、概ね7万円以上の年金を受給できる制度」にするとされている。

 すべての人を対象とする制度であるためには、所得の捕捉が必要だ。この大前提として、所得や税などを一体的にとらえるために2015年に導入される社会保障・税番号制度が必要不可欠である。また、最低保障年金において、今まで規定通り保険料を支払ってきた人とそうでない人に対して一律に最低保障年金を給付するのかも問題となる。また、現在では基礎年金は所得にかかわらず等しく受給されており、国庫負担分も等しく配分されている一方で、素案の最低保障年金(税財源)は一定の収入レベル以上には給付されなくなる。つまり、税を支払ったものの、その分の給付を受けない人が現れることになり、年金内における再分配の性格をさらに強めたために、新たな不平等を発生させることも懸念される。税を財源とした年金を受給できなくなる一定の収入とはどのくらいの年収なのかも不明である。これらの点をどのように整理するのかを今後、詳細に示す必要がある。

 また、現行制度の改善として、物価スライド特例分の解消が実施される(資料3)。平成11~13年度に物価スライドの特例が実施されたため、本来であれば、物価下落に対応して年金支給額を減らすことになっていた部分が支給され続けている。そのため、現在では本来よりも2.5%高い年金給付水準となっている。この結果、累計で7兆円ほど年金を支払いすぎている。今回の改革案では、これを平成24年度から26年度にかけて解消するために、平成24年度通常国会に法案を提出する予定だ。しかし、仮に、この法案が成立しても、平成26年度まで支給しすぎの状態が続く。

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 年金について上記のような効率化が進む一方で、「検討」とされた項目が多い。たとえば、毎年▲0.1兆円の公費を削減できるマクロ経済スライドのデフレ下での発動が見送られる。マクロ経済スライドは現役世代の減少や平均余命の伸びなどを勘案して年金支給総額を削減する仕組みであり、平成16年度の制度改革の目玉の1つであった。これが機能しないということは、年金財政を悪化させるため、追加の公的負担などがないかぎり、年金財政の持続可能性が脆弱なものになりかねない。

 また、在職老齢年金の見直し、標準報酬上限の見直し、支給開始年齢の見直し、第3号被保険者制度の見直し、短時間労働者に対する厚生年金の提供拡大など、重要な改革項目が検討にとどまっている。これらは日本経済・社会の構造変化を考慮すれば、検討ではなく、より現実に適した制度に改めていくことが必要であり、それが社会保障の綻びの修繕になるものである。