諸外国の給付付き税額控除の概要 2/3 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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諸外国の給付付き税額控除の概要
(国立国会図書館)


Ⅱ.諸外国の給付付き税額控除

1.アメリカ

(1)勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit)

(ⅰ)導入の経緯

 アメリカでは、給付付き税額控除である勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit:EITC)が、フォード政権下の1975年に導入された。主に中低所得者について、重い社会保険料負担を軽減するためであった。その後、クリントン政権下で、福祉受給者の就労を促すため、福祉受給の制限と併せてEITCが大幅に拡充された。

(ⅱ)概要

 EITCの特徴は2点ある。1つは、対象を中低所得者に絞るために、前述の通り、税額控除額に逓増・定額・逓減の部分が設けられていることである。もう1つは、適格な子の数に応じて税額控除額が大きく変わることである(表1)

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 夫婦子2人(夫婦共同申告)の場合、最大5,036ドルの税額控除を受けられる。

 EITCの受給要件は、①勤労所得が一定額以下、②有効な社会保障番号を有する、③婚姻カップルの場合は夫婦共同申告、④外国所得を得ていない、等の全てを満たすことである。また、資産に関連する要件として、⑤投資所得は3,100ドル以下でなくてはならない。

 ここで、適格な子とは、19歳未満の子又は24歳未満の学生であること等一定の要件を満たす者を指す。

 EITCは、確定申告時に所得税額から控除され、税額を超過する分は給付される。なお、申告に際しては、本人の社会保障番号だけでなく、配偶者や適格な子についても社会保障番号を記入する必要がある。


(2)児童税額控除(Child Tax Credit)

 児童税額控除(Child Tax Credit:CTC)は、1998年に、子どもを有する家庭の負担を軽減するために導入された(※6)。適格な子(17歳未満等の要件を満たす子)1人あたり、1,000ドル(2011年からは500ドルに減額)の税額控除が与えられる。

 CTCには上下に所得制限があり、所得が3,000ドル以下(※7)の者には適用されず、所得が一定額(夫婦共同申告の場合110,000ドル、夫婦個別申告の場合55,000ドル、その他の場合75,000ドル)を超えると、超過分につき5%の割合で減額される。

 CTCは、確定申告時に所得税額から控除される。税額を超える給付(Additional Tax Creditと呼ばれる)は、制度の導入当初は子が3人以上の場合に限定されていたが、2001年の法改正により、一定額以上の所得を有する場合にも範囲が拡大された。現在では、①与えられた児童税額控除の控除額のうち税額と相殺し切れなかった額と②所得が3,000ドルを超過する分に15%を乗じた額との、いずれか小さい方が給付される。


(3)MWP税額控除(Making Work Pay Tax Credit)

 オバマ政権下では、景気対策の一環で、2009-2010年の時限措置として、新たな給付付き税額控除(Making Work Pay Tax Credit、以下「MWPTC」)が導入された。

 MWPTCの対象は勤労世帯の95%で、勤労者1人あたり400ドル(夫婦共同申告の場合は800ドル)の税額控除が源泉徴収時に与えられる。MWPTCは、税額控除額が所得税額を超える場合、社会保障税(勤労所得の6.2%)と相殺されるが、給付は行われない。


(4)給付付き税額控除の執行と諸問題

 EITC、CTC、MWPTCのいずれも、執行機関は内国歳入庁である。

 EITCについては、支給額全体の2-3割にも及ぶという過誤・不正受給が大きな問題となっている。その背景には、制度の複雑(※9)さに起因する過誤申請や、不正申請(代行業者による組織的なものを含む)等がある。これらが申請件数の膨大さや申請から給付までの期間の短さと相まって、1件あたりの額は少額でも、全体として巨額の過誤・不正受給を生んでいる。不正受給対策としては、納税者番号(社会保障番号を納税者番号として活用)を利用した所得情報の捕捉、保健福祉省を通じた子どもの数の確認、ペナルティの導入(過誤申請の場合は2年、不正申請の場合は10年間、EITCの申請を認めない)などが行われている。

※6)児童に関する負担軽減措置としては、19歳未満の児童又は24歳未満の学生を扶養する者に認められる人的控除(3,650ドル)がある。人的控除における所得に応じた減額措置は、2010年にいったん廃止されたが、2011年にはサンセット条項により復活する。児童手当は存在しない。

※7)従来は主に中所得者を対象とする制度であったが、オバマ政権下で時限的に低所得者にも適用されることとなった。

※9)アメリカの個人所得税制は、互いに重複する諸控除の存在によって複雑化しており、概算控除、人的非課税、児童税額控除、勤労所得税額控除等の再編・簡素化が税制改革上の大きなテーマとなっている。



2.イギリス

(1)導入の経緯

 イギリスでは、第三の道を標ぼうするブレア政権のもとで、「welfare to work(福祉から就労へ)」が掲げられ、社会保障と税制の統合が進められた。1999年に、従来の家族控除(Family Credit)を拡充する形で給付付き税額控除である就労世帯税額控除が導入され、2003年に現行制度(※11)に移行した。現在は、低所得者の就労促進策(就労要件はあるが有子要件のない就労税額控除。Working Tax Credit:WTC)と、児童を有する中低所得世帯の支援(有子要件はあるが就労要件のない児童税額控除。Child Tax Credit:CTC)とで役割分担がなされている。

 なお、資産要件は、低所得者の貯蓄を阻害するとして、同じく2003年に廃止された。


(2)就労税額控除(Working Tax Credit)

 WTCの特徴は、税額控除額に逓増部分がなく、その代わりに就労時間の要件が設定されていることである(表2)

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 具体的には、扶養児童(16歳未満の子。フルタイムの教育又は訓練に従事している場合は20歳未満の子)を有するカップルや一人親がWTCを受けるためには、16歳以上であって最低で週16時間以上の就労をしていなければならない。フルタイム就労への移行を促すために、①カップルのうち1人が最低週30時間就労するか、又は、②1人の就労時間が最低週16時間で2人の就労時間が合計で最低週30時間となる場合には、控除額が追加される(最大790ポンド)。最大控除額は、夫婦子2人の場合、4,600ポンドとなる。このほか、配偶者の就労を促進するために、両親とも最低週16時間働くカップル又は一人親に対して、育児費用の税額控除が認められる。最大で、適格児童ケア費用(子2人以上の場合、週あたり300ポンドが上限)の80%相当額が税額控除される。

 単身者や子どものいない夫婦がWTCを受けるためには、25歳以上かつ最低で週30時間以上の就労をしていなければならない。

 なお、イギリスの所得税の課税単位は個人であるが、WTCの申請に当たっては、夫婦は共同で行う必要がある。


(3)児童税額控除(Child Tax Credit)

 児童税額控除(※12)は、16歳未満(フルタイムの教育又は訓練に従事している場合は20歳未満)の児童を有する家族に対して与えられる。CTCの要件を満たす家族の場合、家族要素(最大545ポンド)は全家族に与えられ、さらに児童1人あたり最大2,300ポンドが与えられる。

 児童が1歳未満の場合には最大545ポンドが加算される(表3)


(4)税額控除額の計算方法

 税額控除額の計算方法は、以下の通りである。まず、家族の構成などから、WTCとCTCの要素で該当するものを合算し、最大控除額を計算する。次に、申請者の世帯所得に応じて控除額を減額する。逓減部分は、2段階に分かれている。逓減の第1段階は所得6,420ポンドから始まり、逓減率は39%である。ここではWTCが逓減し、その消失後はCTCのうち家族要素を除いた額が逓減する。逓減の第2段階は所得50,000ポンドから始まり、ここではCTCの家族要素が逓減する。これを図示すれば図2となる。

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(5)給付付き税額控除の執行と諸問題

 WTC、CTCのいずれも、執行機関は内国歳入庁である。税額控除額と所得税額との相殺はなされず、税額控除額の全額が歳入関税庁から給付される。給付は、毎週又は4週に一度行われる。なお、家族構成や育児費用といった状況の変化を随時反映する仕組みとなっている一方で、毎回の給付は前年度の所得に応じた仮払いという色合いも強く、年度末に総額の調整が必要となる。

 アメリカと同様に、制度の複雑さや過大給付(2006年度の推計値は14億ポンド)が大きな問題となっている。

 なお、税務全般で活用される納税者番号はないが、WTCやCTCの申請手続きの際には、国民保険番号が活用されている。

※6)児童に関する負担軽減措置としては、19 歳未満の児童又は24 歳未満の学生を扶養する者に認められる人的控除(3,650 ドル)がある。人的控除における所得に応じた減額措置は、2010 年にいったん廃止されたが、2011年にはサンセット条項により復活する。児童手当は存在しない。

※7)従来は主に中所得者を対象とする制度であったが、オバマ政権下で時限的に低所得者にも適用されることとなった。

※9)アメリカの個人所得税制は、互いに重複する諸控除の存在によって複雑化しており、概算控除、人的非課税、児童税額控除、勤労所得税額控除等の再編・簡素化が税制改革上の大きなテーマとなっている。

※11)併せて、諸制度に分散していた児童向けの支援が、児童手当を除き、児童税額控除に集約された。

※12)児童に関する負担減免措置としては、児童税額控除(所得制限あり)のほかに、児童手当(所得制限なし)が存在する。児童手当は、16歳未満(フルタイムの教育又は訓練に従事している場合は20歳未満)の児童について、第1子は週20.3ポンド、第2子以降は週13.4ポンドが支給される(全額国庫負担。歳入関税庁が執行)。



3.ドイツ

 ドイツの児童手当は原則として所得税法で規定されており(※15)、税制を活用した給付措置(すなわち児童税額控除)と見ることもできる。児童手当か児童控除(所得控除)のいずれか有利な方のみが適用される。18歳未満(失業者は21歳未満、学生等は25歳未満)について、児童手当は第2子までは1人あたり月額184ユーロで、第3子は190ユーロ、第4子以降は215ユーロである(全額公費負担)、児童控除は7,008ユーロ(夫婦単位課税を選択した場合)である。中低所得者の場合は児童手当が、高所得者の場合は児童控除が有利となる。

 実際の仕組みとしては、連邦雇用庁の家族金庫が児童手当を毎月支給し、後に州の税務署が児童控除と精算する形をとる。

 なお、ドイツでは、2009年に税務識別番号が導入された。

※15)無制限納税義務者でない場合など、ごく限られた場合にのみ、連邦児童手当法が適用される。



4.フランス

(1)雇用のための手当(Prime Pour l'Emploi)

 フランスでは、2001年に雇用のための手当(Prime Pour l’Emploi:PPE)が導入された。PPEは低所得者の就労を促進するための給付付き税額控除である。導入以降、累次にわたって制度の拡充が行われている。

 PPEの受給要件として、家族の所得には制限が設けられている。例えば、単身者の場合は16,251ユーロ、2人の児童をもつ1人親の場合は25,231ユーロ、児童のいないカップルの場合は32,498ユーロ、2人の児童をもつカップルの場合は41,478ユーロ、等である。また、富裕税の課税対象者でないことも要件となる。

 フランスの個人所得税における課税単位は家族であるが、PPEの給付額は個人の稼得所得を元に算出される。その手順は以下の通りである(表4)。①各稼得者についてPPEの給付額が計算され、各人の給付額が合算される。②扶養児童を有する場合や一人親の場合には一定額が加算される。③この額が、家族の税額から差し引かれる最終的な額となる。

 この結果、夫婦子2人のモデル世帯の場合は、最高で1,116ユーロが与えられる。

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(2)執行機関等

 PPEの執行機関は税務当局である公共財政総局である。PPEは、所得税の確定申告時に税額から控除される。控除しきれない場合や非納税者の場合は、残額が小切手又は口座振込みで給付される(ただし、30ユーロ未満の給付は行われない)。

 なお、2009年6月からは、生活保護受給者が就職後にも引き続き手当の一部を受給できる制度(積極的連帯所得手当(RSA))が導入された。RSAの申請先は家族手当金庫(CAF)又は農業社会共済(MSA)である。PPEとRSAの両方の受給資格がある者は、どちらか有利な方を受けることができる。