未来への投資−グリーン・ジャパン戦略 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

未来への投資-グリーン・ジャパン戦略


 2008年9月のリーマンショック以降の急激かつ深刻な世界同時不況。「100年に一度の経済危機」といわれたこの深い霧が晴れた後の世界は、様相が一変しているに違いないといわれてきた。実物経済をはるかに凌駕するようなマネー資本主義暴走の限界と制御、身の丈を超えた過剰消費と資本流入に支えられたアメリカ一極集中体制からの脱皮と不均衡是正、中国やインドなど新興諸国の急速な成長と世界情勢の基軸変化-歴史の歯車は、いま音をたてて回りつつある。

 そしてもうひとつ、確実に進みつつある変化が、地球環境問題と調和した持続可能な21世紀社会の構築だ。気候変動とエネルギー危機のもとで、化石燃料に依拠した大量生産・大量消費・大量廃棄型文明からの転換をめざす、「100年に一度のエネルギー革命」の真っ只中にあることを、しっかりと認識する必要がある。

 もう、元と同じ姿に戻ることはないのだ。自動車産業に典型的に見られるように、世界不況からの回復過程で、ハイブリッドカーや電気自動車(EV)の圧倒的な燃費効率など、環境技術をはじめとする新しい潮流を取り込めるか否かは、産業・企業の浮沈を制する様相さえ見せ始めている。


 そのような中、ポスト京都議定書(2013年~)の新しい国際的枠組みを構築する目的で、昨年12月コペンハーゲンで開催されたCOP15は、率直にいって期待を裏切る結果になったといわざるをえない。地球温暖化を食い止めるには、最大の排出国である米中を含めた、主要な排出国すべてが参加する新たな枠組みが不可欠であることはいうまでもない。日本は鳩山新政権の下、「主要国の参加による公平かつ実効性のある枠組みと意欲的な目標を前提」にしつつ、「2020年、90年比25%削減」という思い切った目標を掲げ、合意へのイニシアチブ発揮に強い決意を示したが、先進国と新興国、途上国間の溝は大きく、結局、拘束力ある合意まで至らず先送りになってしまった。それぞれの立場と国益がかかる温暖化問題解決の難しさが改めて浮き彫りとなったとも言えるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。これまで埒外にあった米国・中国を含め、とにもかくにも主要排出国が同一テーブルにつき、膠着状態だった国際交渉が動き出したことは前進への第一歩であり、すべてはこれからの努力にかかっている。

 問題は、むしろ日本のこれからの対応である。とても足元が固まっているとは思えないからだ。コペンハーゲン合意ができなかったことに正直ホッとする空気や、「CO2削減は産業や社会へのコスト増。高い目標を掲げ実行したものが損をする」などの論調が一部で幅を利かせている現実がある。―しかし、本当にそれで済むのか。

 他の国がどうあれ、日本は主体的に方向を決め、日本として必要と判断したことは、国内法・予算・税制・規制改革などあらゆる政策を総動員して着実に実行する。その決断と政治的リーダーシップこそがいま求められているのではないか。

 日本は、米・中などの参加を前提にした25%削減の旗を降ろすべきではないと思う。もちろん、その中期目標数字の持つ重みは大変なものがあるし、ハードルは高い。しかし、昨年7月、ラクイラ・サミットで日本を含め先進国G8が表明した「2050年、80%削減」という長期目標を見据えた時、その一通過点であるとも言えるのだ。

 霧が晴れた後の21世紀地球社会のメガトレンドははっきりしている。ならば「逡巡したり」「追い込まれて」ではなく、「先手を打つ」べきだ。日本の得意とする環境分野で明確な「国家戦略」を打ちたて、究極には化石燃料に依存しない―低炭素経済社会への転換に総力を結集する。その経済社会のデザイン、技術およびシステムをもって世界をリードしていくべきではないか。


 そのためには、政府は、まず25%減を掲げる条件と、実現のための道筋を明確にしなければならない。目標設定においては、国内での純削減分―いわゆる真水の部分(京都議定書では、6%削減のうち、国内での純削減量0.6%、森林吸収源3.8%、CDM等海外での削減分1.6%という内訳であった)をいくらで設定するか、そしてその実現に向けた具体的政策や制度、資金面を含めた枠組みをどうするか、それらをわかりやすく提示し、国民的議論の中から、個別省庁を超えた日本国家としての「グリーン・ジャパン戦略」を確立し、果断に実行していく段階を迎えている。

 ①太陽光・風力・地熱・小規模水力など再生可能エネルギー転換への思い切った誘導策、あわせて原子力発電の質的向上、石炭火力発電の低炭素化技術の導入、②農山村活用とリンクさせた次世代バイオエネルギーの生産、③日本版スマートグリッド(ITを活用した新エネルギーと系統電力との連携)の整備、④自動車や家電などの省エネレベルを進化させるトップランナー制度の強化や、プラグイン・ハイブリッド、電気自動車普及に向けたインフラ整備、⑤家庭部門からの排出削減に大きな効果を持つ、住宅・建築物に対する省エネ基準の抜本強化と支援策、⑥大型ビルや商業施設でのESCO事業等を活用した大幅削減、オーナー・テナント間・地域ぐるみ・業種ぐるみでの連携推進、⑦交通網の総合的見直しと新しい公共交通機関の再位置づけ、⑧カーボン・フット・プリントなど、「見える化」を通じた消費者の選択を可能とする仕組みづくり、⑨環境税や排出量取引制度など、すでに欧州諸国で実績のある価格メカニズムを活用した経済的手法の本格的設計と、国民的議論を通じた政治的決断。―など、やるべき課題は山ほどある。

 低炭素社会づくりに向けた「グリーン・ジャパン戦略」は、短期的にはコスト増加要因に見えても、それは未来へ向けての新しい投資を誘発し、技術革新を促し、需要を作り、雇用を創出するなど、長期的には経済を発展させる「成長戦略」でもあるのだ。