豚インフルのパンデミックに自衛隊の出番は? | 数多久遠のブログ シミュレーション小説と防衛雑感

豚インフルのパンデミックに自衛隊の出番は?

豚インフルエンザによるパンデミックに自衛隊はこうすべきだ、ということを書きたい所ですが、現状では残念ながら出来ることはほとんどありません。

直ぐに出来ることが有るとすれば、感染地域からの在留邦人の非難を特輸隊の政府専用機を使って行うくらいです。
ですが、それさえも、要員に十分な装備や準備ができる訳ではありません。

今までも、防疫関連としては、生物兵器による攻撃が、特殊武器攻撃として想定されてはいました。
ですが、特殊武器の中では核と化学にはそれなりの配慮がされていたものの、生物兵器に対しては対処が非常に難しいこともあって、対策はほとんど採られていなかったと言ってよい状況です。
このことは、NBC防護のための部隊の名称が化学防護隊などと言う名前になっていることにも表れています。
そのため、パンデミックに対しては、それほど準備ができていないのです。

米軍の場合は、生物兵器の研究も進んでいたこともあり、映画「アウトブレイク」や「バイオハザード」にも多数登場しているように、CDCなどと連携してパンデミックに対応する能力が備えられています。
(余談ですが、アウトブレイクのネタ本と言われるノンフィクションの「ホット・ゾーン」は、オススメです。「アウトブレイク」やホラーなんて目じゃない怖さがあります)

自衛隊の場合、今年21年度の概算要求に「新型インフルエンザのパンデミック対応」として44億円を投じて能力整備する予定でした。
ところがこの項目は、その後の予算折衝でそっくり削られてしまいました。
当初「新たな脅威や多様な事態等への対応」の中に、新たな項目として入っており、「自衛隊もやっと本腰か」、と思っていたのですが、なんとも残念な結果です。
豚インフルエンザのニュースに接して、関係者は今頃歯噛みしていることでしょう。
はたして不明だったのは財務省だったのか、あるいは防衛省だったのかは分かりませんが、少なくとも今年度予算の反省点であることは間違いありません。

この消えてしまった新たな予算項目「新型インフルエンザのパンデミック対応」ですが、中身を見ると次のようになっていました。
・在外邦人輸送、国内物資輸送等
 輸送機・輸送艦等の乗員、物資輸送に従事する隊員用の感染防護衣、感染防護マスク、手袋等
・医療支援
 医療従事者用の感染防護衣、感染防護マスク、手袋等
 人工呼吸器、X線撮影装など治療・診断用器材
・自衛隊の機能維持
 感染防護マスク、抗インフルエンザ薬等

なかなか意欲的だなと思った点は、最初の輸送機や輸送艦乗員などのための感染防護装備です。
対生物、特にインフルエンザなどのウイルスに対しては、通常の化学兵器用の装備とはレベルの違う防護性能が必要です。
特に、呼吸のための装備には外気をろ過するようなマスクではウイルスの遮断がし切れないため、消防が使う空気呼吸器のような装備が必要です。
本当にそこまでの装備をさせるつもりだったのかは分かりませんが、概算要求に盛り込む以上、装着しながら航空機などの操縦操作や必要なコミュニケーションを取れる装備の選定も終っていたのでしょう。

もし概算要求の通り盛り込まれていれば、今頃緊急に納入され、活躍の場も出てきたかもしれません。
44億ほどの予算は、いきなりひねり出せないでしょうが、もし豚インフルエンザが本当にパンデミックになるような様相となれば、これらは緊急に取得されることになるかもしれません。