アキラが去って、1ヶ月位は何をしていてもアキラを思い出し、精気を失ったようになって周囲から心配された。
何度、決意が揺らいで連絡をしたくなったか分からない。何とか自分で立ち直れると思っていたけれど、私はそんなに強い女ではなかった。
急に職場で泣き出したり、放心状態になったりした。見かねて精神科医を紹介してくる人もいた。
1人の人間の不在でこんなにも打ちひしがれるなんて、思いもよらなかった。

 
アキラと2人で会うようになる前に、アキラと同じ職場の独身のお友達、佐伯くんと3人で何度か食事をしたことがある。
佐伯くんは人当たりが良く気配りも出来る好青年だ。嫌いなタイプではなかったし、妻子持ちのアキラに近づきすぎるのは良くないと思ったので、積極的に佐伯くんに近づいていた。
そうしていたつもりだった。

ある晩の食事の帰り、それぞれの車が3車線の信号で止まった。真ん中が私で、左側に佐伯くん、右側にアキラ。
信号が変わったとき、私は右側を向いて手を振っていた。私は自分のこの無意識の行動に動揺した。私は佐伯くんでなく、アキラに手を振っていたのだ。
私は自分の本当の気持ちを知った。

それから私は佐伯くんに会うのはやめた。こんな偽りの気持ちで、優しい佐伯くんに思わせぶりな態度で接するのは失礼だと思ったからだ。


最近、佐伯くんと昇資格試験でばったり会った。
佐伯くんは本当に気がつくいい人だった。全て気づいていた。
私の精神状態がおかしいと聞いて、アキラの不在が原因だと察し、会って話をしようと考えてくれていた。
しかし、アキラの不在から3ヶ月が経ち、多少落ち着きを取り戻した私の様子に安堵の表情を見せて、こう言った。
前みたいに元気な笑顔を見るためにはどうしたらいいのかな?僕に出来ることはある?
急に涙が溢れ、熱い涙が頬を伝うのを感じた。