アキラが去って3ヶ月が経った。
アキラは特別なスキルを身に付けていて、それで私の勤める会社に2年間派遣されていた。その任期が終わったのだ。
私はアキラの仕事についてはほとんど知らなかった。同じ社屋にいたとはいえ、私は3階でアキラは11階。業務内容が違う部署で、仕事上の用件で会うことはなかった。

そして、2年間同じ会社にいたとは言っても、アキラに初めて会ったのは、アキラの任期終了の半年前だ。
ドタキャンの欠員として急遽参加した飲み会で初めてアキラに会った。それを機に何人かで集うようになったが、特別な雰囲気はなかった。
気づいたら、しょっちゅう一緒にいて、自然にアキラの部屋にいることが多くなったとしか言えない。

アキラは家族と離れ単身赴任している。
私は妻子持ちの男に溺れる事はないとずっと思っていたが、気づいたらアキラと過ごす時間が増えていたのだ。
アキラの単身赴任の部屋に家族が来ることはなかった。この部屋で過ごすのは私だけだった。
アキラの家族は、ここから車で3時間程離れた小さな街にいた。アキラは週末を妻と2人の息子と過ごすために帰っていく。
金曜日の夜はどんなに私が甘えて引き留めても、アキラは無言でそっと私を抱き寄せて髪を撫でて、静かに出て行った。


今は、きっとアキラは週末だけ過ごしていた家族と毎日くらしているのだろう。
今、アキラがどんな暮らしをしているのか、私には知る由もない。アキラに連絡をするのはやめようと決めたからだ。
今度はいつ会えるのか分からない人に期待して生きていくなんて辛過ぎるからだ。
アキラから一度、2年ぶりに戻った派遣元の会社で頑張っていると短いメールが来たが、返信しなかった。
最近ではアキラのことも思い出さなくなってきた。