「龍さんと初めて会った時の龍さんと同じ歳になったのよ」
18年経ったのかと龍さんは微笑んだ。
「18歳と一緒に過ごしていたなんて、龍さんが若かったの?それとも私が大人だったのかしら?」
初めて会った時の君を覚えているよ、と言って龍さんは私を抱き寄せた。

18歳の私は龍さんのファンだった。
龍さんは当時まだ、デビュー間もない映画評論家で脚本家だった。龍さんの鋭い文章は物議をかもしだすことも多かったけれど、私は龍さんの感性と物事の切り口に感銘を受けていた。今もそうだ。

一ファンの18歳の娘が、憧れの有名人に会えたのはただの偶然だ。
銀座の有名文具店の前で龍さんを見かけ声をかけた。
その時のことを私は鮮明に覚えている。
龍さんは私が持ち歩いていた龍さんのデビュー作の脚本のノベライズ本にサインをしてくれた。

そして私たちはお茶をした。
どうして初めて会ったサインをお願いしただけの娘とお茶をしたのかと昔聞いたことがある。
スケベオヤジだったからかな、なんて龍さんは笑って言ったけれど、龍さんは暫く私に触れることはなかった。

私は龍さんとこれからもずっとお互いに近くて遠い存在でいられたらいいと思う。
お互いの日々の暮らしの隙間で、お互いにお互いが必要になったときに会う。そして、少しの時間を共有する。
そんな風に静かに歳を重ねてゆけたらと思っている。