会社の帰りに、男を拾った。
駅の階段で酔いつぶれていた男を連れて帰った。

私は私の部屋に男を住まわせ、私の車を自由に使わせた。
男は転職が決まってからも、会社に暫く残ることになったが、アパートも出てしまい、都心に引っ越すにあたって、車も手放している、みたいな事を言った。
でも、そんな話には興味がない。というか、どうでもいい。

私と男はそれぞれのリズムで好きなように過ごした。
何の禁止事項も決まりごともなく、束縛もなかった。
口をきかない日もあれば、ずっと一緒にいる日もあった。

13日間、一緒にいた。

そして、男は今日、出て行った。
私は見送りに行かなかった。

男の気配が残るこの部屋で、私は静かにチョコレートミルクを飲む。
携帯電話が鳴る。
多分、男からだ。
「電車に乗ったよ。ありがとう」と短い礼を言うのだろう。
電話には出なかった。
このままチョコレートミルクを飲むことにした。
チョコレートの甘い香りが男の気配を消していくのを静かに感じている。