＜リプレイス＞

前の職場で同じフロアにいた男性に、思いがけなくばったり会った。
彼も私を覚えていてくれてとても嬉しかった。
私はすぐに運命だなんてはしゃぐような人間ではないけれど、心がざわめくのを感じた。

連絡先を交換し合い、連絡を取り合うようになった。
このままやり取りを続けてゆけば、自然に会うようになるだろう。
　
これで私はこれから来る心の空白を埋めることができるだろう。
私の恋が終わろうとしている。
Ｍさんが遠くに行ってしまう。海外勤務を命ぜられたのだ。
　
Ｍさんは私と同期入社の派手な女と結婚していたが、彼女の散在と浮気が原因で別れたらしい。Ｍさんの離婚の噂を聞き、私はすぐにでも気持ちを伝え、自分のものにしたいと思った。
でも結局何も出来ないまま遠くから見ているだけの日々を過ごし、私はＭさんを黙って見送ってしまった。

そしてその頃、私は予想通りに再会の彼と付き合い始めた。
手に入ると要らなくなるという事がよくあるが、距離が近くなって、その人のことを知っていくうちに、私は興味が失せていくのを感じ始めている。
Ｍさんの不在を埋めるには、まだ足りないことに気づいている。
でも気づかない振りをして、彼の名前を何度も言う。
愛していると何度も言う。
Ｍさんと同じ名前を。