『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』を読みました。 | フリーライター 熊谷あづさの雑記帳

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お仕事の一環で
『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』

(小林せかい著/祥伝社)を読みました。



帯に「久々に“まとも”なビジネス書に出会いました」という
ライフネット生命保険会長・出口治明氏の言葉が書かれているとおり
『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』のカテゴリーは
ビジネス書です。

なのですが、読み進めるうちに、
まるで上質の長編小説を読んでいるような感覚で
どんどん内容にのめり込んでいき、
読み終わった後には、ちょっと泣いてしまいました。

これまでいろいろなビジネス書を読んできたのですが
読後に泣いてしまったのは、初めてです。

『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』は
神保町にある定食屋「未来食堂」の店主・小林せかいさんが

書かれた本です。

未来食堂はカウンター12席だけの小さなお店で、
従業員は小林せかいさんひとりだけです。

メニューが日替わり1種類だけだったり、
一度来店した人なら誰でも50分のお手伝いで一食無料になる
「まかない」という仕組みがあったり、
夜の時間帯は在庫の食材を好きな調理法で提供する
「あつらえ」というシステムがあったりなど
これまでの飲食業界の常識を超えた

さまざまな工夫がなされているお店です。

「まかない」をするまかないさんは
おいしいまかない目当ての人はもちろん、
飲食店開業を目指す人や起業を考える人なども少なくなく
年間450人以上の人がまかないに訪れるそうです。

本書は、「新しいことをやりたい!」と希望にあふれつつも
一方では悩みや不安を抱えるまかないさんに
小林さんが日ごろから話していることをまとめた本です。

小林せかいさんは、東京工業大学数学科を卒業後、
IBMとクックパッドにITエンジニアとして勤めていた方です。

わたしはちょっと卑屈なところがあるもので
こうした素晴らしい経歴を見ると
「もともとの素養が違う人なんだなぁ」と思い
ついつい、自分とは別次元にいる人のようにとらえてしまいます。

そんな気持ちで読みはじめたので、はじめのうちは
小林せかいさんがずっと遠くの場所にいるような感覚でした

でも、ページを追うごとに、小林せかいさんという人物が
少しずつ身近に感じられるようになりました。

本書によれば、たとえば、大学受験時には
苦手な英語の長文を克服するために
センター試験と共通一次のすべての英語の過去問を解いたそうです。

また、特に料理が得意というわけではなく
飲食店を営むにあたり、最寄りの2つの図書館においてある料理本を
すべて読破したそうです。

さらに、「まかない」や「あつらえ」という言葉をつけるために
図書館の辞書コーナーで何十冊もの辞書をひいたそうです。

“私は決して天才型の人間ではありません。何万という単語を収集して
「これだ!」と思う一つを見つけているだけです”
という記述があります。

そのあたりから、小林せかいさんという存在が
どんどん近づいてきました。

わたしだったら
「こういうことをすればいいのはなんとなくわかっているけれど
でも、大変そうだし、面倒くさいなぁ。ほかになにか
いい方法があるんじゃないかなぁ」
と思ってしまうような事柄に対して
小林さんは地道に、コツコツと取り組んでいます。
 

すべては努力によって得られた結果であり
「きっと、特別な才能とか人脈とかがある人なんだろうなぁ」と
ひがみ根性をチラチラさせつつ
小林さんを見ていた自分が恥ずかしくなりました。


ひとりで細々と、のほほんと仕事をしているわたしですが
一応、目標のようなものがあったりします。

そのひとつが、自分が著者となって
猫に関する本を出版する、というものです。

2年近く前に、一念発起して
自分が出したいなあと思っている猫本の企画書と
サンプル原稿と、ざっくりとした構成案を作りました。

その後、たまたまご縁のあった書籍の編集者さんに
企画書とサンプル原稿と、構成案をみていただく機会がありました。

その編集者さんには
「タイトルを変えて、内容をもう少し詰めれば出せるかも」と
言っていただきました。

ものすごく緊張し、ドキドキしていたので
前向きなお言葉をいただけたことが、とてもうれしかったです。

ただ、その編集者さんは、特に猫好きというわけではないので
どんな内容が猫好きの人に刺さるのかなど、
感覚的にわからない部分が多々あるとのことでした。

なので、もう少し内容を掘り下げたり
サンプル原稿の数を増やしたりしつつ
猫好きの編集者さんと巡り会うまで、

地道に営業をしようと思いました。

それが、去年の1月のことです。

企画書をみていただいた直後は
「よ~し、もっと内容を詰めるぞ~!」
「サンプル原稿をバンバン書くぞ~!」
「がんばって営業するぞ~!」と意欲満々でした。

でも、それから1年半近くたった今、
企画書もサンプル原稿も構成案も、ちっとも進歩していません。

昨夏に遅い結婚をしたり、

20年以上住んだ町から引っ越したり
年始早々、相棒であり保護者的な存在でもあった猫が急逝したり
仕事が思いのほか忙しくなったり。

なにか大きな出来事があるたびに
「これがひと段落したらやろう」と延び延びにしたまま
現在にいたっている次第です。

決してやる気がないわけではないのです。

ただ、根がのんびり屋で怠け者なもので
いざ時間ができると、映画を観に行ったり、
猫と遊んだり、ひたすらゴロゴロしたりして
なかなか猫本に意識が向かないのです……。

性格的な要因もおおいにあるのですが
きっと、わたしは怖いのだと思います。

わたしが書きたいなあと思っている内容を原稿に落とし込むには
たくさんの本を読んだり、情報を集めたりしなくてはならないので
その時間と労力を想像すると、気が遠くなってしまいます。

一生懸命にがんばっても
誰にも見向きもされなかったらどうしよう。

もともとネガティブ思考で、自己肯定感も低いせいか
そんな恐怖心のような感情がいつも心のどこかにあります。

そもそも、フリーランスにもかかわらず、
営業というものをしたことがないもので
本の企画を持って営業をすること自体が
わたしにとっては、すごくハードルが高いです。

未知の版元さんとか編集部に電話をかけて
「本の企画をみてください」と言っている自分を想像するだけで
心臓がバクバクしてきます。

きっと、猫本になかなか手をつけないことで

自分にとって怖いことから逃げているのだと思います。

『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』は
そんなヘタレなわたしの気持ちに、そっと寄り添ってくれました。

本書を読む中で、
小林さんにもクヨクヨと悩んでいた時期があったことを知り
ちょっと安心しました。

そして、なにか新しいことをはじめるには
すでにあることを徹底的に学ぶことが不可欠だということを
あらためて実感しました。

この部分が圧倒的に欠けているから
自分が書きたい本の内容を掘り下げられないのだと痛感しました。

小林さんが図書館にある料理本をすべて読破したように
猫に関する書籍は全部読む、くらいの気持ちで
取り組んでいかなければと思いました。

また、
“「完成したら公表しよう」では人の心は動かない”という言葉には

ドキッとしました。

実際、猫に関する本を出すことができたら
このブログで、「こういう本を書きました」と
お知らせしたいなぁと思っていたからです。

“既にスーパーマンになったヒーローがいくら奮闘しても、
遅いのです”

“いくら笑われてもよいのです。滑稽で弱い自分の奮闘ぶりを
真摯に伝える。ただそれだけで、多くの人が自分を応援してくれる
ファンに変わるのです”

本書の中のこうした記述を読み、すごく納得しました。

わたしはもともとがちっぽけな人間ですし、
へんに背伸びをするのはやめようと思いました。

小林せかいさんは、
「日経WOMAN」ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017の受賞者です。

本書には、受賞時のスピーチの全文が記載されています。

「環境が、あなたの行動にブレーキをかけるのではありません。
あなたの行動にブレーキをかけるのは、ただ一つ、
あなたの心だけなのです」
という締めの言葉が、一番、心に沁みました。

がんばりたい気持ちはあるのに、がんばれなくて
がんばれない自分に、心のどこかでガッカリしている。

読み終わるころには、
気づいてはいるのに気づかないふりをしていた
自分自身の気持ちや感情に
少しずつですが、目を向けられるようになりました。

今、このタイミングで
『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』という
本と出合うことができて、本当によかったです。

いつか、おいしい定食を食べに未来食堂に行ってみたいですし
「まかない」にも挑戦してみたいなぁと思っています。