緊急対応が必要! 海洋汚染は深刻 | 窪田博士の研究室

緊急対応が必要! 海洋汚染は深刻

1F(福島第一原発を関係者はこう呼ぶらしい)の崩壊熱は徐々に制圧されている。しかしここへ来て伏兵の超高濃度汚染水が海に流れ出す、という大問題が発生した。

これは一見それほど大問題では無いように見えるけれども、実は建屋が水素爆発を起こしたのと同じぐらい、あるいはそれ以上の深刻な問題だ。

海洋の大規模な放射能汚染は原子炉事故では「史上初」の汚名を着ることになる。あれだけ過酷だったチェルノブイリでもスリーマイル事故でも海から離れた内陸の川岸に建設されている事から海洋汚染はそれほど多くはなかったはずだ。

海洋汚染の問題点は以下のような事だ。

1.圧力容器内から漏れていると思われる高濃度汚染水が、海に流れ込んでいるようだ。
2.この場合、大気で拡散しやすいヨウ素・セシウム以外の多種類の放射能が含まれている。
3.水はかなり多様な物質を溶解するので、これらの多種類の放射能の多くが広い地域に拡散する。
4.厄介なのがストロンチウム90のように骨に吸収される放射能。このほかルビジウム、バリウム、インジウム、スズ、等等、概ねゲルマニウムからランタノイドあたりまでの全ての核種が含まれる。中には半減期数1000年で強い放射能を持つといった厄介な物質もある。
5.さらにはプルトニウム・アメリシウムといったTRU(超ウラン元素)も拡散する。
6.これらの物質は海洋の生物に取り込まれ生体内で濃縮される可能性が高い。近海の汚染は深刻だし、海洋生物は何万キロメートルも移動するものもあり、汚染を世界中に広げてしまう。

一旦海に広がった汚染物質はもう取り戻すことはできない。従って現時点で、できるだけ封じ込めないと大変な事になる。太平洋岸の水産資源は数10年単位で食べられなくなるといったトンでもない事態に発展しかねない。

幸い、土壌の固定で漏水は減ったようだが、コンクリート聖の護岸を建設など、直ちに放射能の海洋拡散防止を準備にする必要がある。

また政府は、「低レベル放射性水の海洋投棄」を行う場合には、投棄する水の量、放射能、含有物質などを逐一報告するべきだ。海は世界中つながっており、近隣諸国に迷惑をかける事になるわけだが、こういった情報が公開されないと、皆が正しく対処することができない。

このような事態はもはや一企業の対応能力を超えている。責任論は後から考えるとして、これまでがんばってもらった東電はそろそろ引っ込んでもらい、事故収集の指揮権を正式に政府に移したほうが良いと思う。利害関係者の入らない専門家委員会の意見を聞きながら対策を打ってもらいたい。

それにしても、在野には優秀な専門家がたくさんいるのに、「文官」中心で「工学的問題」と戦おうとするセンスは理解できない。「利害」や「政治的駆け引き」「法的手続き」これらと物理法則は何の関係もない。これでは勝てる戦いも負けるだろう。

原子核反応は物理学の問題で、政治や法律を待ってはくれない。来るべき時が来れば次の事象が起こるのだ。この際「可及的迅速な対応」が重要だ。処置が遅くなると病気(事故)は政治経済の都合と関係無くどんどん悪化する。

セラフィールドやラ・アーグの再処理工場が海洋に放出した放射能とベクレルでは同程度かもしれないが、放射性物質の内容は比較にならないほど悪く、汚染の程度がひどさはベクレル値だけでは語れない。ヨウ素131が中心に漏れているときには「数ヶ月で消滅する」と比較的深刻さは無いわけだが、TRUやストロンチウム90等が漏れるとなると重大な事態だ。放射能も強く、半減期も長く、その上生体に取り込まれやすい。10年~100年単位で漁場が破壊される。

これらの問題を直ちに解決しなければ子々孫々まで遺恨を残すことになる。自体の収拾に向けて政府は英断をしてもらいたい。

これは「海洋国家日本」の存亡の危機である。

(文:窪田敏之)

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