かけうどん物語 「カケオ」 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

ーあらすじー

(その男は“かけうどん”に心酔していた。麺と出汁、葱で構成されたシンプルで廉価な「うどん」をこよなく愛していた。それを食べ続けていくことだけが、価値観が混沌した現代日本国の片隅で生き抜く男の最後の矜持だった…)


平成27年9月某日の事である。お客さまに喜びと感動を与えてくれる店、ウエスト の「うどん」を時折無性に欲しくなる男がいたのだ。どんより曇った空からは、雨が今にも落ちてきそうな気配が濃厚に漂っていた。男の主な交通手段たる自転車は雨に適応していない。雨合羽も持っていないし、泥除けフェンダーもついていない。どうするのだ。男よ。


(…ちくしょう!俺はうどんを食いてえ。衝動は止められねえんだよ)


熱いパッションに突き動かされた男はペダルを漕ぎ出す。一路、東へ向かう。ウエストは其の名の通り、西という意味であるが…。



「ウエスト久留米インター店」の住所は福岡県久留米市御井旗崎1丁目6-50であり、男の起居する襤褸アパートメントハウスからは東の方向になる。なんという皮肉だろう。雨が降り出す恐怖にも負けず、ウエストを目指して、東へ走る男が此の世にいたなんて。



店に入るなり、男は不機嫌そうなおばちゃんに「かけうどん」を注文した。ピーク帯は外れて客足はまばらだったものの、電話注文が立て続けに入り、厨房は揚げ物でてんてこ舞い、といった状況だった。油が跳ねる軽快な音が、カウンターに座った男にずっと聴こえていた。


それでも「かけうどん」は素早い提供で登場した。何も揚げ物が乗っていないから、早かったのかも知れない。それは280円だった。


薄い蒲鉾が一枚だけ浮いている。白い細麺が艶々と輝いている。表面に、にちゃっと適度な弾力がある。「あじこ」と「いりこ」の出汁も塩加減がいい。美しい。そして、安定の味だ。


一気に平らげた男は、レジのカルトンへ小銭をばら撒く。コインの枚数は、前もって丁度に揃えている。自転車に跨った瞬間、雨が降り出した。冷たく濡れる身体、しかし、男の胃袋は熱く燃えている。煮えたぎっている。


(熱男と書いて、俺は“カケオ”と読むんだぜ。福岡県民魂!ソフトバンクホークス万歳!)


男は疾風の如く走り出す。男の周りだけ雨が蒸発しているみたいに、見えた。










ウエスト 久留米インター店うどん / 久留米大学前駅御井駅
昼総合点★★★☆☆ 3.8