もすっ!をとこのHardぼいるど 「おもひで」 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

「おいっ!一番高かとば、ばたばたしながら持って来い!」


へ、へいっと小作人のような卑屈な口調で答えたのは遡ること十年、ある飲食店の学生アルバイトだった頃の男である。暴力が得意そうな太い腕に模様、セットアップのジャージ姿、乗りにくそうな改造バイクと車高が低いセダンでやってきた三人組から、男は命令されたのである。

あれから十年余り、男は「大龍ラーメン」さんで「素ラーメン」500円を注文した。

 

ラーメンのラインナップで最もお安いものだった。注文を取りに来た女性店員氏に、あの時の三人組と共通する臭いを嗅ぎ取った男だった。思い違いだろうか。

のり、葱、スープ、麺という四つの要素で構成されたラーメンである。シンプルで良い。少し、物悲しい。並ラーメンだとキクラゲ、チャーシューが入り550円である。50円をケチった報いである。スープが濃厚そうだ。豚骨臭もかなり強い。こってり、うまい。中細というよりやや太めに感じる麺がスープを吸って、程よい柔らかさだ。余計な具が入っていない分、葱の食感をダイレクトに集中して味わえる。海苔の有り難さが身に沁みる。それでも遣り切れない切ない心苦しさで胸が一杯になると、男は卓上の胡麻を大量投入した。普段は感じない風味を、今日はしっかりと感じた。


素ラーメンもいいものだ、牧場の純朴な田舎娘のようで。場末のブロンド女に嫌気が差してしまった男は、そんな感想を漏らした。



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