(劇評)「教授とその弟子を見て」市川幸子 | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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本ブログは金沢市民芸術村ドラマ工房が2015年度より開催している「かなざわリージョナルシアター」の劇評を掲載しています。
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この文章は、2015年10月24日(土)19:00開演の劇団ドリームチョップ「教授とその弟子」についての劇評です。

 どこかで聞いたような題名で、その明治の文豪が付けたのではないかと思われる「教授とその弟子」、期待と不安を伴って会場に入る。この作品の作・演出をしている井口時次郎氏の作品は何本か見ているが、ロマンティックな甘い感じのものが多かったので、それとは趣きを異にしているように感じていた。
 舞台は簡素で余計なものは何もない。薄暗くボンヤリと浮かんで見えるのは白い机と舞台中程奥に白く太い物が床より1m程上から浮かんで見える。そして、左奥には切り取られた出入り口と思われる所から薄い明かりが見えている。
 さて、客電が消えて切り取られた左奥から明かりが射し込み男が一人出て来る。逆光の中に見えるシルッエットの男が語りだす。だんだん明るくなってくると本を片手にしているので朗読をしていると分かってくる。本から目を離して話し出した所から本編の芝居にはいったらしい、が読んでいる声と話している声に変化がない、残念なところである。
読んでいた本は「旅人たち」という架空の文学小説で、海で溺れた話らしい、ひょろり男という名がよく出て来るのであるがその音ばかりが耳に残って内容がよく分からない。文学は人を傷つけるが救いもするという壮大なテーマも出て来るがこれもよく分からない。
 登場人物は4人。こだわりの多い、目の前の問題から逃げてばかりの大学教授、その教授を助けて、そのことに人生の意義を持っている助手である若い女性、大学改革委員会に真剣に取り組むよう教授に意見し続ける准教授である中年女性、理系の学部でありながら、この教授の講義に感銘を受け、モグリで講義を受け続けている男子学生、である。
この人物たちの関係性も芝居を見た限りでははっきりせず、教授と助手と准教授、教授と助手と男子学生、それぞれが三角関係にも見えるし、そうでもないようにも見える。各々に立場がありながら相手によって話し方や言葉を変えずに、裏表がないと言えば良い事のようだが、社会性が全く感じられない。
 この一本の脚本の中に様々な問題やテーマを盛り込んでいるのに、文学は・・・、大学改革委員会・・・、学ぶとは・・・、生きるとは・・・、等々。なのに単なる色恋にしか見えないし、その色恋もうすっぺらにしか見えないのは真に残念なことである。いっそのこと恋愛に的を絞った「教授とその弟子たち」を見てみたいものである。