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「特捜部Q 知りすぎたマルコ」

ユッシ・エーズラ・オールスン 著 吉田薫 訳

出版社:早川書房 ISBN:9784150018856

 

 

 

 

あらすじ:『「特捜部Q」―未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の一部署である。「Q」が今回挑むのは、外務省官僚の失踪事件だ。真面目で心優しいこの官僚は、出張先のアフリカからなぜか予定を早めて帰国後、ぷっつりと消息を絶った。背後には大掛かりな公金横領が絡むようなのだが……。事件のカギを握るのは、叔父が率いる犯罪組織から逃げ出したばかりの十五歳の少年マルコ。この賢い少年と「Q」の責任者カール・マーク警部補がすれ違い続ける間に、組織の残忍な手がマルコに迫るのだった!人気シリーズ第五弾』

 

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ー北欧ミステリィに

ハマりまくった2016年ー

 

ということで、勢いよろしく第五弾まで怒涛の如く読んできたわけなのですが、こんなにシリーズを一気に消化していって大丈夫なのだろうかとひやひやすらしています。こちらは1P上下二段構成のスタイルを取っているのですが、この手の本は大体一年に五冊も読むべきではないというのは重々承知なのです。

なぜなら根気がいる。ページ数は300~400P多くとも600Pに抑えられてはいるものの、その実分量としては少し増し増しになっているのだから…。しかし、第1作目「檻の中の女」との出逢いがぼくのこの感覚を完璧に麻痺させてしまったのは言うまでもない。一度麻痺してしまった感覚はそうそうには直りはしない。いくところまで行くのみである。

ー少年マルコと特捜部Qー

タイトルをあえて「特捜部Qと少年マルコ」にしなかったのには理由がある。

今回は外務省官僚の行方不明を主軸としてカール・マーク警部補率いる我らが特捜部Qがその事件を追う。それとは別にひょんなことからこの行方不明事件に自分が生まれ育った組織が関連しているのではないかという事を知ってしまったマルコの視点、その組織を率いる叔父の視点、事件を裏で操る「犯人たち」の視点が入り乱れながらの作風であり、一見するといつもの多角的視点によって事件を立体的に描いていく「特捜部Q」のスタイルのように思えるのだが、どちらかというと今回は「マルコ」の視点が多く、カールはどちらかというと「サブ」の役割をしているような気がする。

 

今までメインで動いてきたカール達の目線をあえて押さえて、今作のキーマンになるであろう「マルコ」の逃走劇に力を割いたのはなかなかに新鮮であり、僕はいつもの「警察」という一種権力を持った組織に属している「カール」達のボロボロになりながら犯人を少しずつ追い詰めていくというスタイルを払拭しようとした作者に拍手を送りたいとすら思えた。

ーマルコの大冒険!ー

マルコは自分の身分を証明するものもなく、浮浪者(ホームレス)のふりをして、お金を得ようとするド底辺のような生活を送っている。いわば持たざる側の人間なのだ。そして、年齢も十代と若く、力もまだまだないに等しい。そんな彼がいかに困難を克服していくのか。そして、自分がかかわった事件を何とかカールに知らせるべくあれこれ行動を起こす。最初は遠目でお互いを認識するだけだったのが、少しずつ少しずつその距離は確実に近づいていき、そして最後には二人は邂逅することになる。その最後の二人が出会った瞬間の「あぁ、ようやく出会えた」と胸をなでおろすまでの息をつかせぬマルコの逃避行は苦難の連続である。組織の仲間に追われるだけならまだしも途中からプロの衛兵もが彼のいのちを狙うのだから、いかに彼の道が困難なものであるかが分かるかと思う。

 

それに比べると、カールの方はユーモアを交えつつ事件に挑んでいるので、Q勢の空気が上手い具合に「ハラハラドキドキ」して心臓に悪い感じの部分を緩和している。この緩急の付け方が本当に上手いなぁと毎回この特捜部Qの作品を読んでいると思う事である。

ー犯人達のインフレ化に心配ー

にしても段々と特捜部Qが相手取る犯人側の勢力というか「階級」というのか。そういうのが本当に「一警察組織」でも太刀打ちできるものなのか心配になる時がある。次作の「吊るされた少女」がどういう形の物語になっているのか、カール達特捜部Qの今後がますます気になる所である。

ーシリーズは10作目までか…今後の展望にますます期待したい特捜部Qー

さて、どうやらこのシリーズも一応は十作を予定しているようで、丁度この「知りすぎたマルコ」で半分という事になる。なので、次作の「吊るされた少女」からは後半戦という風に受け止めてもいいのかもしれない。果たして、カール達、特捜部Qを待ち受ける未来は。また、今回屋根裏にあるとされている段ボール箱には何が入っているのか(これは単なるミスリードなのか?)。アサドの過去も少しずつではあるが明かされてきている。そして、未解決となっているカールが特捜部Qに配属される原因となったアマー島での事件。これも気になる所だ。