サルガド夫人@ポルトガル | 写真家・小澤太一の『logbook』

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小澤太一のなんでもない毎日の記録集

アフリカでのちょっと長い撮影を終えて、飛行機に乗る。
日本まではまだかなり遠いけれど、もうホッとした気分である。

旅に出る二日前、アフリカからの帰国の便に変更が出たため、
ポルトガルのリスボンで一泊しなければならなくなった。

はっきり言って憂鬱だった。リスボンなんかでやることがない。
それだったら、あと一日長く、アフリカにいたい、もしくは・・・
すんなり日本に帰りたい、のどちらともが本音であった。

それでも仕方なくリスボンで泊まるしかないので、なにかやることないかなと
ポルトガル航空の機内誌を読んでいたら、見たことがあるポートレートが載っていた。

セバスチャン・サルガドだった。

3月にも結構高い写真集を購入していた、僕にとってもっとも好きな写真家といってもいい。

彼の写真展『GENESIS』が4/8から開催される・・・ようなことが
ポルトガル語で書いてあった。
写真展の期日と場所しか読み取れなかったけれど、
その機内誌のページを破り取って、カバンにしまった。

まさにポルトガルに到着する日が4/8だった。
完全にウキウキした気分だった。

早朝にリスボンに到着したので、重い荷物をまずは宿に置きに行き、
そこから博物館探しが始まった。
インターネットで最寄り駅までは簡単に調べられたが、
実際にそこに着いてから見つけ出すのに一時間迷子になった。
ポルトガルの美術館は、日本の美術館の雰囲気とはちょっと違う。
昔ながらの洋館っぽい、しかしこじんまりとした二階建ての
オシャレな建物にかかる『SALGADO』と書かれた垂れ幕を見て
『やっと着いたぁ!!』と安堵した。

もうお昼前だった。

小さな門のような入り口の所に人が二人立ち話をしていて、
僕はまずは外観の撮影をしてから、その入り口に向かった。

『サルガド、フォトエキシビジョン??』と聞いてみたら、
なんと開催は4/10からだった。

ポルトガル航空の機内誌の情報が間違っていたのだ。

『明後日、また見においで!』と優しく言われたのだが、
『明日、日本に向けて帰っちゃうんだよね。今日、アフリカからリスボンに来て、
この機内誌で情報を見て、ここに来たんだ!とても残念・・・』と
くしゃくしゃになった破り取った機内誌を見せた。

なんたる運命・・・こんなことなら、写真展があるのを知らない方がマシのようにも思えた。
めちゃめちゃ落ち込んだ。

『あぁ、このポルトガル航空の情報が間違っているんだね~』と
入り口に立っていたその彼が少し笑いながらそう言って、
『よかったら、まだできあがってないけど、見て行くかい??』と言ってくれた。

『マジかよ!!』

目の前で大好きな写真家・サルガドの展示が作られているのを見ていた。
ある意味、完成された展示を見るのよりも、貴重な経験だった。
まだキャプションはきちんと貼っていなく、
ところどころ壁の写真が抜けていたところもあったけれど、
ちょっとずつ写真が壁に飾られていき、ライトが当てられていく様子をず~っと見ていた。

『ライトの明るさ、どう思う?』とか、具体的にいろいろな感想を聞かれたりした。
日本での展示と少しずつ違うところがあるのを感じた。
それがヨーロッパのスタンダードなのか、サルガドスタイルなのかはわからない。

『キミがこの写真展の最初のお客さんだよ♪』と美術館の人は笑っていた。



一時間以上かけて、1階2階に飾られた写真を何度も行ったり来たりしながら見ていると、
ある女性が途中からフロアにいることに気がついた。

サルガド夫人のレリアさんだ!

サルガドの写真集の編集者でもあり、この写真展のキュレーターもやっている、
まさにサルガドの縁の下の力持ちの人でもある。

じつは2013年10月に日本写真芸術専門学校で行われたサルガドの来日講演を聴きに行き、
その時にレリアさんもお見かけしていたのだ。

『日本での講演に行きました。写真集も買いました。
僕の最も大好きな写真家、それがサルガドです!
今日、ここで貴重な時間を過ごすことができてとても感動しています!』と挨拶すると、
『今度の12月に日本に講演に行くので、その時にまた会いましょう!!』と言ってくれた。

社交辞令でもうれしいし、約束は守りたい。
『今年の12月、今日撮らせてもらった写真を渡しますね!』と名刺を渡した。

サルガドは明日、ポルトガルに来るようだった。
本人に会えなかったけれど、それでもとんでもない経験をしたと思っている。
まだ始まってもいない写真展会場に二時間以上もいたことも、
何周も回りながらゾクゾクした経験も、今までたった一度もない。

改めて美術館の人、そしてレリアさんに感謝だ!

サルガドの写真を見ながら、昨日まで撮影してきたアフリカのことと、
これから先にどのように写真を撮っていくのかを、いろいろと考えまくった。
これはきっと直接的に何か変化があった、というものじゃないかもしれない。
でも、もっとうまく、もっといい写真を撮りたい・・・と、今まで以上に強く思った。

ポルトガルといえば、4月25日橋のたもと・・・
ここで【GENESIS】は8月2日まで開催している。
ぜひその間にポルトガルに行く人がいたら、行ってみてほしい。→【コチラが会場】



【最近見た写真展】
1:『GENESIS』セバスチャン・サルガド<Cordoaria Nacional>
2:『NOITES DO BRASIL』<MUSEU NACIONAL DO DESPORTO>
3:『REMAIND』雨宮里江・蠣崎洋<ルデコ>
4:『職人写真』松田忠雄<tokyoartsgallery>
5:『今の今』竹沢うるま<アメリカ橋ギャラリー>
6:『ぼくらはみんな生きている!-動物たちの幸せの瞬間-』福田幸広<ギャラリーS>
7:『現代語感』富山治夫<品川オープンギャラリー>
8:『聖地巡礼・第二部』野町和嘉<あーすぷらざ>
9:『フォト四季写真展』<あーすぷらざ>
10:『A Sign Bar』サクガワサトル<コニカミノルタプラザ>
11:『Calle Esperanza ~待つ人々~』水渡嘉昭<コニカミノルタプラザ>
12:『木村伊兵衛写真賞 受賞作品展』<コニカミノルタプラザ>
13:『Bright Lights~街灯り、星明かり~』山本高裕<Island Gallery>
14:『三國連太郎三回忌 貌』市原基<キヤノンギャラリー銀座>
数字は4月から見た写真展の数です。