※GOE以外に関してはのちほど別途書くつもりです。
以下、ISU Communication 1557.日本語版を参考にしていますので、
詳しくはhttp://www.skatingjapan.jp/data/fs/pdfs/comm/comm1557j.pdf をご確認下さい。
ISU Communication 1557.
日本語版3ページ
Ⅱ.シングル/ペア要素の+GOE 採点ガイドラインの更新 (プラス面)
これらのガイドラインは、マイナスGOE 採点表と一緒に利用されるためのものである。
プラス面およびマイナス面の両評価により、実施された要素の最終のGOE を決定する。
重要なことは、要素の最終のGOE に、エラーによる引き下げだけではなくプラス面が
反映されていることである。
最終のGOE を計算するためには、まず始めに要素のプラス面を考慮し、これがGOE
評価の起点となる。次に、ジャッジはあり得るエラーのガイドラインに従ってGOEを
引き下げ、その結果が最終のGOEとなる。
起点となる(プラス面の)GOE を確立するために、ジャッジは各要素に対して次の項目を
考慮しなければならない。
GOEの等級に対する項目の数は各ジャッジの裁量によるが、一般的には以下を推奨する。
+1: 2 項目
+2: 4 項目
+3: 6 項目またはそれ以上
ジャンプ要素
1) 予想外の / 独創的な / 難しい入り
2) 明確ではっきりとしたステップ/フリー・スケーティング動作から直ちにジャンプに入る
3) 空中での姿勢変形 / ディレイド回転のジャンプ
4) 高さおよび距離が十分
5) (四肢を)十分に伸ばした着氷姿勢 / 独創的な出方
6) 入りから出までの流れが十分(ジャンプ・コンビネーション/シークェンスを含む)
7) 開始から終了まで無駄な力が全く無い
8) 音楽構造に要素が合っている
バンクーバ五輪女子フリーのキム・ユナ選手の場合
1.3Lz+3T Base Value10.00 GOE2.00(2/2/2/3/2/2/0/2/2)
ISUのジャッジによると上記の通りでした。
ISU Communication 1557を尊重し、まず回転不足やエッジエラー等、マイナスと評価されるものを
無視し、プラス面のみ見直します。
1.動作開始直後から連続ターンを行う。(この間15秒)
2.次に、短辺を滑走し、そのまま対角線を行くように直線的滑走。(9秒)
3.2.によりジャンプ要素2)は除外、音楽構造に一致していないので8)も除外。
=少なくとも音楽構造に一致させるならば1小節後にジャンプすべきである。
4.ジャンプへの入り方は予想外でも独創的でも難しい入りでもないので1)を除外。
※この時点で3つの除外項目が有るので、+3とすべきではない。
(よって、表示順4番ジャッジは原則不正解)
5.ディレイドではないし、空中での姿勢変形も認められないので3)を除外。
上記は完全に除外。
確実に認定できる項目は4)及び6)。よって、これにより各ジャッジはまず+1を付けることができます。
疑わしい(またはジャッジによりブレる)項目は5)及び7)となります。
ただ、当該のジャンプ要素終了直後の連続ターンを入れていますから、5)も大抵該当するという判定に
なるでしょう。7)については若干疑いの余地が有りますので、これによりプラス面でのジャッジ評価は
+1から+2の間ということになります。
次にマイナス面ですが、ダウングレード(回転不足)マーク「<」はジャッジ・パネルには
通知されません。よって、そのジャンプが予定通りの回転であったかどうかは各ジャッジの
判断に委ねられ、テクニカルパネルがいかなる判定を下そうとも、各ジャッジが通常再生で
回転不足であると思った場合には先に評価した点数を減じることができます。
(ISU Communication 1557 日本語版9ページ)
なお、回転不足とみなした場合に減じる点数は1~3の間です。
(ISU Communication 1557 日本語版1ページ)
以上により、全く回転不足でないクリアな3Lz+3Tであった場合の各ジャッジの正当な採点結果は
+1~+2であり、コンビネーションのいずれか、または両方が回転不足であるとみなした場合の採点結果は
-2~+1ということになります。
しかしながら、VTRをスローで再生しても回転不足は認められません。
よって、+1~+2のジャッジが正解、0と+3をつけたジャッジは不正解となります。
公平に、かつ選手の利益となるようにジャッジの採点を配分すると以下のようになり、
2/1/2/1/2/1/2/1/2
ランダムに抽出した結果もまた同様に
2/1/2/1/2/1/2
とすると、
11÷7≒1.57≒1.60
よって、本来のGOEは1.60となります。
当該ジャンプについては騒がれるほど高いGOEとは言えません。
ただ、無駄な力が「全く無い」かと言うと、やはり怪しいと言わざるを得ませんので、
本来はもう少し+1と評価するジャッジが多くてしかるべきだろうと私は思います。
同様にして浅田真央選手のバンクーバFSファーストジャンプについて確認します。
1.3A Base Value8.20 GOE0.8(1/0/1/1/1/1/2/1/0)
ISUのジャッジによると上記の通りでした。
まずプラス面を確認します。
1.演技開始直後から15秒間ターンを含む動作
2.2秒開けてバックから3Aへ弧を描きながらの準備滑走(単調ではない)
3.直ちに(1秒以内に)ジャンプ開始(両手を上げ切り、振り下ろし開始)
4.着氷点はフェンスより1メートル程度
5.着氷から直ちにターン
除外されるプラス面は2)及び3)。高さは有るが、距離は無いので4)も除外。
よって、これによりジャッジが+3をつける可能性はゼロとなりました。
(たとえば、2)が除外されないようにするには直前にイーグルを入れるなどする必要が有ります)
その他を見ていきます。
1)については評価が分かれるところでしょうが、バックから弧を描いて準備態勢に入り、それから直ちに
3Aと極めて難しいジャンプを開始していることから、原則として難しい入りと言えます。
ひとまずここは1人がこの項目を除外したものとします。
5)については議論の余地なく認定されるべきものでしょう。フェンス際での着氷及び直後のターン、
さらに着氷姿勢も素晴らしいものです。6)も同様です。
7)は評価の分かれるところでしょう。実際踏み切り時にやや無駄な力が入っていると見てとれなくも
有りません。他は全く見受けられません。よって、ここは4人が除外したものとします。
8)は曲が曲ですので評価が難しいところですが、ファーストジャンプとしては的確でしょう。
音楽的にはあと1拍後であるともっと良いと思いますので、1人が除外したものとします。
以上でプラス項目で除外され得る箇所の確認が終了しました。
回転不足もエッジの問題も有りませんのでそのまま続けます。
最も厳しいジャッジで3+3の除外=該当2となり+1をつけることになります。
つまり、0をつけるジャッジは本来有り得ません。
その他、3人が3+2の除外=該当3となり、こちらも+1をつけることになります。
残りの5人が+2をつけることになります。
よって、9人のジャッジは以下のように並びます。
2/1/2/1/2/1/2/1/2
おや? と思われた方は勘の良い方です。
そう、このジャッジの採点の並びは、キム・ユナ選手の3Lz+3Tと同じ並び方なんですね。
ですから、本来つくべきGOEは1.60となります。
ISUがつけた二人のGOEと、ここで算出したGOEを並べてみましょう。
実際 算出 その差
キム 2.00 1.60 -0.40
浅田 0.80 1.60 +0.80
そう、さきほど書いた通り、キム選手のGOEがべらぼうに高過ぎるという訳ではないのです。
ISUのお偉方がお決めになられた基準に厳密に照らすと、浅田選手のGOEがあまりに低過ぎる
ということなのです。また、相対的に1.20も評価に差が出るとなると、もはやこれは大問題
です。例えば浅田選手だけがべらぼうに高いGOEをもらい、実際より1.20高い2.00をもらうと、
10.20となり、キム選手の3Lz+3Tの基礎点より高くなります。
(まあ、本来このくらいの価値が女子の3Aには有ると思うのですがね)
ひとりだけを見るとただ「感覚的に見て高過ぎる」ということになるのですが、相対的に
意図的にGOEに差をつけていたとしたらどうでしょうか。もし本当にそうであれば、
非常に巧妙なやり口で、下劣極まりないものではないでしょうか。
ただでさえも採点競技はそういったことを疑われるのですから、もっとガイドラインを
きっちり守るジャッジをしていくべきでしょう。
#明らかな失敗ジャンプはそのままのGOE、その他テクニカルエレメンツはGOE係数に応じて
キム選手を要素ごとに-0.8または-0.4、浅田選手を同じく+0.8または+0.4とし、
PCSの要素もまた同様に各々-0.2、+0.4とすると、両者のフリーの演技は
実際 算出
キム150.06 144.46
浅田131.72 141.32
となりました。