2本目の矢は機動的な財政政策。
伝統的なケインズ政策(=公共事業投資)です。
政府は10兆円規模の予算措置を行い、それによるGDP押上げ効果は概ね2%程度、雇用創出効果は60万人程度と試算していました。


この政策が打ち出された直後は、アベノミクス1本目の矢の効果と相まって(1本目の矢についてはコチラ )、効果があるように見えました。2013年の7-9月期の実質GDPは年率換算で3.8%増、株価も5月までの半年で6000円ほど上昇し、有効求人倍率・失業率共に改善したのです。
しかし、公共事業を中心としたこの財政支出は、将来の借金苦を更に重くする反面、一時的な効果しか望めません。日本の低い潜在成長率(「資本・労働力・生産性」伸び率の合算値)をコンクリート中心の2本目の矢で押し上げることは困難なのです。
また、建設業界の深刻な人手不足は結果として、東日本大震災の復興の妨げにもなってしまいました。


では、民間投資を喚起するとされる3本目の矢はどうでしょうか。
残念ながら、現状では期待外れと言わざるを得ません。


安倍首相は半年前にもフィナンシャル・タイムズ誌(FT)に「私の『第3の矢』は日本経済の悪魔を倒す」と題した論文を寄稿しています。
そこで強調されているのが「規制の撤廃」「エネルギー・農業・医療分野」の自由化です。


しかし、エネルギーに関していうと、電力自由化に必要な発送電分離は法的分離にとどまる不十分なものです。また、原発優遇策を続けることは既得権益を持つ電気事業者に力を与え、新規参入をブロックします。


農業分野では、減反政策の廃止が華々しく紹介されましたが、その裏で飼料用米への補助金は増額されました。その目的は転作を促すことで食料米価格の下落を防ぐことです。減反政策は形を変えて温存されるのです。また、株式会社参入も限定的です。農地を所有できるのは農業生産法人に限られ、株式会社の出資は将来においても50%未満に制限されます。結局、農協を中心とした既得権益がその力を温存する仕組みは変わりません。


医療分野の自由化でも、医療法人の理事長(社長)は原則として医師免許保有者でなければならないという規制は温存されています。その結果、全国の病院の7割弱を占める医療法人のうち理事長が医者ではない法人は1%にも満たないのです。米国では、MBA保有者などの経営のプロがトップに就任することと対照的です。国家戦略特区では理事長の要件を緩和することが認められるようですが、株式会社の病院経営は認められないままです。
また、あれだけ約束した薬事法の改正による医薬品のネット販売も、薬剤師会などの強力な反対によって、解禁されたのは市販薬の一部だけでした。


こうして見ると安倍首相の唱える成長戦略は、利権団体とがっちり組んでいる自民党内部の勢力によって、かなり滞っているのが分かります。
これではミクロの改革は進まず、日本にベンチャーや新規事業が生まれ、雇用を生み出すというシナリオは崩れてしまいます。
今は円安により株高が進んでいますが、上昇に陰りが見えたら、政権はますます1本目の矢と2本目の矢に頼ってしまうという悪循環に陥ってしまうでしょう。
深くなれば深くなるほど出口が遠のいてしまう地下牢を掘り進んでいるようなものです。


もちろん、株高や高収益が続く輸出企業の国内投資や雇用増などによってトリクルダウン効果が生まれる可能性もあります(輸出企業は日本企業の半分もありませんが)。
アベノミクスが今のまま進めば、どのような結果をもたらすかは1年後に分かることになるでしょう。


一つだけ言えるのは、その時の日本経済がどのような状況になっていたとしても、今回の選挙で経済政策が争点になっている以上、国民もその結果に責任を持たなくてはならないということです。