『隠れん坊』 | わたぼうし 松谷幸亮 Official blog

「もういいかい」誰かの声がするよ

「もういいよ」つられて応えたよ

いつからだっけ 始まっていた

知らない君と かくれんぼ

見せたくない僕がそこにいるから

ばれないように上手に隠れなくちゃ

「ここがいいな」「いや こっちかな」

見つけた穴で息を潜めていた


不意に響くのは誰かの足音

闇を泳ぐ光に僕は

呆気なく追い詰められたけど


照らされても気づかないよう

瞼の裏へ逃げ込んで

呼ばれたって首を振り

「僕はここにいない」と言った

すると それは遠ざかっていった



「もういいかい」なんて訊いちゃいないのに

「もういいよ」誰かが応えたよ

いつのまにか 始まっていた

鬼にされていた かくれんぼ

ああ そうか 負けを認めたんでしょ

とうとう僕をわからなかったんだろ

それじゃいいよ 仕方ないな

君をすぐに見つけてあげるよ


理由はないけど僕にはわかるよ

君が隠れそうな場所

ひとつひとつ 覗き込み照らしてみれば


静かな夜 部屋の隅 雨に濡れる傘の下

ほらね そこで隠れている

だけど君は「いない」と言った

目を閉じ 首を振っていた


呆れて背を向け 去っていく僕にまた

「もういいかい」「もういいかい」

確かに聞こえた声


「もういいよ」本当は知っていたよ

「もういいよ」こんなの終わりにしよう

探したのも隠れたのも 他の誰かじゃない

君は僕だった

弱い僕を認められず 瞼の裏で震えている

出ておいで ねぇ 隠れながら

「見つけてほしい」って泣いたでしょ

涙さえも誰かの前じゃ 伝えられない君だから

痛み 狡さ 悲しみも 僕には教えてほしい

そう言う 僕も知っていてほしい


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