①堀古英司:キャッシュアウト・リファイナンス5年前の警鐘 | C株で稼ぐ

①堀古英司:キャッシュアウト・リファイナンス5年前の警鐘

<アメリカ経済はこの先・・・過去記事>:その1

2003年!!5年前の警鐘です・・・>

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楽天:堀古英司 ウオール街から2003年8月6日:

52回 キャッシュアウト・リファイナンス

週末のアメリカのテレビで、FP(ファイナンシャル・プランナー)が1時間、数々の視聴者の質問に答え続ける番組がある。私もたまにしか見ないが、見ると必ずある質問は、

「私の年収は2万5千ドルです。2万ドルのクレジットカード負債があるのですが、自己破産した方が得でしょうか?」。といった類のもの。2週間前にこの番組を見た時はさらにひどかった。

「私は新卒の23歳です。年収3万ドルですが、2年前にBMWの5シリーズを買ったので借金が2万5千ドルあります。今度新しい5シリーズが出たのでこれも欲しいのですが、どうやって資金を捻出すればよいでしょうか?」
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貯蓄率の高い日本では考えられない事かもしれないが、誰かがお金を借りないと金融システムというのは上手く機能しない。お金を借りるのは何も企業だけである必要はなく、個人でもライフサイクルに合わせて借金は必要である。特にアメリカでは借金して学費を納めるというのは普通の事なので、社会生活は借金と共に始まるという人は多い。それはそうとしても、やはり上記のような番組を数回見ると本当にこの国は大丈夫なのかと思ってしまう。
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2001年、テロにもかかわらずアメリカ経済がリセッションを脱出できたのは、言うまでもなく金融緩和のおかげである。自動車のゼロ金利キャンペーンや、住宅ローンの低金利でのリファイナンス(借り換え)によって個人消費が刺激された。特に流行ったのは「キャッシュアウト・リファイナンス」という方法である。リファイナンスによって月々の返済額を減らすという方法もあるが、「キャッシュアウト」というのは月々の返済額をそのままにし、値上がりした住宅を担保により多くローンを借り入れるという方法である。
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キャッシュアウトによる景気刺激効果は小さくない。特にここ2年間、新規住宅ローンのうち6割は多かれ少なかれキャッシュアウトを伴う借り換えであり、これによって年間1000億ドルの現金が家計部門に転がり込んだと言われている。これは5月末に成立した「刺激的な」景気刺激策とほぼ同じ金額である。
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それではキャッシュアウトによって得られた現金は何処に行ったのか?テロ後に自動車の販売台数が過去最高を記録したところを見ると、恐らくかなりの金額が自動車購入に向かったと推測できる。当社(Horiko Capital Management LLC )の調べではテロ直前がちょうど自動車買い替えサイクルに当たっており、タイミング的にもピッタリであった。ここ数年住宅価格の値上がりには目を見張るものがあったから、BMWといわず、メルセデスでもフェラーリでも買える人は沢山現れた筈である。
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さて話を「キャッシュアウト・リファイナンス」に戻そう。

「キャッシュアウト・リファイナンス」ができる条件は

1. 「打ち出の小槌」である住宅を保有している事、

2.住宅価格が上昇している事、

3.金利が低下している事である

。しかしご存知の通り、ここ一ヶ月半で長期金利が急騰を始めた。「中長期債を購入する」と言っていたグリーンスパンFRB議長が、「やっぱり購入しません」と言ったものだから債券市場は98年のLTCM破綻以来の大混乱になった。債券トレーダーは口々に「約束が違うじゃないか」と言っているが後の祭りである。
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目をモーゲージ債(住宅ローンを裏付けとした債券)に移すと事態はさらに深刻で、ほぼ投売り状態となっている。住宅ローンというのは期限前返済が可能なので、金利が低下するとどんどん返済を受ける。一方で金利が上昇すると返済がぴたりと止まる。即ちオプションを売っているような商品の特性があるので、投資家は金利の上下にあわせて国債の市場でリスクをヘッジしなければならない。しかし最近モーゲージ債の市場は米国債の1.5倍の規模にまで膨張してしまっている。ヘッジしなければならない市場の方が小さい訳だから、自ずから金利の振幅も激しくなる。
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こうなるとキャッシュアウト・リファイナンスだけでなく、通常の住宅ローンの申請も激減してしまう。住宅を100%現金で買える人はそういないだろうから、住宅の購入者が少なくなって住宅価格が下落する。住宅価格が下落すると、キャッシュアウトによって余計に貸してしまった借金には担保不足が生じる。この借金が返せなくなると、銀行の住宅ローンが不良債権化する。するともともと過小資本の政府系住宅金融機関、ファニーメイ、フレディーマックが債務超過に陥る。巨大化したファニーメイ、フレディーマックを救済できるのは米国政府しかない。政府は国民の税金によってこれを穴埋めしなければならない。しかし来年大統領選挙を控えていて増税などできない。では誰が負担するのか?米国債の保有者である。(ちなみに欧州中央銀行は先月半ば、ファニーメイ債、フレディーマック債を売却したと報じられている)。
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それでは米国債の最大の保有者は誰か?日本政府である。米国債はドル建て、固定金利だから為替リスクも金利リスクも当然日本持ちである。上述の23才の青年のBMWではないにしても、キャッシュアウト・リファイナンスによってアメリカ人が自動車を買って焦げ付く借金を、回りまわって日本が負担する事になるというシナリオは考えたくもない。

堀古 英司 

Hori ko Capital Management LLC