魔法少女まどか☆マギカ(略して『まどマギ』)を観た。

これは、深い。
深くて恐ろしいアニメだ。
アニメの歴史を変えた。

なぜなら、人類史上初の、「女性の成長物語」だからだ。
今まで、女性が主人公のアニメで、女性が大活躍しても、結局最後は男性のサポートがないと解決できなかったり、女性だけだと失敗に終わるのが定番だったのに、このアニメは女性が世界を救ってしまう。
つまり、男性は必要ないと言い切っている。
ここまで振り切ったアニメは、今まで見たことがない。
もうそういう時代が来てもおかしくないのだが、実際そこまで描ききっているアニメは初めてで、これはアニメ史上で初の試みなので、間違いなく歴史に残る。

話としては、「きゅーべぇ」という可愛いウサギのようなマスコットが、「願い事を一つ叶えてあげる代わりに、魔法少女にならない?」と主人公に話しかけてくるところから始まる。

魔法少女は、この世にはびこる魔女を倒すことが使命として与えられている。
主人公のまどかは、自分には何も取り柄がないから、魔法少女になろうかなと思い、とりあえず他の魔法少女が闘う様子を見ながら考える。

1~2話は、単純に魔法少女が魔女を倒すだけで終わる。
ここまでは、セーラームーンのフォーマットと何ら変わりがないので、ああ、セーラームーンのように少女をターゲットにしながら男も見たことがある的なターゲットの広げ方で売れているに過ぎないとたかをくくっていた。

しかし、3話以降で話が急展開する。
一人の魔法少女が死んでしまい、こういうリスクを背負ってまで魔法少女になるべきか、葛藤を迫られる。
ミステリアスなキャラや強気なキャラも出てきて、フォーマット的に急にエヴァっぽくなる。
ただ、ガンダムやエヴァと全く違うのは、これらは何だかんだで1話から自分が戦闘に参加するのに対し、まどマギの主人公はいつまで経っても魔法少女にならない。

そうこうしているうちに、衝撃の事実が伝えられる。
今まで魔法少女が闘っていた魔女は、魔法少女が成長した姿であると。
つまり、敵のはずの魔女は、自分の将来の姿なのだ。
人類を救えば救うほど、最後に自分が魔女になった時、その反動で世界を滅ぼすエネルギーに変わる。
そこで主人公は、ついに自分が魔法少女になり、そういう宇宙原則なるものを根底から変え、この世に魔女が生まれない新しいルールを作り、死んでいく。
まるで聖母マリアのようであった。
西洋史で、男性が結婚するまで生殖行為が出来ず、女性に触れ合う機会が遮断されていたとき、女性に幻想を抱き、極端にプラスの存在、マイナスの存在として捉えていて、プラスの存在として捉えると聖母マリア、マイナスの存在として捉えると魔女と見なしたという話があるが、このアニメも女性は成長すると魔女か聖母マリアにしかなれない。
それは男性原理だから、主人公が自ら聖母マリアになり、ゆくゆく女性が魔女にならざるを得ないという(男性原理の)宇宙法則を書き換えてしまった。
かくして女性は世界を救い、そして今でも選ばれし魔法少女は男性と戦っている。
世界が変わったあとは、魔女の代わりに魔獣と闘うことになっており、魔獣の姿は明らかに男性のように見えるので、間違いない。

まどマギの世界観は、徹底して女尊男卑だ。
まどかの家庭は、母親がサラリーマンで、父親が専業主夫。
母親はバリバリ働き、次期社長も虎視眈々と狙っている。
まどかの友達には、好きな男の子がいて、彼は天才バイオリニストになれる才能があったが、事故で手が使えなくなり、道を閉ざされた。
つまり、男性が意図的に社会進出出来ない設定になっている。
このことからも、もはや男性原理の社会ではないことが見て取てる。

この作品は文学的要素も取り入れている。
きゅーべぇと悪魔の契約を交わすのはゲーテのファウスト、ハッピーエンドになるまで何度も時間を繰り返すのはニーチェの永劫回帰から設定をとってきている。

深いセリフも出てくる。
「正しいことを積み上げれば幸せになれるわけじゃない。だから大人って大変なんだ。正しさに詰まった時は、いっそのこと間違っちゃえばいいんだよ。だから大人はお酒を飲む権利があるんだよ。大人って、辛いんだよ。」
まどかが母親から言われるセリフだ。

結局まどかは人類の全ての業を背負い、死ぬことを決意する。
まどかの成長物語。
そこに男は手助けなんて出来ない。
むしろ女に助けてもらってばかり。
そんなアニメがこの世に出たこと、それが途方もなく面白いことを、男の俺は、非常に複雑な思いで見守るしかなかった。