『グリーン・ノウのお客さま』 | 手当たり次第の本棚

『グリーン・ノウのお客さま』


猿って、好き?
私は、大人になってからは、そこそこの興味しか、なくなったような気がする。
でも、子供の頃は大好きだったな。
猿って、見ていて面白いし、なんかとっても、魅力がある。
どこにでもよじのぼる事が好きな子供は、やはり、猿が好きになるのかもしれない。

ところで、『グリーン・ノウの川』で登場したビルマ難民の少年、ピンは、ロンドン動物園で、初めてゴリラを見る。そして、魅了されてしまうわけだ。
ゴリラの気高さ、力強さ、不屈さといったものを、感じるんだな。
そして、ゴリラがあまりにも狭い檻に閉じこめられている事に、ショックを受けてしまう!

私は残念ながらロンドン動物園は知らない。
イギリスに渡った事が、ないからな。
でも、話に聞くと、昔の動物園は、概して檻が狭かったdなそうだ。
いわゆるサファリパークみたいなものができたあたりから、動物園の、動物への待遇って、改善されてきたのかもな。

ところで、ここに登場するゴリラのハンノーは、もうひとりの主人公でもある。
なにしろ、物語は、ハンノーがまだ幼く、家長である父ゴリラに連れられている一家の一員として、ジャングルで暮らしているところから始まるからだ。

それにしても、イギリス人は、野生動物が好きだよなあって思う。
その感覚は、日本人の「野生動物を好む」感覚とは、かなりずれがあるのだけどな。

ビルマ難民という、風変わりなキャラクターであるピンの生い立ちなども、ここでは語られるのだけれども、残念ながら、そのユニークな特性、あまり作品内には活かされていないと思う。
せっかく、主人公がピンで、彼の視点で物語が語られるのに、作中のピンの人物像は、あくあまでも、イギリス人が見た表面的かつあいまいな、「アジア人」にすぎない。
その点については、失敗していると思う。

もっとも、それは、ピンとハンノーの不思議な交流をなんら損なうものではない。
イギリスの森で出会う、アジアの少年とアフリカの獣。
両者はともに難民であって、帰るべき故郷がない。
あるいは、故郷に戻る術をもたない。
だからこそ、共感したのだろうなあ。

また、薄汚れた「文明社会」の中にあり、両者とも、「より自然に近いところ」で生まれ育ったという共通点もあるわけだ。
考えようによっては、ふたつの大戦を終えた後のイギリスが、
「文明というものが人間にもたらす、キタナイ現実」
に倦み疲れていて、
「自然に近しいもの」
に一種の憧れを感じていたのかもなあ。

著者: L.M.ボストン, 亀井 俊介
タイトル: グリーン・ノウのお客さま