『グリーン・ノウの魔女』 | 手当たり次第の本棚

『グリーン・ノウの魔女』


常に和気藹々、明朗活発なグリーン・ノウ。そのグリーン・ノウに、なんと敵があらわれる!
シリーズ5作目って、なかなか怖い話なのだ。
いや、ほんと。
幽霊いっぱいの1~2作目の方が、「怖いか」というと、ぜんぜん怖くないのにな。
ボストンは、まるで、
「幽霊より、人間の方が怖いんだよ」
そう言っているみたいだ。

さて、その敵というやつは、魔女なんだよな。
といっても、昔ながらの魔女であるようでいて、ちょっと違う。
少なくとも外見は、むしろ穏やかな美人にも見えそうだ(でも内面のものがにじみでてしまうため、そうは見えない)。
この魔女は、魔法を使ってグリーン・ノウに攻撃をかけてくるけれども、それに対して、オールドノウ夫人と、トーリーと、ピン。この三人が、智慧と勇気をふりしぼって、立ち向かうのだ。

もちろん、物理的な力でという事じゃないぜ。
グリーン・ノウにそなわっているいろいろな「力」も使うけれど、主に三人が使うのは、
「陰険な攻撃に負けない意志力」と、
「心を明るく楽しく保つこと」
これなんだ。

なんだよ、そんなもんかよ?
そう思うか?

ところがだな。
このテのことに関する権威、ダイアン・フォーチュンが『心霊的自己防衛』(国書刊行会)で述べているところによれば、悪霊とか、悪意ある力(魔術のようなものだね)に立ち向かうには、上にあげたふたつの心構えが非常に重要なのだそうだ。
ちなみに、ダイアン・フォーチュンというのは、内光(インナーライト)協会という一種の魔術団を作った、言うなれば白魔術師だ。

どよ~ん鬱々としていてもいけないし、
この野郎っ 許さねえぜ! とカリカリするのもよろしくない。
もちろん、諦めちゃいけない!

そういえば、グリーン・ノウに狙いをつけた魔女の人物像、これもまた、現代の魔術師とか妖術師のポートレイトに、非常に近いと私は思う。
ジュネーヴの哲学博士という肩書きを持っているところなんか、いかにもらしい感じがする。
ていうか、これは、フランケンシュタイン博士をちょっと連想するかな。
(まあフランケンシュタイン博士は、魔術師ではないけどな)。

いや、ともかく、(文系の)学位を持っていること、一見、穏やかな好人物に見えそうな外見であること、そして、魔術を使うのもさることながら、一種の催眠術で人を惑わしたり陥れようとしたり、自分の欲しいものを、世俗的な手段の裏に魔術をしのばせて入手(詐取)しようとするところなど。

なお、ボストンが描き出しているまじないなどは、実際にイギリスの民俗として行われていたものが中心だと思う。イギリスに限らず、鏡を使った魔術などは広く行われているけれどもな。

……大人になると、ついつい、こういう裏を読むような読み方をしてしまうなあ。
でも、何よりこの物語の良いところは、そういう悪意ある「もの」に対して、雄々しく……というより、明るく立ち向かう、性格も背景も違う三人の活躍にあるのは間違いない。
ラストには、ファンにとっても嬉しいエピローグがついている。

著者: L.M.ボストン, 亀井 俊介
タイトル: グリーン・ノウの魔女