総選挙の最大の争点は原発?消費税?TPP?外交・安保?_01
2012年12月16日投票の総選挙。 私たちが投票先を選ぶにあたって最も重視するべきなのは、各候補者・政党の原発・エネルギー政策でしょうか? それとも、消費税率引き上げやTPP交渉参加への賛否、あるいは景気浮揚策といった、経済・財政に関する姿勢でしょうか? はたまた、各党の外交・安全保障政策でしょうか?
上に挙げたいずれの政策分野も、重要です。 けれども、ある1人の有権者が理想としている政策の組み合わせが、ある政党の政策の組み合わせと、完全に一致するとは限りません。 ある1人の有権者の意見が、経済・財政政策ではX党の公約に一番近いけれども、しかし、X党の外交・安全保障政策は、その人の考えとは正反対。 そして、外交・安全保障政策で最も一致するのはY党だけれども、Y党の経済・財政政策は、この人の望む方向とは真逆を志向している。 こんなことは、あり得るでしょう。
もう少し具体的に、国防・安全保障重視のAさん、原発廃止派のBさん、民間活力重視・市場重視派のCさんという3人の有権者を想定して、考えてみましょう。
例えば、ここにAさんという有権者がいるとしましょう。 Aさんは、領土保全の問題に関して、「日本は近隣諸国に対して現在よりも強硬な姿勢で臨むべきだ」と考えています。 軍事力を増強して周辺諸国を抑え込むべきだという意見です。 そこでAさんは、とりあえず選択肢を2つに絞りました。 新聞・テレビなどで報じられている各党の政策を検討して、自由民主党か日本維新の会に投票しよう、と考えたのです。
しかし同時にAさんは、こうも思っています。 「私がある政党に投票するには、その政党が明確なエネルギー政策を掲げていることが、不可欠の前提だ。 細かい工程表まで求めるのは酷だろうが、せめて、原発推進(原発増設)なり、ほぼ現状維持(原発依存率を3.11以前の水準前後に保持する)なり、原発依存率の引き下げなり、即時の または 段階的な原発廃止なりといった、方向性だけでも示しているべきだ。 それができないような政党には、3.11以降の日本の政治に関与する資格すらない」。
そこでAさんは、両党のエネルギー政策を調べようと、まずは自由民主党の政権公約『重点政策2012』を読みました。 この政策パンフレットは安倍晋三総裁による前振り(前文的な部分)から始まり、次は「まず、復興。 ふるさとを取り戻す。」となっています。 その後には「経済を、取り戻す。 Action 1 経済再生」「教育を、取り戻す。 Action 2 教育再生」「外交を、取り戻す。 Action 4 外交の再生」「安心を、取り戻す。 Action 4 暮らしの再生」と4項目の重点政策が掲げられ、各項目それぞれについて、多少具体的な政策が10前後ずつ紹介されています。 さらに続く「経済、教育、外交、暮らし、4つの再生の向こうにあるもの ― みんなで、新しい日本をつくろう。」という項目では、「自民党が目指す、新しい国のかたち」が14のキャッチフレーズ的な文言として挙げられています。 そして、ここまでのところ、原発政策については一切語られていません。
全26ページの この政策パンフレットの残り約半分(17ページ以降)が「自民党政策BANK」となっています。 ここは、すでに言及のある復興、経済、教育、外交・安全保障、社会保障を含めた10の政策分野に分かれています。 そして、分野ごとに、ある程度詳しい政策が述べられています。 その中の1項目である「エネルギー」の分野に、ようやく原発政策が出てきます。
Aさんは、安倍総裁が告示後の第一声で「昨年、原発事故が起きた。安全神話の中で原子力政策を進めた自民党にも責任があり、真摯(しんし)に反省する。」と述べたというニュースを既に耳にしていて、「過去に間違いがあったというのならば、それはどのような間違いであったのだろうか。 そして、その間違いをどのように正そうとしているのだろうか」という関心を抱いています。 ところが、この自民党の政権公約パンフレットには、従来のエネルギー政策にどのような誤りがあったのか、ということが、まったく書かれていません。 したがって当然、誤りをどのように克服しようとしているのか、ということについても、一切言及がありません。
「反省する」というのは、安倍総裁の単なる個人的な感想であって、党としての見解ではないのだろうか? Aさんは疑問に思い、色々と調べた結果、党の「総合エネルギー政策特命委員会」というところが、今年(2012年)2月15日に『中間報告』を、そして、5月29日に『とりまとめ』(最終報告?)を発表していることを知りました。
『中間報告』の「わが党のエネルギー政策(主に原子力政策)を振り返って」という部分では、石油ショックや地球温暖化というような背景に触れたうえで、次のように記されています。
「こうした中、原子力の安全神話に過度に依拠し、原発建設をわが党として推進してきたが、福島原発の事故により多くの方々に甚大な被害をもたらしたことについては、党として猛省し、周辺住民の方々、国民の皆様に深くお詫びしなければならない。
さらに、原発から発生する使用済燃料に関しては、放射性廃棄物の処理方法や核燃料サイクル技術の確立が鍵になるが、これまで巨額な投資をしてきたにも関わらずその解決の目処がたっていない。このようなわが党の姿勢について反省するとともに、こうした議論が未熟なまま原子力政策がなぜ推進されてきたのか、特に電力業界や原子力を推進してきた官庁との過度な相互依存関係がなかったかなど、さらなる検証を行う必要がある。」
Aさんは、「なかなか潔い反省の態度を示しているなあ」と、多少感心しました。 Aさんは、「最終報告には期待できそうだ。 自らの過ちを真剣に反省し、その誤りを真剣に改めるというのであれば、自由民主党に投票しようか」と思案しつつ、『とりまとめ』に目を通しました。
ところが、『とりまとめ』には、『中間報告』で示唆されていた『検証』が、影すら見当たらないのです。 Aさんは、がっかりしました。 Aさんは、原発の存続を、必ずしも否定してはいません。 また、一度間違いを犯した政党には、二度と政府を任せてはいけない、と思っているわけでもありません。 ただし、間違いを犯したのならば、その原因を徹底的に究明し、同じ轍を踏まぬための具体的な改善策を講じてもらわなくてはならない、という信念を抱いています。 なぜならば、そうでなければ、同じ過ちが何度でも繰り返されてしまうからです。 「議論が未熟なまま原子力政策がなぜ推進されてきたのか」、その理由を明らかにしないまま放っておくような政党は、再び議論が未熟なまま原子力政策を推進してしまうのではないか? Aさんは、そう心配し、「このような無責任な政党には票を投じるわけにいかない」と考えました。
そこで次に、日本維新の会の政策を調べようと思いました。 ところが、「原子力発電は2030年代までにフェードアウト」と規定した公約について、幹部の間で揉めているようなのです。 色々と情報を当たったところ、「『2030年代までにフェードアウト』というのは、公約ではないらしい」、ということが分かりました。
11月29日に公約発表会見において、「政権公約といわれるものは『骨太』で、『政策実例』はあくまで議論の途上…」という記者の質問に対して、橋本代表代行は「そうですそうです」と答えています。 そして、“民主党が公約を破って消費増税を強行したにもかかわらず、大手メディアは野田首相のこの行動を容認している“という主旨の批判を展開したうえで、次のように語っています。
「細かくね、みなさん、30年代がどうだとか、文言がどうだとか訊いてますけど、変えたっていいんでしょ。 だって、変えたっていいって、みなさん言ってるじゃないですか。 場合によっては変えてもいいと。 それは、次の選挙で審判受けりゃいいって言うんですから、なんでここ、こんなに詰めなきゃいけないんですか。 だからねえ、僕らのねえ、その、姿勢とか、大きな方向性とか、役所・霞が関の官僚じゃ変えれないような方向性を示すのが、僕らの役割であってね、制度設計とか詳細設計とか具体的な工程表、これは役所、あの、行政官僚が作るものですよ。」「細かな文言のやり取りとかね、そういうところに、どんだけ批判されようが何であろうが、僕はそういうところ詰めるつもりはありません」。
また、別の機会には、橋下代表代行は、「政策実例」を、「議論のたたき台」とも述べているようです。
なるほど、橋下代表代行の論にも一理ある。 Aさんは、そう考えました。 党としての事前の目算では、2030年代のうちに原発を解消しようとしていても、計画を詳細に煮詰めれば、2040年代の初頭にまでずれ込むこともあるだろうし、逆に、2020年代の末に前倒しできるかもしれない。 選挙前のおおよその目標と、政権を担って後の実際とが数10年もズレてしまっては、厳しく批判されて当然だろう。 けれども、数年前後することまで「ダメだ、ダメだ」と言ってしまっては、政治が成り立たない。 大事なのは、目標を確実に実現するための手段をはっきりとさせることだ。 どのような仕組みを打ち立てるのかという根本理念をしっかりとしておけば、「その仕組みを使ってゴールにたどり着く時期は、いつなのか」というスケジュール設定については、数年程度の幅があっても構わない。
そう納得して、『骨太2012-2016』を読みました。 すると、全5項目のうちの第4項目が「4エネルギー供給体制を賢く強くする」となっており、そこには次のように書かれています。 「■先進国をリードする脱原発依存体制の構築 ■原発政策メカニズム・ルールを変える=ルールの厳格化 ①安全基準 ②安全基準適合性のチェック体制 ③使用済み核燃料 ④電力供給責任・賠償責任 ■電力市場の自由化 ■発送電分離 ■最小のエネルギーで最大のパフォーマンスを上げる先進国最先端モデルの国へ」。
「姿勢」だの「大きな方向性」だのいっても、これではあまりにも漠然とし過ぎていて、信任に値するのかそうでないのか、判断のしようがありません。 第一に、「脱原発依存体制の構築」というのが、原発を将来的に0にするのか、それとも、過度に依存しない程度の比率で原発を残すのか、全く分かりません。 「2030年代までにフェードアウト」と述べている「政策実例」ですら、良く読んでみると、「既設の原子炉による原子力発電は2030年代までにフェードアウトすることになる」となっています。 すなわち、新設の原子炉によって原子力発電を継続してゆく可能性を示唆しているのです。
第二に、「安全基準適合性のチェック体制」をどうするつもりなのかも、不明です。 「ルールの厳格化」と言っている以上、「チェック体制」を強化する方向なのでしょうが、具体的にどう強化するのかは、全く述べられていません。 確かに、細かいところまで厳格に公約化し、なおかつ、政権奪取後には絶対にそれを変えてはいけない、とまで要求するのは、不合理だ。 この点では、Aさんも橋本代表代行と同意見です。 けれども、「チェック」をする組織のメンバーをどう構成するのか(過去に電力会社や業界団体から金品を受け取ったことのある人の採用の可否、あるいは、チェック体制を担う役割を務めた後に電力会社や業界団体に勤務することの可否など)とか、会議そのものや議事録の公開とかについて、大まかな方針だけでも示してもらわなければ、有権者としては、この党が本気で「ルールの厳格化」を実行しようとしているのかどうか、判断の下しようがありません。
第三に、「最小のエネルギーで最大のパフォーマンスを上げる」という文句が、意味不明です。 この項目については、「議論のたたき台」でしかない「政策実例」においてすら、「■新たなエネルギー供給・消費体制における技術・サービスイノベーション ■自然エネルギーをフル活用する国へ」としか述べられていないのですから、日本維新の会が何をやろうとしているのか、「姿勢」「大きな方向性」すら見えてきません。 自然エネルギーを用いて発電された電力を買い取る制度を充実させたり、ソーラーパネルや太陽熱利用設備を設置する家庭に対する財政補助を拡充したりするなどの、自然エネルギー使用を促すような政策誘導・刺激策を採用するのか? それとも、他の項目に掲げられている「発送電分離」や「電力市場の自由化」を断行すれば、自然エネルギーは自然と普及してゆくと算段しているのか? つまり、政府が、「使用済み核燃料は、核燃料を使った人が、自分の責任で始末しなさい。 また、耐久年数が過ぎた炉を廃炉にするにあたっては、必要な経費をすべて自分で負いなさい。 国はお金を出しませんよ」という。 さらには、「事故を起こした際には、事故を起こした会社が、被害者に対して損害を全額賠償しなさい。 被害者救済のために国が一時的に肩代わりをすることがあっても、最終的には一銭も負担するつもりはありませんからね」という。 そうすれば、原発事業のコストパフォーマンスは、自然エネルギーを用いた発電の費用対効果を下回るようになる。 すると、自然エネルギー事業が自ずから成長するし、逆に、採算の悪い原発を使おうという会社はなくなっていく。 日本維新の会は、このような将来見通しを持っているのか? 大まかに言って、政府主導なのか、市場に任せるのか、そのくらいのことについては明確化してもらわなければ、Aさんとしては、この党の政策が本当に現実的なのか、実現可能なのか、判定しかねます。
第四に、「③使用済み核燃料 ④電力供給責任・賠償責任」に至っては、課題を列挙しているだけです。 「政策実例」には、「使用済燃料の総量規制」とありますが、やるともやらぬとも分からない「議論の途上」「たたき台」においてすら、これほどまでに抽象的です。 各電力会社が最終処分しないまま保管しておける使用済み核燃料の総量を、どの程度まで認めるのか。 それを、学者・官僚・事業者をも交えて議論することもなしに、細かい数値まで詰めるのは、確かに無理な話です。 とはいうものの、現在の保有量の5割増しくらいまでは認めるのか、あるいは、およそ2倍まではOKとするのか、という程度までは煮詰めた数値を出してもらわなくては、そして、それを、「たたき台」にすぎない「政策実例」の1つとしてとして挙げるのではなく、公約として掲げるのでなくては、日本維新の会の政策が原発の廃止ないしは削減を促進する実効性を持つのかどうか、Aさんとしては計りかねます。
「これでは、『骨太』どころか、骨粗鬆症ではないか。 内容が希薄すぎて、良いも悪いも判断の下しようがない」。 Aさんはすっかり困ってしまいました。 「私はどの党に投票すれば良いのだ?」
01は、とりあえずここまで。
02(「Bさんの場合」)につづく予定。
参考:各党の選挙公約など
2012年11月16日の衆議院解散直前の時点で国会に議席を有しており、かつ、比例代表の全11選挙区に名簿を届け出ている政党。
衆議院解散直前の全国会議員数順。
民主党
民主党の政権政策 Manifesto
http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto2012.pdf
自由民主党
重点政策2012
http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/seisaku_ichiban24.pdf
総合エネルギー政策特命委員会 中間報告
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-113.pdf
総合エネルギー政策特命委員会とりまとめ
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-112.pdf
過去の原発政策に関する安倍総裁の発言についての報道など
11月30日、日経、党首討論会
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS30036_Q2A131C1000000/
12月4日、産経、第一声
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121204-00000519-san-pol
12月4日、毎日、第一声
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121204-00000035-mai-pol
日本未来の党
未来への約束
http://www.nippon-mirai.jp/promise/promise.pdf
公明党
衆院選重点政策 manifesto 2012
http://www.komei.or.jp/campaign/nipponsaiken/manifesto/manifesto2012.pdf
みんなの党
アジェンダ2012
http://www.your-party.jp/file/agenda201212.pdf
日本共産党
総選挙政策 日本共産党の改革ビジョン
http://www.jcp.or.jp/web_policy/data/2012_senkyo-seisaku.pdf
日本維新の会
骨太2012-2016
http://j-ishin.jp/pdf/honebuto.pdf
「2030年代までにフェードアウト」について、また、『骨太』と「政策実例」の関係についての、党幹部の発言
2012年11月29日 日本維新の会 選挙公約発表 会見(4/5)
https://www.youtube.com/watch?v=Nre3I3mIvII&list=UL
11月30日、朝日、党首討論会
http://www.asahi.com/politics/update/1130/TKY201211300410.html
12月1日、毎日、党首討論会
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121201-00000001-mai-pol
12月1日、時事、松井一郎幹事長
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201212/2012120100160&g=pol
12月1日、日テレ、松井一郎幹事長
http://www.news24.jp/articles/2012/12/01/04218621.html
12月2日、毎日、橋下代表代行
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121202-00000041-mai-pol
12月3日、産経、橋下代表代行
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121203-00000100-san-pol
社民党
衆議院選挙公約 2012 総合版
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2012/data/manifesto_all.pdf