結婚して半年ほど経った頃、親から「子どもはまだできないのか」と聞かれた。「がんばっているので、そんなに急かさないで欲しい」と答えるしかなかった。結婚して約1年後、また親から「子どもはまだか」と聞かれた。2回目だった。「今は仕事が大変で、あまりそっちの方に気が回っていない。でも、そんなことも言っていられないので、がんばろうと思う。もう少し長い目で見てほしい」と答えると、「結婚して1年経って子どもができなければ、一度病院で診てもらった方が良い」と言われた。親からそんな風に言われると、さすがに辛かった。もちろん、病院など行きたくなかったし、行く気もなかった。



子どもができない理由は分かっていた。前回書いたように、結婚後、約半年間はできないようにしていたので、当然無理だ。そして、約半年後から子作り体制に入ったものの、その途端にあまりできなくなってしまったのである。それまでの回数が半分以下に減った。しかも、行為には及ぶのだが、どうしてもフィニッシュできないのである。その理由が色々あったことは前回書いたが、今振り返るとやはり仕事のストレスが大きかったと思う。当時は、原因が仕事のストレスだとはあまり思っていなかった。その時は自分の置かれている状態が、自分ではなかなか分からないものなのである。後で振り返ってみて分かることは多い。



結婚して1年が過ぎた頃、風邪をひいた。別に珍しいことではない。数日経ってそろそろ治ってきたかと思っていたところに、ぶり返すような感じで珍しく高熱が出た。間の悪いことに仕事もピークを迎えており、一日も休めなかった。完全に治るまで2週間以上かかった。この前後、約3ヵ月間、完全な空白期間だった。さらにその約半年後、また風邪をひいた。前回と全く同じで、風邪をひいて数日経ち、治ってきたかなと思っているところに突然高熱が出る。この時も一日も仕事を休めず、フラフラになりながら仕事をしたものの、結局、この前後約2ヵ月も完全な空白期間になってしまった。



そう、結婚してまだ2年目だというのに、早くもセックスレス夫婦になってしまったのである。なお、「セックスレス」とは「特殊な事情が認められないのにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクトが1ヵ月以上もなく、その後も長期にわたることが予想される場合」(日本性科学会)と定義されている。1ヵ月空くと「セックスレス」というわけだ。そして、このようなセックスレスの夫婦は、4割近く(36.5%。なお、40歳以上の夫婦では4割以上)存在するという(16~49歳の男女3,000人対象のアンケート。2008年9月厚生労働省研究班実施)。その理由としては「仕事で疲れている」「面倒くさい」といった回答が多く、「仕事の負担増がセックスレス、つまり少子化の一因になっているのではないか」と分析されている。



このようにセックスレスの状態になったことで、妻は不満に思い、不安を感じたかもしれない。確かに風邪をひいて体調が万全でなく、物理的にできなかった期間も数週間はあるのだが、それにしてもなぜ2ヵ月も3ヵ月もしなかったのか、今振り返ってみて自分でもよく分からない。この頃の記憶が飛んでいるような気もする。それだけ、全神経が仕事の方にいってしまっており、妻のことや子作りまで気が回っていなかったということだろう。本当は自分の人生を考えれば、仕事などは問題の出ない程度に適当にやっておき、子作りに全力を尽くすべきなのだが、顧客の担当者から常に120%を求められたので、プライベートな生活まで浸食され、ボロボロになってしまったのである。



結婚して1年半が過ぎた頃、「子どもはまだできないのか」とまた親から尋ねられた。3回目だった。結婚後、親からそのように尋ねられることをいつも恐れていたのだけれど、さすがの口うるさい母も「あまりプレッシャーをかけてはいけない」と僕に遠慮していたのだろう。約半年ごとにしか、その話をしなかった。それでも、そのように言われることはやはり辛い。自分でも「子どもがほしいのに、なかなか行為そのものができない」と悔しく思い、どうしたらいいのか悩んでいたのでなおさらである。


この時は、親もかなり真剣に「結婚してもう2年になるのだから(実際は1年半を少し過ぎたぐらいなのに、親は常に先回りした数字を言って追いつめてくるのだ)、一度病院に行きなさい」としつこく勧めてきた。もちろん、病院には行きたくなかったので、仕方なく自分の現状を少しだけ話した。「何か問題があるわけではないと思う。なかなか元気が出ないのだ。それは仕事が忙しいことと、40歳という年齢に原因があると思う」。親は僕の言うことに納得はしなかったものの、その日は何とか収まった。しかし、もう待ったなしの状況に追いつめられた。



本当に何とかしないといけない。なぜこんなにその気がなくなり、しかも行為に及んだとしてもフィニッシュまでできなくなってしまったのか。もちろん、仕事は忙しいし、毎日精神的に追いつめられている。40歳という年齢もあるだろう。しかし、それは言い訳に過ぎない。もしかして、これが世間で言われている「ED(勃起不全。EDに悩む男性は先進国で約1割いるといわれ、40~50歳代では約5割が悩んでいるとのレポートもあるという。原因はストレスなどの精神的なものだと考えられている)」なのか。自分もそうなってしまったのか。これでもし病院に行って「あなたはEDです」と診断されたら、本当にそうなってしまう。男としての自信が根底から覆されてしまう。それは嫌だ。それだけは避けなければならない。



結婚当初はそこそこちゃんとできていたのだし、結婚後の生活習慣に何か問題があるのではないか? 一つ思い当たる節があった。「結婚後、全く走っていない」という事実である。結婚するまで土日は走っていた。仕事がそれほど忙しくなく余裕のあるときは、金曜夜も走っていたし、バカみたいな話だけれど大雨の日に傘をさして走ったこともあった。走るのが好きなのだ。走るのは確かにしんどい。しかし、一度走り出すと楽しい。走ることに集中する。色んなことを忘れられる。映画鑑賞やパチンコと同じような一種の麻薬と言っても過言ではない。習慣性があるのだ。結婚して約1年半後、ようやく週末にまた走り始めた。また身体を動かし始めたことで、肉体的にはもちろん、精神的に良い影響があったように思う。やはり、人間には適度な激しい運動が必要だ。



運動の他にやり始めたこととして、パワーの源であるニンニクを摂るよう心がけた。また、効果があるのかないのかよく分からなかったけど、栄養ドリンク剤やサプリメント(マカなど)も飲むようにした。そして、空白期間ができないよう、自分の中で改めて「決戦は土曜日」と決め、土曜日は何が何でも行うように努めた。本当は、排卵日に絞って行いたかったのだが、当時の仕事の状況では平日に行う気力はほとんどなかったし、せめて週のうちで一番余裕のある土曜日に行おうと努めることしかできなかったのである。


それでも、毎週はできなかったし、できた場合でもどうしてもフィニッシュまで至らない。このようなどうしようもない状態がしばらく続いた。そして、ある時から急にフィニッシュまでできるようになったのだが、後で振り返ってみると、それは約1年半続いたストレスの多い仕事が終了した時期とぴったり一致していたのである。仕事のストレスというのは、本当に男性の本能を蝕んでしまうものなのだ。次回は、子作りにコツはあるのか?ないのか?