インドの狂虎と言えばターバンを巻きサーベルを口に咥え入場し、レフリーの目を盗んではパンツに忍ばせた栓抜きで対戦相手を攻撃する、昭和を代表する悪役プロレスラーのタイガー・ジェット・シンである事は、オールドプロレスファンならずともご存知の方も多いのではないでしょうか。
我が甲南大学にも「甲南の狂虎」と團員達から密かに呼ばれた職員がおりました。仮にも大学職員でありますから、サーベルは持っておりませんでしたし、栓抜きで團員を殴打する事もございません。単に苗字が「シン」に似ているだけでそう呼ばれていたのですから、当の本人が一番、面食らっていた事でしょう。
大学の職員と言えば、その大学の卒業生が大半を占める学校が多い様ですが、何故か甲南大学はそうではありません。無論、OB・OG職員がいる事にはいますが多数を占めるという程は多くはありません。
このシン氏はその甲南出身の職員であり、且つ柔道部OBであった事から昭和40年代半ばより應援團の相談役的な地位に就いていました。当時は50名を数える様々な意味で元気な團員がおり、問題がなかった訳でもなかったので、お目付け役的な存在でございまして、シン氏が定年退職されるまでその職責を全うしました。
本家タイガー・ジェット・シンに似ていた所と言えば、突然、團室に乱入してくるところであります。我が團の規約及び日本国が定める各種法令並びに公序良俗の観点から申し上げれば、團室での「飲む・打つ・買う」は御法度でございます。
特に「飲む、打つ」はお手頃でありまして、昼過ぎにもなりますと、麻雀牌がロッカーから姿を現す事もままある訳であります。
流石に團室に全自動卓までは完備しておりませんので、手で麻雀牌をジャラジャラと掻き回す訳でござすが、意外にこの牌の音は響くものであります。以前にも書いた通り生協と同じ建物に團室がありますので、文房具なぞを買いに来たシン氏の耳に牌の音が入って参ります。
血相を変え團室に乱入するシン。果たして團室には咥え煙草に左手には缶ビール、右手には牌を持ち考え込む幹部の姿。
「こらー、お前ら!昼間から團室で博打とはどういうつもりや!」
とシン氏が吼えます。
「そもそも應援團というものは、我が校の発展の為に日々、粉骨砕身、精進し…」
とお得意の口上を述べながら卓に近づいて来ます。
「…であるが故に、應援團は…」
と一番、手前の席にいた團員の傍らに立ち視線を卓に落とし、首を傾げながら考えた様な顔になりまして、おもむろに
「お前、これポンや」
と有難いアドバイス。團員も心得たもので「よろしければ」と席をシン氏に譲ります。
「お前らに社会の厳しさを教える社会勉強や」とか何とか言いながら、暗くなるまで一心不乱に麻雀を打つシン氏でありました。
これからも度々、登場する人物かと思われますので、お見知りおきの程、お願い申し上げます。
八代目甲南大學應援團OB会
広報委員会