[[君の決心が本当に固いものなら、もうすでに希望の半分は実現してる。夢を実現するのだと強い決意こそが、何にもまして重要だということを忘れてはいけない(旧アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーン)]]



人は、絶望的な状況下から無限の可能性を信じて革新を夢見る。人とは行動を起こす生き物である(アンジェロ・ザウパー大尉)


旧世紀の時代、人は宇宙に進出することで人の革新を想像した。人類は、月そして火星に資源開発の旗の下、人や物資を送り込ませた。ある日、母なる地球の限界を知った人々は、平和と祈りを込めて地球を中心に人口宇宙都市スペース・コロニーを浮かべた。人の生活の営みなは、地球から宇宙へと世代交代を繰り返して、それが当たり前となって久しい。


スペース・ノイドは、サイド3・ジオン共和国の宗主ジオン・ズム・ダイクンの子息を否定するネオ・ジオン軍総帥スキゾ・フレニア大佐の出現で最終章の幕を開けた。フレニア大佐は、一部の首脳陣を煽り人類史上最も驚愕で常軌を逸した作戦を展開中であった。


人は、時に、酔狂する。


欧州から、アメリカから、アフリカから、アジアから、地球上のあらゆる大地から離れた高速の光が幾つも燃え尽きながら成層圏を越えた。見送る側は、地球全土で、白旗を高らかに掲げて胸を張り、正装して連邦軍に投降した。地球のジオン残存軍は、正式に武装解除された。これ以後のジオン軍は、連邦政府並びに連邦軍の間で旧ジオン軍をテロリストとして官報へ発行した。連邦軍に最も恐れられたモビル・スーツMS-06ザクは、一年戦争で量産された優れたジオン軍最高の名機と云われ、月面のジオニック社からの開発史で始まりジオン軍敗戦後、吸収合併されたアナハイム・エレクトロニクス社で改良と量産が加えられ続けてAMS-135クランケンハオスに至る。今、ザクの残骸は左腕を掲げて、手を空(宇宙)に向けて横たわる。故郷の月とその後方の祖国・サイド3ジオン共和国を探すかの様に。

轟音とはこの様な音を座すのかと言う常識外の音を巻き上げた。両軍睨み合いが続いた後の艦砲射撃…2連装のメガ粒子砲は、轟音に似せて、旧世紀に流行したオセロの様に軍艦を色分けされて、陣取りゲームを繰り返す。しかしこれは現実であり、轟音が放たれれば複数の人が死ぬ戦争である。ゲーム感覚でその現実に向き合う者は一人もいない。
ネオ・ジオン軍総帥スキゾ・フレニア大佐からレーザー通信後、別動隊の全権を委任されたヴィルヘルム・フォン・グスタフ司令は、同胞のジオン共和国軍艦隊との戦端を自らの手で発令しなくてはいけない状況に改めて自身の貧乏くじの強さを知らしめられた。ルウム戦役から「敗軍の将」との二つ名の下、一度として部隊の指揮経験をなしに戦乱を渡り歩いて来たグスタフ司令は、ムサカ級軽巡洋艦3番艦ブランデンブルクを座乗として、ついにその栄誉を「同胞殺しの司令官」として回って来た。グスタフ司令が座乗する艦長クビロン・ハイム大佐は、6年前の第3次ネオ・ジオン戦争経験者であった。当時、テニスン・バケット大佐率いる艦隊のムサカ級副長を務めたベテランの船乗りであった。慣れない戦闘指揮官には持って付けの艦長であったが、同胞殺しの役回りを押し付けられないように、あくまでも司令の補佐として軍率を頑なに死守した。ブランデンブルクの下にはムサカ級4番艦ニーダーザクセン、エンドラ級軽巡洋艦第1番艦ヘッセン、同2番艦トライン・ベストファーレン、偽装貨物船第1番艦シュレジェン、同2番艦ダンチヒ、同3番艦プロイセン、同4番艦ボヘミアと全戦力9割が集結していた。戦場は、故郷サイド3の宙域…ジオンの旗の下に集結した最終地点がこの宙域とはあまりにも悲しい現実であった。兵士等は皆一様に動揺したが、シャア・アズナブルの亡霊…スキゾ・フレニア大佐に酔狂してジオン自治権返還の当日も士気は高く兵士等は機敏に動いた。グスタフ艦隊は艦砲射撃で弾幕を発射しつつモビル・スーツ隊を発進させた。ジオン共和国軍も同様にモビル・スーツ隊を展開させて、それぞれの想いが交錯する中戦場は拡大して行った。ネオ・ジオン軍の第一波及び第二波のMS部隊が、ジオン共和国軍艦隊中枢に打撃を加えて、その艦隊陣形が崩壊するのにはさほど時間を生じなかった。ベルリン旗艦艦隊防護を陣取るムサイ改は、ロートルとすらも云いがたい骨董品の軍艦も等しい。ジオン共和国艦隊のその大部分が「ジオン1週間記念日」に合わせて武装を赦されたパーティー艦で、戦場を知らない兵士等の実戦配備は無理があった。ジオン共和国の兵士は、実戦配備に一種の高揚を覚えたが、敗残軍隊とは言え歴戦のネオ・ジオン軍兵士からは赤子同然だった。モビル・スーツの性能如何に関わらず、ネオ・ジオン兵士は、戦場を知り尽くしていた。サイド3宙域の戦闘は想定外としても十二分に宇宙を駆る事は可能で、ジオン共和国兵士は、グリプス戦役以降「戦争の本質」を見失った群体の自衛軍に等しい。正にジオン共和国軍は「自治権の死守」を、祀り立て守り抜いてきた。ジオン軍はかつての共和国防衛隊相当に等しく組織内防衛の政治と軍隊は、ネオ・ジオン軍の思想とは、相容れない水と油そのもので、同胞殺しも本来本質的には異質であった。ジオン共和国軍艦隊のビーム砲は、幾線の駆け抜ける嵐を、押し留める事など到底できなかった。グスタフ艦隊から発せられた第1MS小隊が共和国旗艦ベルリンのブリッジ周辺に展開して、間もなく数分の時が流れると、第2小隊は銃口をベルリン旗艦艦隊の各砲座を射程に捉えて銃口から弾丸を撃ち込んだ。ムサイ改やチベ級重巡洋艦は、ネオ・ジオン軍に対して艦砲射撃で応戦するも虚しく戦場を熟知した相手方にすり抜けられる始末であった。計画的に各機体が分散して、砲座だけをピンポイントで破壊尽くした。第1MS小隊の戦闘隊長が旗艦ベルリンのブリッジに座乗して居るであろう艦長に対して降伏する様にモノアイカメラから発光信号を点滅した。「フレニア大佐指揮下へ投降せよ…全てのジオン共和国艦隊は、兵士諸君のネオ・ジオン軍として復帰することを渇望する…この命令は、艦隊司令ヴィルヘルム・フォン・グスタフ将軍の意思に基づいている…貴官からの返答を問う…応答がない場合は旗艦を撃墜する」ベルリンの艦橋窓越しに左手を沿えて、右手の銃口は威嚇姿勢をとった。クランケハオスの機体はバランスを保ち浮遊した。コクピットのパイロットは、投降してくれと心中で念じた。パイロットのヘルメットのバイザーには、後方でまだ砲撃が止まず味方機はロストするマーカーが点字パネルを幾つも点滅させた。味方殺しなんて一生の恥じだと誰もが感じつつ艦隊から発進した。ジオン共和国の密閉型スペース・コロニー群が全ての小隊が目視で辛うじて確認にする位置まで到達できたことに感謝して同様に故郷の土を踏めない虚しさが感情を複雑な感覚にした。ジオン共和国艦隊の司令が自身の司令と同様の無能でないことを祈りながら発光信号を繰り返した。旗艦ベルリンの艦長ハスラー大佐は、護衛のムサカ改やチベ級からの破損状況をオペレーターから随時受けていた。眼の前にMSの銃口を突き付けられながら、味方の艦隊陣形が崩れて後退しつつある現状報告を今しがた受けたばかりだった。ハスラー大佐は、グリプス戦役以降の艦隊司令を急遽打電されて考える猶予も与えられず命令を受領した。共和国艦隊の艦長候補は戦争を知らず時を重ねて来た。最低限度の戦闘訓練は例年に習い駐留連邦軍と共同艦隊戦と称して行われて来たが、いざこの様に同胞であったとしてもやはり戦争は、訓練とは違い思う様には展開しない事実を突きつけられた。ジオン軍に組み込まれた旧ネオ・ジオン軍生産の比較的新型機ギラ・ズール部隊ですら、乗り手の連度が低ければ跡形もなく真のネオ・ジオン軍ギラ・ズールに撃破されてしまう。ハスラー大佐は眼を閉じ静かに一呼吸して副長のヘクトルに声を掛けた「副長…兵士は皆若い…戦争を知らない子供と一緒だ…できれば私は『皆を帰還させたい』…私の一存ではこの一言が限界だ…ネオ・ジオン軍の指揮下に編入するつもりはないが…貴官の意見を訊きたい」ハスラー大佐は、副長にジオン軍人として生き抜いてきた友の様な感覚で応えを求めた。副長は「艦長…いえ司令…私は、意見できる立場ではありません…しかし、若者たちがこの様な戦場で亡くなって行くことにはあまりにも残酷です…私は、司令の意見に同調します」と告げて副長は、艦長に踵(きびす)を返すと、ハスラーは、「全艦隊にレーザー通信…その場で生き残りの艦は発砲を控えつつ、生き残りの各艦の砲筒を上げろ」とオペレーターに対して命令を発した。降伏の証であった。ジオン共和国艦隊は、呆気ないほどに完敗した。グスタフ艦隊は、護衛艦をすり抜けてMS部隊に守られながら、旗艦ベルリンに接近しつつあった。グスタフ将軍は、ルウム戦役から敗軍の将の二つ名を返上した瞬間だった。ジオン共和国艦隊の弱体化にグスタフは救われた格好となった。旗艦同士がランデーブーする格好になった状況で共和国艦隊の一隻が急速に接近して、宇宙(そら)の会所属であることをグスタフ艦隊とジオン共和国艦隊に宣言した。チベ級重巡洋艦は、両旗艦にランチ挺を送り込み事の真相が詳細に伝達された。ラー・カイラムの艦橋で、オペレーターと話し終えた副長レーゲン・ハムサット中佐が「ジオン共和国艦隊の動きが妙です」と神妙な顔をして、艦長のブライト・ノア大佐に投げ掛けた。地球連邦総軍司令として半日が過ぎ様としていた。ジオン共和国の自治権返還式典で起きた一連の戦闘にかつて、反地球連邦組織エゥーゴの同士クワトロ・バジーナの顔をぼんやりと浮かべた。シャアは、まだ仕掛けるつもりだなと忖度した所で、ブリッジの大型モニターにレーザー通信ではない非回線が割り込んで来た。モニターは、かつてホワイトベースパイロットでフリージャーナリストのカイ・シデンの顔が投影された。


ぶっきらぼうに「ブライト。外じゃ、ネオ・ジオンの連中がどんぱちやらかしてるらしいな…こっちに情報が随時漏れ出してるぜ。式典参列の市民は怯えた顔してるよ…プレスセンターは、公には発表していないが、情報統制が崩れるのは時間の問題だろう」とカイは、式典中の現状を素早く応えた。ブライトはジオン、地球連邦軍共に情報統制が強化されてる中で、どの様な方法を使い旗艦ラー・カイラムと接触をしてきたのか気になったが、その気持ちは抑えて別の答えを素早く話した「カイ!お前も式典に参列してたのか?お前らしいフリーの特権ってやつか?特権次いでに、すまんが頼まれてもらいたい…俺は、足留めを食らって動けない…毎回ムチャな頼みだが、コリニー議長の動向を探って欲しい」ブライト大佐は、今後の展開を予測しきれないでいた。カイは、「ブライト艦長のお願いとならば致し方ないね…少し時間を欲しいチャネル5を確保してくれ…また連絡する」と、カイは、含み笑いを保ち右手を敬礼した仕草を見せて、モニターから消えた。艦橋中のオペレーターは、ブライトとカイの不意なコンビネーションに穏やかな気持ちを覚えた。かつて、そして今もガンダム部隊の艦長であることが艦橋中を暖かく包んだ。

スペース・コロニー38番地ケーニヒスベルク中でスキゾ・フレニア大佐自ら指揮する近衛MS戦隊の模擬戦を繰り返しながら、旗艦ブラームスは何事もなくゆっくりと反対側の港口に着岸しようとしていた。フレニアが駆るMSN-00iインテルニストはかつてのシナンジュを彷彿させる赤色機体を輝かせながら、ペイント弾を素早く近衛戦隊の各機体へ撃ち込んだ。反撃の機会すら与えずインテルニストは、火力と機動性を機敏に繰り返して、ジェネレータは猛烈な唸り声を上げてスラスターを加速した。インルニストは、敵を誘うかの様に縦横無尽に駆け抜けた。フレニアは、一言「遅い!」と発すると、インテルニストの随伴機である近衛戦隊の3機をペイント弾で塗り潰した。近衛戦隊の隊長を預かるゼクスト大尉のAMS-135Kアポテーケは、もろに、赤色のペイント弾を頭部と腹部に浴びた。実戦であったら爆破されている。ゼクスト大尉は身震いして「さすがです。フレニア大佐」と絶句した。3番機の戦隊員アンダーソン少尉と2番機のAMS129ギラ・ズールは、急旋回してインルニストの背後に回り込んだが秒殺された。セルム中尉は思わず「通常の3倍は超えてるのでは!?」と呻いた。フレニアの長い銀髪がやや漂い仮面下を伺うことはできない。360度オールビューモニター(全天視界パネル)のリニアシートに収まるフレニアは近衛戦隊員一同をパネルに転送させた。フレニアは、「君たちはまだ若い…実戦の経験を積めば…私と変わらない動きはできる…私は、ニュータイプではないのだ…実戦は近い。この模擬戦から何かしら学んで欲しい。若さは武器である…己れを信じることだ…レウルーラが着岸するまで継続する」といい切ると近衛戦隊のパイロット一同は、「ハッ」と一言応えて、フレニアは散開を促した。各機体は模擬戦に再突入して行った。ゼクスト大尉は、不意にアンダーソン少尉へ回線を開いた。「アンダーソン少尉…今のフレニア大佐の声…初めノイズ混じりだったが…なんだかガトー少佐の声に似てなかったか!?」と、囁く様な声で伝えると「え?そうでしょうか…でも、そうですね」と、応答が来た。彼らは、デラーズフリートの生き残りでガトー指揮下で参戦した。レウルーラの一部上級要員の中でスキゾ・フレニア大佐は、ソロモンの悪夢と讃えられたアナベル・ガトー少佐なのではないかと噂が蔓延しつつあることに信じたい衝動を刈られた。インテルニストが上昇すると、セルム中尉のギラ・ズールがそれを追った。ゼクストとアンダーソンも続けと加速して行った。
濃緑色の旗艦ブラームス艦長は、ほぼ危険を回避できたことに安堵しあていた。ゼクストの機体がバランスを崩して不時着する様なアクシデントはあったが、エルザスが入港してる港はあと僅かであった。副長は、オペレーターに港の外周で待機中のロートリンゲンに合流近しとの伝達した。

サイド3・ジオン共和国(ズム・シティー)を中心にロンド・ベルとネオ・ジオン艦隊そして、ジオン共和国艦隊が戦端を開いて以降、各連邦の艦隊がやや後方に下がった艦隊の一つで、月面軌道艦隊の補給部隊として参加中のコロンブス級Ⅲアカギの挺長代行キリュー大尉は、ノーマルスーツを着用して艦橋オペレーターに補給と物資の積み込み状況の確認を求めた。アカギの要員は挺長代行をはじめ全乗組員が女性でかつ旧アジア・中東・アフリカ系として構成されていると云う珍しい混成艦艇だった。中央オペレーター担当通信班長カネヤマ軍曹は、自身のパネルに写る表示を見ながら「補給物資は順調に搬送中とのことです」と応答して、左舷担当後方索敵班員のリー曹長は「弾薬補給に若干の遅れがあります」と、右舷担当索敵班長のウォン曹長は「先ほど…また、月面軌道艦隊旗艦ユリウスから新型MSの搬入を急ぐ様催促の打電です」と嘆息混じりの報告を上げた。副長兼操舵手バイパー中尉は「総じて、順調」と一言洩らした。艦橋中心の挺長席横に若い連邦軍のパイロットは身体を窓越しにバイザーの顔を当てて物資がサラミス級改インパールに供給されて行く様を見上げていた。アカギの輸送隊員が、ノーマル・スーツを纏い幾人も誘導灯を持ちケーブルにドッキングさせて、推進剤を供給できる態勢を調えた。キリュー挺長代行は、座席の前に手にしたタブレット端末機を横に追いやり、子供を呼ぶ様な柔らかな声で「ノア君」と一言声を掛けた。呼ばれた連邦軍のパイロットは補給の光景に夢中で気付かない。バイパー副長は声を張り上げた「ノア准尉!」と。ノア准尉は左襟の記章が准尉を指す士官学校候補生である様に半回転して見える様に、思わず慌てて「ハイ」と再敬礼を返した。艦橋は彼の反応に茶目っ気があると、思わず笑顔が溢れた。キリュー代行は「貴官は、連邦軍を慣れてると聞いていますよ…珍しい?補給部隊の光景は?」と少し悩ましい声を掛けた。ノアを名乗る士官候補生は、「最近まで地球暮らしだったのでつい見とれてしまいました…アカギが軍艦であること忘れました」と背筋を再び伸ばした。またザワりと笑顔が洩れた。キリュー代行は話しを次いで「貴方、シャアの反乱の英雄と云う噂ださそうね…当時や現在も連邦軍広報局は、貴方を毎回広報の一面に取り上げてるわ…確かロンド・ベル隊司令ブライト・ノア大佐のご子息…なぜこんな後方にいるのかしら?本来ならお父上を補佐してるのではないの?」と問いを重ねた。ハサウェイ准尉は、「英雄だなんて…全部偶然なんです…たまたま生き残っただけなんです」と静かに話題を反らそうとした。索敵班長ウォン曹長は、ノア准尉に興味があるらしく「初めて操縦したジェガンは、敵のモビルアーマーを撃破して、アクシズショクで敵味方が混戦してる中で無傷の帰還…本当にドラマチックね」と手振りを加えたウォン曹長の熱は上がると後方索敵班リー曹長も「ロンド・ベルって云ったら敵味方関係なくニュータイプ部隊とかガンダム部隊なんて言われてるわよね!?ノア准尉もニュータイプとか?」艦橋内ではしゃぎ始めた所で、キリュー代行はクルーを勇めた。ハサウェイ准尉は「僕はロンド・ベルの艦長ブライト・ノアの息子以外には何もありません」と事の話しに終止符を打った。艦橋が落ち着き取り戻すとキリュー代行は、ハサウェイに対して貨物ブロックに降りる様に促した。キリュー代行が副長のバイパーに艦橋を任せた。アカギは決して広いスペースはないが多くの物資と貨物ブロックをその外周に積んで三機態勢で、月面軌道艦隊の輸送に駆け付けた。ジオン共和国直近での急遽の戦闘でとかく各艦隊は、も武器弾薬の不足は顕著だった。キリュー代行とハサウェイ准尉が廊下横のグリップを握ってエレベーターまで身体を流す間にハサウェイ准尉に掛けた言葉は以外だった。「私は貴方が英雄史されてる事やモビル・スーツの撃破とかに興味はないわ…貴方がかすり傷なしで生き残った事実。そこに生き抜ける力の魅力を感じてる」と話し終えた所でグリップを離すとエレベーターで下方に降りた。エレベーターの出入口が開放されると弾薬や補給物資が梱包を解き放ち艦内をふわりと浮かばせていた。アカギの左右の側面は開放されて鎮座するサラミス級改インパールと同コヒマに推進剤を供給中だ。キリューは、ハサウェイを一番後方のブロックに誘導を促すと照明の電源を入れて光を交差させた。明らかにモビル・スーツらしき機体が横になっていた。キリューは「アナハイムエレクトロニクス(AE社)制新規モビル・スーツ計画の一環で、ブッホ・エアロダイナミック社が、非公式ルートで請け負う形となったけど…形式番号は仮称『RX-101』は、アナハイムの旧ジオニック系と新興企業連合体の技術者たちが中心に、既存のパーツを幾つか組み合わせて建造されたらしいわ」ハサウェイ准尉は交差する光の中心を照らすMSの顔を見上げて、「AEらしからぬ顔だちですね…そうか途中から引き継いだ訳ですもんね…それで代行は僕にどうして新型のMSを見せるのですか?」と尋ねるとキリューは、笑みを見せて「乗ってみる!?」と意表を突かれた言葉を振られてハサウェイは「えへっ!?」と咳き込んでしまった。畳み掛ける様に言葉を紡いで「準備はできてるわ!この新型のテストトライアルは終了してると報告書は受けてるし、専用の武器は内装兵器しかないけど、万が一の為にインパールとコヒマから随伴機を1機ずつ出す手配になってるの僚機伴にP(プロペラント)タンクを装備してるから貴方に追い付けるわ。貴方は、この宙域から脱出する事だけを考えて、ポイント7で友軍が貴方たちを待ってるから、ユリウスの方で妨害があったとしても動きを止めず先攻し…」と、ハサウェイがさすがに混乱した仕草で言葉を遮った。ハサウェイが両手を交差するの仕草をみせると「ちょっと待って下さい!僕はあくまでも士官学校の実技テストを受けるべく乗船の許可を頂いただけで、実戦と云うか脱走!?等は少しも考えたことはありません。軍率違反です…僕は艦橋に戻らせて頂きます」と言い切ると身体を背にした。しかしその瞬間、背に違和感を感じた「准尉ごめんなさい…こんなことしたくないけど…乗って貰わないと困るの!」とキリューは素早く左足を上げて装着されたフォルスターから98式拳銃を抜いて、銃口をハサウェイ准尉に向けた。左足を上げた状態で身体をハサウェイに身体を預けた。右手の人差し指を軽くトリガーに当て、左手は、その銃身を支える為に右手の拳銃の腹にそっと添えた。98式拳銃を背に押し付けた格好だ。
キリューは「撃たせないでね。黙ってコクピットに入って貰えないかしら?」ハサウェイは生唾を飲み込んだ。
サラミス級改インパールのMSデッキに待機姿勢で待つRGM-89Deジェガンのパイロット軍曹テリー・サンダースは「また貧乏くじを引いたか!?」と内心揺れていた。サンダースだけが発艦信号を待つ姿勢だった。キリューは、98式拳銃を背中に押しあてながら半ば強引にコクピットハッチへ流れた。ハサウェイは勢いでコクピット内に収まり、その勢いでキリューはコクピットハッチを外側から閉じてキーロックを掛けた。内側からでは開けられない暗証認証を手早く打ち込み機体を蹴って、その場を去った。ハサウェイは、抵抗を仕様と思えばできるだけの能力を持っていたがあえて封印した。姿勢を整えてシートに身体を収めた。半分諦めた境地に刈られながらコクピット周りの動力スイッチ確認してモビル・スーツに命を吹き込んだ。コクピットの360度(全天視界オールビューモニター)が擬似的な浮遊空間を生むと左右からスライドしたパネルが重なり、ディスプレイが起動した。左右のグリップを握りつつ、ディスプレイの点滅に眼を細めるとポイント7まではオートメーションシステムと表記されていた。ノアは当面シートに座ってるだけかと心中で想うと後頭部から昔懐かしいと聞いた覚えのある声が響いた。「ハサ、貴方またモビル・スーツに乗るのね?昔した様なこと誰かにしたら私本当に浮かばれないから。」ほんの一瞬後頭部から聴覚に入った感覚だった。更にコクピット内が光輝き前頭部で二人の男の声が語らう。「君はパイロットになって欲しくなかったな」次の声は「ブライトの子だ…やり遂げるさ」と、光は急速に輝きを失い何事もなかったかの様に消えた。ハサウェイは過去の思いが甦り少し身体を丸めた。苦しい胸の内をえぐられた形だ。「クエス…シァア…アムロさん」と、声にのもならない声を呟いて、再姿勢を保つと「ハサウェイ・ノア、出ます」と発した。RX101の再チェクに眼を向けた。瞳にほんの少し涙を溜めていた。駆動音が鳴りその響きは艦内を共鳴する。艦橋オペレーター等を含むアカギ要員は確かに宇宙空間で揺れを感じた。メインジェネレータが発動して、各胸部や大腿部や腕部等から光が漏れた。艦内照明の光が交錯しつつRX-101のメインカメラの光も反射した。モビル・スーツが生まれた瞬間だった。RX-101の背中に小さなランドセル型のバックパックと両足の脚部にそれぞれ同型のバックパックが張り出している。これによって三構造の簡易式スラスターを焚ける構造となっていた。ポイント7到達宙域までに随時落として行く。バリバリとコンテナを切り裂き、貨物ブロックから這い上がろとしていた。アカギの艦橋では非常警報が鳴り響き状況の把握にクルーは務めた。ハサウェイをRX-101に強引に搭乗させた張本人も艦橋に戻るまで通路に何度も叩きつけながら、艦橋右橋の扉にたどり着いて表情や仕草を演じつつも身体の痛みはあるので、演技は、真実味の度合いを増した。艦橋席の扉がスライドされるとキリューは何食わぬ顔して艦長席に流れて状況説明を求めた。索敵班のリー曹長は「下部後方の補給ブロックから高熱源体急速離脱を確認…艦長に指示求めます!」キリューは各補給部隊並びにインパールとコヒマに対して通達「我…原因不明の危機にあり…応援を呼応う。」サラミス級改インパールと同コヒマの各艦長が待機中のモビル・スーツに発進の命令を下した。サンダース軍曹は「こんな時に、奴を追えってことか…奴の行き先は、暗礁宙域じゃねぇ~だろうな~!?」と最後の言葉を飲み込んだ。RGM-89Deジェガンを発進させた。コヒマからも同型機の発進を確認しつつ推進剤のプレペラントタンクをフル活用して一気に加速した。インパールとコヒマ艦内では僚機のモビル・スーツ発進を知らされていないことに旗艦ユリウス等命令系統が混乱を起こしていた。サイド3の宙域から、月を挟んだ暗礁宙域に三体の物体が高速で放たれた。各機体内のパイロット等は、対G負荷に押しつぶれそうになりながらジオン共和国を後にした。随伴機のRGM-89Deジェガン背部に備えられた2基のプロペラントタンクを猛烈に燃焼させて、先行のモビル・スーツに追い付く様に加速を繰り返した。パイロットのサンダース軍曹は身体がきしむ音を感じながらリニアシートに押しつぶれまいと葛藤していた。左上部の同機体も時々機体を揺らしながら加速を繰り返した。三機体の遥か東方に別の三機体が密閉型スペース・コロニー群の間を避ける様にジオン共和国の首都1番地ズム・シティーの内壁に取り付け掛けた瞬間、モビル・アーマーから暗躍な光が洩れ出した。パイロットは「あんな場所に…隠れるつもり!?」と、叫び声を上げて機体をコロニーを背にしてスラスターを焚きつつ内装の武装を解き放った。ファンネルコンテナからファンネルミサイル16個が獣を追うかごとき走り抜けた。両袖口からは、両手にビームサーベルを引き出した。水先案内人たる宇宙(そら)の会所属の2体は、内壁の内外装を開いて袖付き残党軍のモビル・アーマーにモノアイの発光信号で侵入を促した。各二人のパイロットは、ファンネルミサイルの羽ばたきを見落とした。モビル・アーマーの両手に持たせたビームサーベルが輝きを増して内外装へと侵入した。モビル・アーマーのコクピット内は禍々しい光に満ち溢れていた。パイロットマユコ・カレルギー・クーデーホーフ太尉の後頭部から浮かぶ背景に怒りと哀しみが交差して、その眼光は鋭さを増した。マユコ大尉は一言「パパ…ママごめんなさい…帰ったよ」と両眼の涙の雫がバイザー内を浮かべた。

ジオン軍第3種兵装を纏い強面の男達が路上近辺を、軍靴の音を響かせて駆け巡る。片手にはジオン共和国制式の小銃を持ち、腰のバックルには拳銃を携えて、戦車大隊を中心に装甲車部隊は、機関銃を備えたジオン軍が、各軍管区の司令書に基づいて『ワルキューレ作戦』発動の真っ只中にあった。首都の第1番地ズム・シティーは、首相官邸や共和国議会議事堂それに外務省や内務省等政府機能の中心を真っ先に制圧下に置いたが、その中心市街地はまだまだ人員不足で当初の制圧部隊の展開が顕著だった。しかし、機敏に対応できた事は宇宙(そら)の会の暗躍があって成立した。国防省が、ネオ・ジオンの臨時政府として樹立された。当面は、ダイクン党とザビ党から成る挙国一致内閣(暫定政府)を発足させた型だ。第2番地ランバは、『ワルキューレ作戦』の裏を返して、ジオン・ズム・ダイクンの遺児アルテイシア・ソム・ダイクンの密命を受けたスベロア・ジンネマン元大尉がジオンの共和国軍シンパの招きで、書状をマクシミリアン侯爵の下に受理された。ジンネマン元大尉の知るダイクン家唯一の貴族で由緒正しき歴史を持つ数少ないダイクン派の同士だった。アルテイシアの書状の事前開封を求めたマクシミリアン候爵は、長期間に渡りヘプナー一族を陰ながら支えた。書状に記された事項を知り、ジンネマン元大尉を伴いヘプナーの館(シュロス)に取り急ぎ何食わぬ顔で、私兵の義勇団の車列に守られながら、シュロスの衛兵は、開門に素早く応じた。事の展開等衛兵は、知らぬ存ぜぬだった。衛兵は、車列を大広間の車寄せに通した。かつて亡きジオン議長が求めたジオン共和国に倣(なら)い大広間は空間だけを追究した作りとなり、至って質素であったが威厳に満ちていた。
マクシミリアン候爵は、ジンネマン元大尉を伴って、今後の行動をアルテイシアの書状を基に動くことを確認した。マクシミリアン候爵は「行動を穏便に」と進言した。ヘプナーは、アルテイシアの真の目的を知り、ワルキューレ作戦の展開を思慮深く判断した。
ジオン決起軍が、守護するズム・シティーの国防省に挙国一致内閣(暫定政府)が発足して、暫定首相の演説準備に追われる中、首都機能の移転が想定より早く動いてる事はネオ・ジオン(袖付き残党軍)の懐柔が大きい。ジオン共和国は、親ネオ・ジオン(袖付き残党軍)派とロベルト政府派に分裂しつつあった。スキゾ・フレニア大佐は、ロベルト政府の無条件降伏と政府の機能停止、臨時政府(暫定政府)に首都機能の移行を突き付けた。
ロベルト首相等閣僚は、刻一刻と状況が変わる式典会場の1区画で、野戦指揮所を立ち上げた。錯綜する情報収集にヘルマー国防相と幕僚からジオン共和国軍の参謀総長と軍令部長が拘束された旨を先程知った事実に驚愕(きょうがく)した直後だったので、脅迫ともとれる行動に愕然とした。フレニア大佐貴下の王宮近衛戦隊は、模擬戦闘を終えて旗艦ブラームスに収用された。ブラームスは、38番地ケーニヒスベルクの内壁を航りきって、内港に待機中のムサカ級軽巡洋艦1番艦エルザスと合流して、外側港口は、同2番艦ロートリンゲンが係留ワイヤーを取り除く準備に掛かっていた。フレニア大佐と近衛戦隊同乗者は、ブラームスの艦橋の最高責任者足る艦長に一瞥(いちべつ)して、大型スクリーンに映るジオン共和国内外と、連邦軍、グスタフ艦隊とジオン共和国艦隊の動きを注意深く見つめていた。フレニア大佐が「フ。想定より早く事が進んでいるようだが…展開が気に入らんな。」ブラームスの艦長と副長が腕を組んだフレニア大佐を見つめた。フレニア大佐は、大型スクリーンから顔を逸らさず銀色の仮面が輝いた。近衛戦隊長ゼクスト大尉が、フレニア大佐に歩みよろうと仕掛けた。不意にアンダーソン少尉が、ゼクストの腕を掴みその一瞬の真意を読み取った。
ゼクストがアンダーソンの手を振り払いフレニア大佐に意見がある旨をを発した。
フレニア大佐は「構わん。話してみたまえ」とゼクスト大尉に促した。合い対する格好となったゼクストは、自らを含めアンダーソン他に数十人のグループが抱いてた問いを投げ掛けた。ゼクストは「大佐。ソロモンの悪夢と云う異名を持つ軍人を知ってますか?連邦軍の現代戦記すら載っています。アナベル・ガトー少佐と云う方です。大佐はその…ガトー少佐ではないのでは在りませんか!?」フレニア大佐は、無言を通す。ゼクストが続けて「ガトー少佐貴下で駆け抜けた宇宙(そら)の生き残りは士官候補生と残り僅かの学徒だけになりました。しかし仮にガトー少佐が御健在であれば亡きデラーズ閣下もきっとお喜びの筈です!ジオンの中興を再び胸に誓い僅かな兵力でもきっとネオ・ジオンの中枢を支え死をも恐れぬ覚悟で…。」フレニアが笑みを浮かべ始めた。銀色の仮面の下が唯一露出している。フレニア大佐が返答した。「ジオン宇宙突撃軍所属アナベル・ガトー少佐、。私も知る人物だ…彼は、パイロット気質がある。無論私もそうだ…が、彼の再来で国を統治できるのかな?」と微笑した。ゼクストはアンダーソンに振り返した。視かねたアンダーソンは「ガトー少佐は、政治とは無縁の方でした。大佐に失礼な発言の数々申し訳ありません」と二人は深々と頭をたれた。フレニアは「気をやむことはない…私もできれば政治とは無関係で在りたい。しかしスペース・ノイドの求めに応じるのが統率者の宿命だ。君たちの真の意味で、上官でないことをすまないと思っている。その上で、君たちの上官である様に努力しよう。いいかな?」ゼクストとアンダーソンは「ハッ!」と敬礼を返した。一歩後ろで控える格好となったセルム中尉もやや眼が伏し目がちになっていた。フレニアが「良い機会だ。君からも意見を聞こう。」セルムが今度は問い掛ける「フレニア大佐…大佐は本当にシャア・アズナブルなのですか?艦内で噂が広まっています。大佐はシャアであることを否定したと…。」フレニアは「ほ~。」とため息を洩らした。フレニアは「セルム中尉…もし、私がシャア・アズナブルではなかったとしたら、君はどうする?ゼクスト等諸君が求めたガトー少佐でもなかったら?君たちは私を何者だと思い信じてここまで来た?」三人は忠誠心を試されてるのかと自身に問い掛けた。三人が目配せしながらフレニアは再び大型モニターに一通り眼を走らせた。銀色の仮面の眼鏡レンズが一瞬、赤色から青色に変わるのを艦長は見逃さなかった。艦長はセルムの噂を流した張本人であって、動揺がバレない様に意識しつつ、フレニアの行動を注意深く見つめた。フレニアの脳裏には一人の女性が現れていた。フレニアの意識はその女性に惹かれて、ほんの瞬間的に手足を硬直化させられる様な感覚に囚われた。女性が語る「貴方が偽者だと云うことを知ってるのよ。私のシャア大佐は胸の中で眠ってるわ…貴方は大佐の格好をしたコピーなの…昔も、そして今も…貴方の戻るべき…愛する女性の基に戻ることが、この必要のない争いを終息させる最善の策なのに…貴方はまだ漂うの?」眼鏡レンズが赤色に戻ると立ち眩みの症状を起こしたフレニアは副長の肩に凭(もた)れ掛け膝を曲げた。艦長、副長を始め近衛戦隊一堂が駆け寄ったが、フレニア大佐は「すまん…大丈夫だ…」と発した。オペレーター員は基本的にディスプレイと、睨み合いなので状況を理解できなかった。フレニア大佐は、脳裏に浮かんだ女性をララァ・スンと認識して「私の頭の中で遊ぶのは止めろ」と意識を集中させた。ララァはまだ何か言いたそうな雰囲気を保ちながらフレニアの意識から消えた。フレニアは、ララァ・スン…遠の昔に置いて来た記憶だと思っていたのだがと内心甘く捉えた自身を恥じた。フレニアは艦橋内の搭乗員に伝えたい事がある旨を艦長に伝えた。艦長は、肘掛けのパネルを何度か押して、全艦放送準備良しのサインを出した。フレニア大佐言葉を発した「全艦内の乗員に改めて伝えておきたいことがある。私は、シャア・アズナブルではないと伝えておきたい。この真実にショックを受ける搭乗員もいるであろうが、それでも聞いてもらいたい…私がシャアでないことをこのレウルーラに乗船する際、一部の高官等に伝えていた。艦内は、シャアの亡霊を信じ続ける者が多いと瞬間的に読み取れたからだ。シャアでない者を乗船して何とする!?そんな空気が漂い凍る事は避けたかったが、真っ先に兵士諸君に話べきことであった。では、私が何者か?乗組員の関心事であろう…私の名はキャスバル・レム・ダイクン。かつてジオン共和国の宗主ジオン・ズム・ダイクンの嫡子だ。私はそれを真のジオン共和国建国宣言で言う勇気がなかった。ネオ・ジオンが一枚岩ではないことを承知しているからである。であればこそ、今以上に、その事実を隠し通すのは私の本意ではない。私、キャスバルがネオ・ジオンを率いてジオンの自治権を確立させることを改めてここに宣言する。そして、その暁には全軍に美酒を振る舞いたい。私は、現時点を持って、最終作戦を実行する。諸君の一層の奮起に期待する」キャスバルの声が消えて、艦内が静まると、艦長が代わって、全艦内の乗組員に対して「キャスバル様のお声を聞いたな?ジオン・ズム・ダイクンの遺児が座乗する旗艦ブラームスは、エルザスとロートリンゲンの中央に付くいよいよ戦闘開始だ。必ずキャスバル様の期待に応えて帰還せよ、以上だ」艦内放送が終了すると艦内の搭乗員は、それぞれの持ち場に戻り出した。しかし、将校や士官は、ダイクン家遺児の再来を、にわかにわか信じがたくブラームスの艦内は、ダイクン家を信奉する将校とザビ家の再興を信じる士官やソロモン派、ローゼン派の各グループ等の連絡員が艦内の部屋を勝手に抑えて兵士等を閉め出して武装した歩哨を扉の前に立たせた。内部では戦略会議と称し開催を決行した。影の実力者テニスン・バケット中将も珍しく参列し、中央の椅子に着席した。テニスンらしく威圧感を示して、その脇には、グスタフ将軍の副官が若く中尉の袖章が寄せ集めの軍隊の体裁を示してる事に、テニスン将軍の頭に6年前の惨敗が掠めた。テニスンの参列が影響してるのだろうか重々しい空気が滞留していた。開戦後、事実上ネオ・ジオン(袖付き残党)軍主要メンバーが集まって戦略会議は、開催されようとしていた。
先ず会議進行係を、テニスン将軍の副官が任命されて会議が始まった。議題が幾つかある旨を全会一致で了承された。
第一項:ジオン共和国の自治権存続の可否。
第二項:我々(ネオ・ジオン)存続の可否。
第三項:我々軍民の自由で公正な移住権の可否。
第四項:地球連邦政府と和平交渉の可否。
第五項:キャスバル・レム・ダイクンの生存を認めて、我々の総帥とする可否。
五項目が各列席する将校や士官のテーブル前に素早く配布された。其々が項目内容を手に取り、改めて眼を通した。ダイクン家を信奉する将校にとっては、キャスバル様が先ほど、生存を認める放送をしたことで、議題にするとはなん足る不埒(ふらち)な事と屈辱に耐えて怒り浸透だった。
ザビ家の再興を信じる士官連は、6年前ミネバ・ラオ・ザビ女王殿下の存在が公になった事実が既にザビ家存続は、今後も可能と確信して、議題に取り上げない進行係を睨み付けた。ソロモン派グループは、キャスバルから直接ガトーではない真実を知り沈黙を続ける。一方で、袖付き残党軍を率いて来たローゼン派士官連は、アンジェロ少佐の存在すら無視する様な戦略会議は、正統性に欠けると密かにローゼン派下士官や兵士等を動員して会議続行の阻止を企てた。今まで好き放題シャアの亡霊に取り付かれた艦内の将校や士官の眼を冷ます絶好の気会と捉えていた。会議冒頭に当たり進行係が、テニスン将軍から世辞を求めた。出席者一堂が、アースノイドの様な戯れ言を求めたテニスンの腰巾着の程度の低さに嘲笑った。テニスン将軍がまんざらでもない様子な仕草をすると、テーブル中央の3次元モニターパネルがせり上がり、それを視認した士官が反射的に着席していた将校や士官に起立を繋がした。立体的な映像を360度方向から視認できるブラームスの艦橋内の映像が投影された。艦長席の隣に立つ後ろ姿の男は、先ほど艦内に放送したキャスバル・ダイクンだ。キャスバルの近衛戦隊員は、隊長を含め全員がモニターに顔を向けていた。艦橋のオペレーターは、副長の指示に従いエルザスとロートリンゲン艦橋に発光信号の命令を発していた。キャスバルは、少し顔を横に向けたが、銀色の仮面からその様相を伺い知れるとことはなかった。キャスバルは「私も会議に参加したいのだが…どうだろう?」背中越しにポツリと呟いた。会議参加者が一堂にざわめくと、ダイクン家信奉派とソロモン派グループの両派は、異議なしの主張表した。ザビ家再興派とローゼン派は沈黙して、テニスンがキャスバル参加のを異議を唱えた。「キャスバル様の動きを見る限り、我々一堂と同じ方向に向いている様には、私は到底思えませんが?本音はどのようなものなのでしょうか?」ルウム戦域から一連の戦闘に戦列する歴戦の将軍とは云え、最高司令官のキャスバルに物を云える立場ではなかったが、影の最高責任者足る故に発した問いだった。会議のメンバー等は、生唾を飲み込みキャスバルの赤色の眼鏡レンズを注視した。近衛戦隊長のゼクスト大尉が「無礼だぞ!」とスクリーンに割って出た。ゼクストを始め近衛戦隊一堂も先程までテニスンと同様な意見を連発していたので隊員のアンダーソンとセルムは沈黙した。キャスバルが「ゼクスト、構わん…将軍は意見を述べる権利がある」と下がらせて、スクリーン越しにテニスンと相対する格好になる。「現在、地球では連邦議会が開院している…相変わらずスペースノイドを無視した愚作法案が連邦議会に緊急上程されたとのことだ。私は、連邦政府とその連邦議会共々目掛けて、コロニーを落とし作戦を実行中である。既にコロニーの外部エンジンに取り付け作業は終了して、点火はカウントダウンに入った。現在の連邦体制は全て一蹴する。それが私の結論だ…真のジオン共和国の宣言と共に、連邦政府の解体…これが私の大義である。」モニターの艦橋一堂とテニスン側の一堂が一瞬凍り付いた。テニスンが、席から一歩下がると「貴君は売国どだ!?」と発した瞬間、乾いた音が部屋一面に反響した。テニスンの身体から赤色の血が流れた。テニスン将軍の左胸からおびただしく血液が流れた。テニスンは痛みを感じる間もなくその場に倒れた。グスタフ将軍貴下の副官若手中尉が拳銃の引き金を引いた。弾丸はテニスンの左胸を貫通した。その音に反応したのか偶然か、会議場の各ドアを蹴り破る音が響き圧倒的な早さで兵士等が流れ込んで、武装したMP(憲兵隊)に室内を取り囲まれた。MPは、派閥等の発言をお構いなしに「その場で全員両手を上げるろ!」とMPたちは結束バンドでメンバーを後ろ手に縛り一網打尽に連行された。
艦橋内の艦長や副長それに近衛戦隊一堂は、キャスバルの銀色仮面の冷徹さに熱を感じた。見方も時には敵にする圧倒的な存在感に屈服した瞬間だった。スクリーン内のキャスバルがテニスン将軍に賛同した将校はえいそうに入ってもらう。士官それに下士官はそれぞれの立場で判断してもらって構わない。軍隊は民主主義ではないが今回の一件に限り選択肢を与える。私とジオンの再興の為にもう一度手を組む者は、無条件で戦列に復帰したまえ。きみ達の階級も保障しよう。また、下船したい者がいるのであればそれも赦す。ゼクスト大尉に申し出たまえ。ゼクスト一任したぞ。事が完全に終わるまでは丁重に扱え。」と告げるとスクリーンは消えた。ゼクストが急な命令を一任された型となったが、会議室内の分隊に対して「各人身の振り方を素早く検討せよ」と命令した。